第17話 「希望は絶望か」
俺は今、ノアの町の大通りを歩いている。
日が昇り、もうすっかり朝になった。
道端には様々な屋台があり、地元の商人や旅の商人、イスラム商人などが競って店を開く。
ここノアの町ではよそ者ばかりだ。
みんながみんな、それぞれの野望を持ってここに集まる。
ノアの町は美しい。
大通りからはどこをみても人間や亜人どもで賑わっている。
よそ者はノアの町の汚い部分を知らない。
俺は知っている。
町の裏側はスラム街だ。
一攫千金を狙ったギャンブル狂、大金に憧れ夢見た商人、借金とクソにまみれた異邦人。
どいつもこいつもノアの町で失敗したクズ共だ。
俺はムガロを背負いながら宿屋へと向かう。
石畳の道を歩きながら目的の宿屋を目指す。
30分ほど歩いたあと、やっと思いで見慣れた看板を見つけた。
少年はその宿の扉のドアノブを躊躇せず回した。。
ここは、俺がノアの町にいた頃によくお世話になった宿屋だ。
チリンッ
懐かしい扉を開けると、仕掛けられていた鈴が鳴る。
そして、懐かしい人物がカウンターにいることに気づいた。
「何用ですかいお客人」
「部屋を一つ貸してくれ」
「・・・・」
亭主の質問に答えると、彼は驚いたような顔をした。
「あ…!お前、あん時のガキだろ!?」
「・・・・」
何で分かったんだ?
俺の姿はヒバナに変えられたんだぞ?
前の姿の面影は微塵もないはずなのに。
「今までずっと何をしていたんだ!」
「ここ一年姿を見せずによお!!」
「・・・・」
俺は驚きを隠せなかった。
どう反応すればいいのか分からない。
ただ突っ立っていただけだった。
亭主は慌てたようにカウンターから出て俺の両肩を掴む。
俺は少しビックリする。
「他の奴らはどうした!?」
「なんで一緒にいないんだ!!?」
俺はその言葉に絶句する。
「・・・・」
「あいつらとは、もう会ってねえ」
俺の言葉に亭主は寂しそうな顔をした。
「そうか…」
「ま、お前の顔を見れて良かったよ」
「ああそれで、そいつは誰なんだ?」
亭主は俺の背中にいるムガロを指差す。
「見りゃ分かるだろ?女だ」
「あ、はい、私女です」
「へえ、そうかい」
亭主はカウンターに肘をかけた。
「で、薬草でも売りに来たかクソガキ」
「今回は違う、さっき言ったろ?泊まりに来たんだ」
「ふ〜ん、あのスカンピンのガキがねえ」
「もう俺はスカンピンじゃねえ」
そう言って俺は金を出す。
亭主はそれに感慨深いものがあるようで、俺が出した金を渋々といった感じで受け取る。
俺は部屋を一つだけ借りた。
一つしか無いベットをムガロが使い、俺は床で眠った。
屋根があるだけで良かった。
それから充分に睡眠をとったあと、腰と背中の痛みとともに俺は目を覚ました。
床で寝るもんじゃねえな。
窓から外を見れば、午後4時頃だと分かった。
俺はムガロを置いていって宿屋から外に出た。
ガルムの家に向かう。
数十分ほど歩いて目的地に到着した。
俺は久しぶりに見るガルムの家を懐かしむ。
家の入り口の前に立ち、ドアを叩いてノックする。
少しの間、沈黙は続いた。
やがて、家の中から物音が聞こえ人の気配を確認する。
突然扉が開いた。
この家の住民が姿を表す。
しかし、目の前の人物は俺の求めていたものとは違った。
出てきた人物は知らない人だった。
俺の知っている家に、俺の知らない人がいて、俺の知らない顔のやつが喋る。
「え〜と…何用ですか?」
「・・・・」
「あ、え…え?」
マキさんはいなかった。
俺はショックだ。
しばらく落ち込んだようにトボトボと細い道を歩く。
アジトへは行かなかった。
今の俺には、懐かしむ余裕すらなかった。
夜になり、ムガロと一緒に繁華街を歩いた。
ノアの町は毎日お祭りのように賑わっている。
色んなところから美味しそうな香りが漂っていた。
右を見ればピエロが踊っている。
左を見れば巨大なワニの解体ショウ。
道中でムガロはリンゴ飴を買った。
俺は串焼きの肉を買った。
俺たちは食べ歩きをしながらレストランを目指す。
気がつけば、俺がよく知らない道を歩いていた。
「おいムガロ、道合ってんのか?」
「回り道でも私が歩けば正解…」
「・・・・」
「迷ってるだろお前…」
ムガロは無言で歩き続けた。
俺は仕方なくムガロについていく。
俺も道が分からないのだ。
無数の建物がこの道の両端を塞いでいた。
この細い道沿いに建てられているいくつかの建造物の壁に、古いポスターの様なものがいくつか貼られていた。
俺は歩きながら、なんとなくそのポスターの内容を見る。
『親父ギャグに60回耐えた家_不動産』
『このクソったれな世の中に中指を立てよう_市民選挙』
どのポスターもふざけてやがる。
そう思いながら俺たちはひたすら歩いた。
なんとか大きな道に出る。
道の端には多くの屋台が賑わっていた。
その景色は、日本の祭りの様子に少し似ていた。
ムガロはあちこちの屋台をキョロキョロと観察していた。
途中でムガロは投げ輪をしたいと言い出した。
俺は仕方なくそれに付き合う。
「おいおっさん、それやらしてくれ」
「あいよ、400ポンドだ」
俺はそれを聞いてノーマル硬貨一枚を渡す。
ムガロはおっさんから輪っか状のリングを受け取り、投げ輪を始めた。
3回投げて3回とも外す。
「う〜ん、全然面白くない」
「やっぱり金返して」
「へっ、そりゃ無理ってもんだい」
「はあ…最っ悪」
「・・・・」
ムガロはため息をつきながらおっさんから目を離す。
しばらくして再びおっさんに目線を戻した。
「くたばれ包茎野郎」
「あ”?」
ムガロの発言で屋台のおっさんがマジギレしているのを俺は見逃さなかった。
おっさんはムガロを睨む。
彼女は軽蔑の色を目に現しながら、真顔で去った。
ムガロが呟く。
「クソつまんない世の中だわ」
「そりゃお前のせだな」
「あ〜あ、無駄使いしちまった」
「別にいいでしょ?」
「良くねえよ」
「師匠からもらった金、もう半分もねえんだぞ」
「え?嘘でしょ?」
「マジだっての」
「・・・・」
「参ったわね」
「だいたいお前、リンゴ飴食いすぎなんだよ」
「3つしか食べてないよ?」
「これから飯食いに行くんだぜ?」
「余裕〜♪」
それから夜の繁華街を歩き、目的のレストランへと向かう。
前にも一度ガルムと一緒に行ったことがある店だ。
目的のレストランに到着し、俺たちはその店で晩飯をとることにした。
もっとも、ムガロにとっては朝食である。
店に入ろうとしたとき、入り口に何者かがいることに気づいた。
さらに近づいてみると、そのものの姿をはっきりと視認することができた。
その正体は、鹿だった。
そう、レストランの入り口には貫禄のある鹿が鎮座していたのだ。
この店の名物である。
そして、その看板鹿が俺たちへ言葉を送る。
『店に入りたいか?俺もだ』
店に入り、俺はグラタンを注文し、彼女はオレンジジュースをオーダーした。
しばらくの間待つと、店員が料理を運んできた。
「クソ鹿の肉をふんだんに使ったグラタンと鹿の腎臓を絞ったオレンジジュースでございます」
「まずそう…」
ムガロは時々失礼だ。
「お客様には鹿の腎臓で充分でございます」
「喧嘩売ってるの?」
「いえ、当店おすすめの皮肉でございます。クソったれでお召し上がりください」
「嫌味がするわ」
俺たちは食事を開始した。
彼女は鹿の腎臓ジュースを飲みながら俺に話しかけてきた。
俺は鹿のクソが入ったグラタンを食べながらムガロと会話を始めた。
「ねえ、ザン・ポートからカンダハル市まで船で行くのにいくらかかるかしら」
「さあ、3000ポンドぐらいじゃね?」
「足りる?」
「いや、全っ然」
「手持ちは2000ぽっちだ」
「本当に?」
「ホントだよ、ほら見てみろよ」
俺は金が入った小さな巾着袋を渡す。
ムガロはその中身を確認する。
「ノーマル硬貨が5枚、ピッコロ硬貨が2枚…」
「本当に2000ちょっとしかないのね」
「ミドル硬貨ぐらい持ってないの?」
「そいつはいつの間にか消えたよ」
「・・・・」
「まあ、いっか」
「言いたいことが渋滞してるけど」
「なあムガロ、やりたい事やっちまおうぜ。明日が来る保証なんかない」
「2000ちょっとで何が出来るの?」
「遊ぶぐらいできるさ」
「ふ〜ん、いいね」
「じゃあ行こ」
「まだ金払ってねえぞ」
「こんなマズい飯に、お金を払う必要なんて無いでしょ?」
「マジかよ」
「私のお婆ちゃんが言ってたわ」
「こういう店は食い逃げして良いって」
「・・・」
「店員さああん!!りすジューズ頂戴!!!」
「俺も俺も!!」
頭がおかしい俺たちは、お金を払わずにそのまま店を出た。
それから、俺たちは金が尽きるまで遊ぶことにした。
後のことなんざ知らん。
どうせ2000ポンドじゃ船には乗れないのだから。
少年がそういうふうに考えだしたのは間違いなくムガロの影響だった。
今思えば、俺はムガロに出会ってから変わったんだと思う。
とにかくムガロはイタズラが好きだった。
もちろん俺もそれに付き合った。
ザン・ピエロ広場に行くとベンチで気持ちよさそうに寝ているおっさんを見つける。
俺は二日酔いのおっさんが持っていたポテトチップスの袋を奪い、数枚だけ食べて再びおっさんの手に戻した。
ムガロはおっさんが履いていたズボンを脱がせて社会の窓を全開にさせた。
それから俺たちはおっさんに気づかれないように笑いながら逃げた。
次に俺たちが目をつけたのはトルコアイスの屋台だった。
トルコアイスは客になかなかアイスを渡さないので有名だ。
俺はアイスを掴んでいる棒ごと掴んでアイスを奪った。
ムガロは、俺の代わりにお金を渡そうとして渡さなかったりを何度も繰り返してして店員を焦らした。
結局、彼女が渡したのはお金ではなくただのメダルだったのだが。
芸を披露している旅人に冷やかしに行ったりもした。
不思議なことに、俺は罪悪感などは少しも感じなかった。
少年は、久々にワクワクしていた。
自分でも、気分が高揚していることに気づいた。
『ナンでも売ってるお店屋さん』という名前の万屋でナンを購入。
『ないものはない サニーフレッシュ1号店』という名前の食料販売店で試食をしまくり、なにも買わずに店を出る。
最後に旅の道具を買うと俺の財布が音を上げた。
ムガロと一緒に無茶をするのは楽しかった。
所持金ゼロの俺たちは、ザン・ポートへと向かった。
船に乗ってカンダハル市に行くためである。
馬車とかでも、移動に何ヶ月かはかかるらしい。
なぜなら、ここノアの町はマレー半島の端っこに位置するからだ。
馬車で行く場合、物凄く遠回りになるんだとか。
「で、どうするよムガロ」
「俺たちは客船の切符なんかもってないぜ?」
「そんなの、勝手に乗り込めばすむ話でしょ?」
「・・・・」
「そりゃ名案だ」
ザン・ポートに到着すると、俺とムガロは良さそうな船を探した。
ザン・ポートは船乗り場である。
石畳で埋め立てしたような港だ。
無数の船がそこにはあった。
残念ながら大型船はなかった。
なんというか、ここの港ではボロボロの船しかなかった。
長い間、使われていない感じである。
色々と探し回ると、これから海へ出ようとしている船が1隻だけあった。
サイズはそれなりに大きい。
頑張れば20人ぐらい乗れそうなボートだ。
ムガロが言う。
「あの船にしましょ」
「OK」
俺たちは乗組員にバレないよう慎重にかつ豪快に跳び乗った。
船の後ろの部分で隠れるように座り込む。
この船には煙突があった。
船の後部に蒸気機関を駆使したエンジンを搭載していた。
そして、2本の棒のようなものが真ん中らへんにある。
どうやら、あの十字架みたいなやつは海賊船とかによくある帆だろう。
風の力だけで走ることが出来る。
しかし、そのやや大きめな帆は広げられておらず、代わりに、エンジンが動いていた。
煙突のようなものから黒い煙が出ている。
俺は船に乗っていた人たちに気づかれていないかを確認する。
「よし、侵入成功だ」
壁に背中を預けて休憩していたムガロもそれに頷く。
安全確認は夜目がきくこの俺の仕事だ。
辺りはまだまだ暗いのだ。
だって真夜中だもん。
俺は船の中を確認しようとして覗くように顔を出した。
次の瞬間、俺は見張り台に配置されていた乗組員と目が合った。
結局俺たちはすぐにバレてしまった。
「うおっ、やべ…」
俺がそう呟くとムガロが頭を抱えた。
「バカ…!」
俺たちはすぐに逃げようとしたが、とき既に遅し。
船はもう出向していた。
海を見ると、港はもう遠いところにあった。
最悪だ。
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無事船員に発見された俺たちは、現在船長とにらめっこをしていた。
俺は自分の手を見る。
右手にはブラシ、左手にはバケツを持っていた。
彼女も同様、デッキブラシを持っている。
「しっかり磨けよピカピカになあ」
「ローション塗りたくったってのか?ってぐらいツルツルの木デッキにしてくれ!」
俺たちは、いかつい爺さんであるこの船の船長にブラシとバケツを与えられ強制的に掃除をやらされた。
船長の名前はクイントだ。
しかし困ったなあ。
こんな夜更けに、ムガロと仲良くお掃除だなんて。
俺たちはすでに2時間ほどデッキ磨きをしていた。
「ちくしょう、何で俺が…」
「あんたのせいよ…」
「畜生…」
クイントが俺たちのところにやってきた。
「ハッ、ハッ、ハア!!掃除は進んでるかい?若い衆!!」
「そりゃもうバッチシさ」
「そうかそうかあ!!しっかり働けけえ!!」
「ハッ!ハッ!ハアアア!!」
こんな夜中によく元気だなあこの爺さん。
「おいフーパー!エンジンを止めろ!!」
「・・・・」
「おい!止めろと言っただろ!!聞こえないのか!!!」
「も、もう止めるってのかあ?行き先はどこだってんだい?」
「波任せだ!!」
「ああ分かったって…今止めるよ」
操縦室で舵をとっていたフーパーがエンジンを停止させた。
船の進行が止まる。
「ジョーンズ!!餌をまけ!!!」
「ええ?」
「どうやるんだ!?俺は未経験者だぞ!」
「そこにあるバケツの中身を海に投げ入れるだけだ」
「簡単だろう?」
「たくっ、俺は漁師じゃねえぞ…」
やだやだ、あの船長怖いぜ。
あのジョーンズとやらは元々乗組員では無いのだろうか。
俺はブラシでデッキを磨きながらそんな事を考えていた。
突然、見張り台で海を監視していたウォッカが叫ぶ。
「おうい!来やしたぜ船長!!バケモンが顔を出したぞ!!!」
「ハハアッ!ウォッカアアア!!奴のでけえ口んなかに爆弾でも放り込んでやれい!!!」
「餌をまく必要はなかったなアビゲイル・ジョーンズ君!!」
その時、船が大きく揺れた。
海の化け物が体当たりしてきたのだろう。
物凄い衝撃だ。
ムガロを見ると驚いているような顔をしていた。
「ねえ、ショウ。さっきのは揺れは何なの!?」
「さあな、俺が知るわけねえだろ!」
「どうやら俺たちはやべえ船に乗っちまったらしいぜ!?」
「あああ、最っ悪!!」
さっきの揺れで水飛沫がたった。
外にいた者たちは海水のシャワーを浴びる。
船長クイントが叫ぶ。
「エンジンを!!!」
「了解!!」
「ルーキーのお前らは中に入ってな!」
クイントにそう言われ、俺たちはデッキ掃除を中断し船の中へ入った。
船にエンジンをかけたフーパーが俺たちに話かける。
「船酔いしてる人いる?」
「いや」
「そうか、ああ君たちはそこの椅子にでも座って、そこのジャーキーは食べていいよ」
「お、おう。ありがと」
俺が机の上に置いてあったジャーキーをつまんでいると、フーパーが呟いた。
「はあ、新人扱いかよ」
「やらやれ、あの頑固ジジイめ。海洋協会を舐めてやがる…」
「海洋協会?」
「俺は学者だ。あの化け物を研究してる」
「へえ、そうなのか」
どういうメンツなんだ?
フーパーが俺の質問に答えた後、ソファーの上で寝ていたスピルバーグに声をかける。
「おい、スピルバーグ」
「さっさと目を覚ませ、仕事だ」
フーパーがそう言うと、気持ちよさそうに寝ていたスピルバーグが勢いよく起き上がる。
飛ぶ様に起き上がったスピルバーグは目を白黒させながらフーパーに何事かと問う。
「化け物が現れたぞ」
「来たか!」
スピルバーグはすぐに外へ出ていった。
外にいたクイントが叫ぶ。
「さあ皆の衆!!ケツの穴しっかり締めて働け!!!バケモン退治だ!!!!」
その時、船の明かりがすべて消えた。
「暗いな」
ジョーンズが呟いた、
クイントが乗組員に命令を出す。
「フーパーは舵!」
「分隊長は見張り!」
え〜と、俺はなにをすればいいんだ?
「俺たちは?」
「何もするな!」
「特に機械には触るなよ!!」
俺は船の中の窓から様子をうかがった。
ムガロはこんなときでも優雅にソファーに座っていた。
現場は酷く混乱していた。
波で船が傾いた時、見張り台から降りようとしていたウォッカが足を滑らせて落下した。
落下中に足が網に引っかかり逆さまの状態で上半身だけ海に浸かる
それに気づいたヴァイセがウォッカの両足を引き上げた。
そしてヴァイセは気づく、ウォッカの上半身が無くなっていることに。
「クソ!なんてこった!!」
近くにいたサジが駆けつける。
「ウッ、こりゃ酷え…」
「どうした!!」
クイントが叫ぶ。
「ウォッカがやられた!!」
「そうかっ、そいつは海に捨てろ!」
「奴が食いつくはずだ!!」
「んな事できるかよ!!」
「やれ!」
「っでも…!」
「やらなきゃ全員死ぬぞ!!」
「…ック!」
サジとヴァイセはウォッカを海に投げ捨てた。
俺はその光景がはっきりと見えた。
「酷え…」
この日、俺たちは乗る船を間違えてしまったのだ。
大人しく客船の切符を買えばよかったと思った。
しかしそれはもう遅い。
これは、世の中の単純さに気づき、調子に乗って好き勝手やった俺たちへの罰だ。
彼らはこの世界の海の危険性を知らなかった。
彼らはこれから自分達の身に絶望が舞い降りてくることなど知るよしもなかった。
この海の絶望はこんなものではない。
この程度の絶望ではない。
この絶望には絶望しか見いだせない。
この絶望には光などない。
この絶望に光が存在するなどあるはずもない。
絶望はまだ始まったばかりだ。
die speaking
語る死す




