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心世界  作者: rin極
第三章 修行編 ㊤
16/48

第16話 「唸る...」



「SDAME?運命?」


「what ?」

「why ?」

「who ?」


「wwwwwwwwwwwwwwww」

「・・・」

「zzzzzzz ?」

「!!!???」

「・・・」


「what is fate ?」 _運命ってなに?


「Does not matter」_どうでもいい


「why ?」_なぜ?


「because this is your way」_それがあなたの道だから


「rially ?」


「愛してるのは誰ですか?」_who do you love ?


「なぜ聞くの?」_why do you ask ?


「一人ぼっちは嫌だから」_because I hate being alone



--



夢を、見ていた。


誰かが会話をしているようだった。


「かかかかかッ」


虫の鳴き声がする。


心地よい暖かさ。

ほのぼのとした日の光に照らされた俺は、深い深い眠りから目を覚ます。

なんだか、えらい長く寝ていたようだ。

3日ぐらい寝ていたのかも。

俺は布団から出る。


師匠が俺が起きたことに気が付き、目を合わせる。

彼はびっくりしたような顔で俺を見た。

何をそんなに驚くのか、俺には分からない。


師匠が慌てて俺に告げる。


「ショウ、荷物をまとめとけ」

「明日の朝出発だ」


突然だが俺は、学校へ行くことになった。

どうしてそうなったのだろうか。

とりあえず俺は学校になんか行きたくないという思いでいっぱいになる。

あんなつまらない場所などもう二度とごめんだ。

俺なんて制服が嫌で中学を途中で辞退したほどさ。

もちろん理由はそれだけではない。

制服が嫌ってだけで学校を辞めるほど俺はクレイジーボーイではないのだ。

どちらかというとグットボーイだ。


俺が思うに、学校が嫌になる原因は主に先生の対応が不十分なところに収束する。

言ってしまえばトロいのだ。

先生のえこひいきの差もひどい。

おまけに校内はツバメの巣だらけ。


軍隊のような部活?

アイデンティティ崩壊?

マナーとルールを守る国民?


これではまるで洗脳ではないか。

大人達はこれで国の未来が築けるとか思っているわけ?

勘違いも甚だしい。


奴らは外務省のように無能な集団だ。


というわけで師匠に抗議してやろうではないか。


「師匠、俺は行かねえぞ」


現在室内で麦の葉を何やら嫌らしい手つきでいじくり回している師匠が俺の言葉に反応する。

謎の作業を止めた後、俺の方を向く。

彼は説教みたいなことを俺に向けて口走る。


「半端な奴は愚痴ばかり言う」

「いい加減な奴は口を開けばすぐ言い訳だ」

「・・・」

「文句を言うのではない。ワシはお前さんの為を思ってだな」


お前の為とか、誰の為とか。

大人たちは無責任なことばかり言う。


「いらねえんだよそういうの」

「・・・」

「やれやれ、年頃か」


何を悟ったような顔してんだ。


「なんだよ」

「分かった分かった。お前がジジイに反抗したくなるのも分かる」

「ちっ」


だからそういうのうぜえんだよ。


俺はそっぽを向く。

隣で荷物をまとめていた少女が、俺に呆れたような目で見てきた。


「呆れた」


少女が荷造りをやめて第一声にそう言った。


「あなた幼稚ね」

「子供みたいだわ」


その言葉に苛立ちを覚えた。

しかし俺は、なにも言い返すことができなかった。

彼女の言うことはもっともだ。


そうだな、俺は幼稚だ。


俺は心を落ち着かせる。


「なあ師匠、俺は本当に行きたくないんだ」


師匠が俺の言葉に応じるより先に、少女が口をはさむ。

手に持っていた布の袋を俺に投げつけて。


「はい、もういいからさっさと準備して」

「あなたと一緒に行かなきゃ私は学校に通えないの」

「なに言っても無駄」

「理解した?」


彼女がそう説明するも、俺は当然のように拒否する。


「え、いやでもさ。嫌だし」


少女はため息をする。


「はあーー」

「ああああ!もう鬱陶しい!!」

「あんたに拒否権なんか無いからっ」


『面倒くせえ』


互いに互いをそう思い始めていた。


「だから嫌だっての。あんなところ行くわけねえだろ」


俺がそう言うと少女は更に機嫌を悪くさせた。


「は?犯すぞ」

「え?何だって?」


ちょっと何を言っているのかが分からない。

俺は少し困惑した。


少女は勢いよく立ち上がり、俺に向かってきた。

奴がものすごい勢いで俺に向かってくるので、俺も立ち上がろうと手を床に置いたがそのとき、少女に胸ぐらを掴まれる。


「服脱げ!てめえのチンポもぎ取ってやる!」

「うお!?」


クソッ、コ、コイツ!


少女は以外にも力が強かった。

そのまま勢いで押し倒される。


「「あああああああああああああああ!」」


お互いに叫んだ。

声がハモる。


「・・んの野郎!!」


少女が殴りかかってきたので俺は相手の腕を掴んで振り払う。

それから相手の肩を両手で突き飛ばすように強く押し、少女は後ろに倒れそうになった。

そのすきに俺は体勢を直し、喧嘩へ突入しようとしたそのとき。


師匠が俺たちの間に入ってきた。


「やめんか!!!!」

「・・・」


俺たちの争いは一瞬で終わった。

いったい何を争っていたのか。

俺はしばらくの間分からなくなる。



--



師匠は、さっきからずっと麦の葉っぱばかりをいじっていた。

何をしているのか、俺にはさっぱりだ。

ある時、師匠は突然俺に問いかけた。

彼は作業をしながら、旅の準備をしていた俺に話しかける。


「小僧、覚えているか?ワシはお前さんに最初に言ったことがある」

「お前さんはワシに何を学び、何を活かせる、と」

「ああそういえば、聞いてきたな俺に」

「あんまし覚えてねえ」

「そうか、お主はこう答えたぞ?」

「強さを、教えてくれとな」

「そしてまた、こうも言った」

「己が何を活かせるかは、己を弟子にしてくれたら分かると」

「・・・・」

「そんなこと、言ったけなあ」

「見せてみろ、小僧」

「何を?」

「お前さんはワシから学んだことを、どう活かすのかを」


んなこと言われてもなあ。

どうすりゃいいのさ。

俺は分からないぞ。


考えても仕方ない。

行動で示すんだ。


よし、考えるのをやめよう。


しかし、俺はどうしよう。


「・・・・」


これは、古い記憶。

心の一つも分かりあえない大人たちを睨む。

校舎の裏煙芋。

家にいるのも飽きたけど、学校に行く気にもならない。


俺は、そんなことを考えていた頃を思い出していた。

少年は出発の準備を再開する。

隣には、既に出発の準備を終えた少女が体操座りしながら足をクロスさせたようなポーズを取っていた。

少女は何も考えずにただただ天井を見つめていた。

少女はぼーっとするのを辞め、こっちを見る。


「なんだよ」

「ん?なに?」

「だからなんだよ」

「別に?」

「ああ、あんたさ、準備するものなんて何もないでしょ?」

「何もないってお前、馬鹿にしてんのか?確かに俺の私物は少ねえがあるにはあるぞ」


そう言って俺はリュックの中身を見せる。


「少なっw」

「あはははww」


少女は笑う。


「笑うなよ」

「そんなに面白いか?」


俺の問に少女は答える。


「あなたに対する笑いなんて、嘲笑で十分」


少女に嘲笑された俺は、さっさと荷物をまとめて師匠に準備が終わったことを告げる。


「終わったか、ショウ」

「まあ、一応」


師匠はなにかを考えるような素振りをする。

師匠が一通り思考したあと、再び俺に向き直る。

俺と目を合わせながら師匠は話す。


「夢中になれるものがあれば、人間はやる気がでる」

「そして、目標ができれば、人間は努力する」

「・・・・」

「なあお主、なにかあ、夢中に成れるものはあるかい?」

「今はない」


師匠の口調は、いつもと少し違っていた。


「ショウ、お前さんはまだ若いんだ。昆虫探しでも、料理でも何でもいい。とにかく探さんか」

「・・・」

「分かったよ」


俺は師匠から目をそらした。


「なあ師匠」

「なんだ?」

「その、師匠はあるのか?」

「夢中になれるもの」


俺は再び師匠の顔を見る。

少し、驚いたような表情をしていた。

俺が少しだけ興味を持ったことが、そんなに珍しいことなのだろうか。


師匠は少しだけ、笑って見せた。

かすれるような笑い。

乾いた笑い。

気のせいか、少しだけ師匠の目が虚ろに見えた。


俺は怖くなった。

なぜだろう。

少しだけ、少しだけだけど。

恐怖した。

理由もワケもわからない。


師匠はようやく喋りだした。

呟くように。


「ワシはもう歳だからな。そういうのは疲れるんだ」

「そっか、年寄はあんまり遊ばねえもんな」

「それは違うぞショウ。歳をとるから遊ばなくなるのではない。遊ばなくなるから歳を取るのだ」

「どっちだっていいよ、そんなの」

「まあいい。とにかくショウ、夢中になれるものを探せ。本気になれるものを探せ。いつまでも世の中に甘えるんじゃない。そんなんじゃいつか、世の中がお前に牙を向くぞ」

「じゃあ、どうすればいい」

「本気を出せ。ショウ」

「え?」


カラスが鳴いている。

もう太陽は沈みかけていた。


小さな窓から東の空を見れば、星が見えた。

すぐに暗くなるだろう。


「いいかい?生意気な小僧よ」


師匠は俺の顔を覗き込み、俺の瞳孔を他の対象へとピントを合わすことを許さなかった。


「ワシはお前の本気、一度も見とらんぞ」

「無理にでも見せてみろ。お前さんの本気とやらをな」

「そいで、ワシの目をこじ開けてみ」


彼はそう言って人差し指を自分の目に当てる。


「ワシの重いまぶたのガレージは、その時初めて開くのだ」


俺はその言葉を聞いて、ゆっくりと頷いた。


「ショウ」

「何だ?」

「この老体からのアドバイスだ」

「明日死ぬと思って生きろ」

「永遠に生きると思って学べ」


それを聞いて、俺は思ってしまった。


『くそくらえ』


師匠は俺から目を逸らした。


「飯にしよう」


師匠からそう告げられた。

夕飯の支度を既に済ましていたようで。


今現在、少女に羊肉の料理を運ばせている。

少女は物凄く面倒くさそうな顔をしながら、すべての料理を運び終えたあと、無言で椅子に座った。


何をするつもりだ。


そう思っていたら、彼女は両手を合せ目を閉じた。

そして一言。


「いただきます」


彼女は燻製肉を豪快に噛じった。

師匠はとても驚いていた。

俺も驚く。


どういう風の吹き回しだ?


彼女は今までに一度も師匠が用意した飯を食べなかったのだ。

今日初めて、彼女の食事シーンを見る。


「お前さん、どうしたんだ?」

「・・・」


彼女はしばらく肉を咀嚼していた。

やがて、頃合いが来たのかそれを飲み込む。


彼女の顔を見ると、酷く汗をかいているのが分かった。

気のせいか、いつもより少し顔色が悪いように感じた。


「ごちそうさま」


彼女は小さな声でそう言った。

まだ一口しか食べていないのに、彼女は席を立とうとする。


「待て、もう少し食べんか?」

「せっかくですが。すみません」


彼女は久しぶりに師匠に向かって敬語を使った。

これには俺も驚いた。


彼女の様子がいつもより変だ。


「具合が悪いのか?」


俺は心配して声をかける。

彼女は小さく首を横に振りそれに応じる。

どう見ても今日の彼女はいつもより様子が変だった。

俺はヒバナの能力の一部を使えるので、彼女が嘘をついているのがすぐに分かった。


彼女は手で口を抑えながら、トイレに向かって走っていった。

師匠が呟く。


「ワシの料理って、もしかしてマズいのか・・・」


師匠はショックを受けているようだった。

料理の腕に自身があったようだし、結構ダメージがあるみたいだ。


俺は師匠の飯をマズいと思ったことはないぞ。

だから安心しろよ。


「ああそうだ、ショウ、言い忘れていたんだが…」

「何だ?」

「お前さん、あの小娘を守ってやれよ」

「えええ、なんで俺が…」

「男なら、それぐらいできるだろ?」

「・・・・」

「仕方ねえな」

「そうか、ありがとう」


しゃあねえな、俺は男だ。


彼女が危険な目にあったときは、助けてやるとしよう。


「・・・」

「はあ…」


なんでかは分からないけど、急に俺は考えてしまった。

なぜだか知らないけど、俺は突然センチメンタルな気分になった。

しばらく、俺は考え事をする。


「・・・・」


そういえば俺って、何がしたいんだろう。

師匠から言われたことが2つある。

新しく目標を作れとか、夢中になれるものを探せとか。


しかし、俺は困った。

非常に悩んだ。


やりたいことが見つからないのだ。

もし見つけたら、めっちゃ頑張るのに。

前はあった気がするんだけどな。

けれども、忘れてしまった。


虚ろな心が黒く集まり固まって、どんどん重くなっていく。

クローン障壁をも超えて、すべてを喰らう特異点となった。

腐っていった俺は、正論も常識も意味を持たない現実に早くおさらばしたかった。


時が来ない。

でもエゴ放つ。

グルグルと世界は変わらずまわっているが俺は何をしているのだろうか。

修行をサボってジャングルわっしょい。

シャレになんねえ。


しかしだなあ。

たまには褒めて伸ばされたいものだ。

これが俺の切ない願望さ。

考えすぎるのは辞めたい。

悩みすぎるのだってもう辞めたい。

別に無理はしなくたっていいだろ?

とりあえず羊のくんせい肉を咀嚼する。

俺は数分もしないうちに目の前のご飯を完食させた。


「ごちそうさん」


俺は外の空気を吸うため、師匠の家から出た後。

適当な場所に座った。

一息つき、周囲を見渡す。


日が沈む。

夜の顔が俺の顔面を覗いてくるホラー現象。

最後の明かりを消すと、真っ暗闇に包まれた。

世界の輪郭を失った。


ショウはゆっくりと目を閉じる。

闇の気配をその身で感じ取りながら。


突然、ヒバナが喋った。

何だか久々にヒバナの声を聞いた気がした。

まあ実際、最後に話したのは3ヶ月ぐらい前だったしな。


《よう、久しぶりだな》


「ヒバナか、よく眠れたか」


《言うまでもないだろ?》


「ハハッ、三ヶ月ぐらい寝てたもんな」


《いや、もっとだ》


「え?」


《一年ぐらいかな》


「は?いや。何いってんの?」


《おいおい。まさかリュートが喋ってねえってことはないよな?》


「なにがだよ!」


《オーマイガー。なんてこった》

《ショウ、なんか変だとは思はなかったか?》


「いや?何も?」


《たとえばあの小娘とかはどうだ?》


「ああ、確かにアイツは変だったが。でもよお、初めて会ったときから変だったぞ?」


《そうじゃねえ、そうじゃねえ》

《問題は、そこじゃない》

《奴の異様な敵意あるいは警戒を、お前は何も感じなかったのか?》


「うーん、言われてみれば。確かに俺に対して敵意を抱いていたような気もするが」

「苛ついてただけかもしれないしな」


《お前、虫に刺されて寝込んでたよな》


「ああ、そうだな」

「あれは辛かったぜ尋常じゃねえほど胸が痛かった」


《そうか、やはりな》

《事実を言うが、虫刺されであれ程寝込むことはない》

《なぜならお前の血液は人間のものではないからだ》


「じゃあなんで」


《さっき、お前は胸が痛かったとか言ってたよな》


「ああ」


《あれは心臓がやられてたからだ》


「もしかして、心臓病?」


《違う。病気ではない。呪いだ》


「呪い?なんで?」


《あの小娘の仕業さ》


「まじかよ」


《そうさ。しかし、心臓に直接となるともしかして奴は…》


「奴は何なんだ」


《いや、何でもない。忘れてくれ》


「いや何だよそれ」


《その可能性は限りなく乏しい。奴が使徒を作るとは思えん》


独り言がいきなり始まった。

ヒバナの独り言は、それからしばらく続いた。

数分もすればヒバナは独り言を辞め、俺が失った一年について説明してくれた。


それによると、俺は9ヶ月ほどの間、ずっと眠り続けていたらしい。

そいで最近目覚めたわけだが。

俺が目覚めたとき、師匠はえらく大げさに驚いていたのはそういうことだろう。

なぜ9ヶ月ものあいだ眠っていたかというと、俺はあの女に心臓を潰されたからだ。

ヒバナは呪いの一種と言っていた。

ヒバナは俺の心臓を修復するのに9ヶ月という長い時間を費やしたのだ。

どうしてあの女が俺に呪いをかけた犯人だと判明したのか。

それは、あの女が俺に触れたときに呪いが発動したのをヒバナが気づいたからだ。

俺の体はもう心臓への攻撃はあまり効かないようになったらしい。

ヒバナのおかげである。

少なくとも前回くらった呪いはもう効かないのだとか。

免疫でも出来たのだろう。

そして、ヒバナは続ける。


《しかしあの小娘の力は未知数だ》

《他にもなにか危険な能力を持っているかもしれん》

《悔しいがこの俺様でもあの小娘の年齢や種族も何も分からなかった》

《こんなことは初めてだ》


「お前見ただけで相手の年齢分かるのか?」


《ああ、大体はな。相手の強さも分かるし、寿命も分かる。一応、心も何となく読める》


「マジかよすげえな」


《あの小娘には気をつけろよ。ショウ、奴からは何も読み取れなかった》


あの女は要警戒だな。

しかし、相手の素性が分からない以上俺からは何もすることができない。

圧倒的情報不足だ。

年齢は見た目的に15歳ぐらいか。

亜人であることは確かだ。

ツノが有るから鬼人族なのでは、と俺は思う。


《ショウ、いいか、あの小娘と仲良くなるんだぞ》


「え?なんで?」


《一度目をつけられたんだ。そんぐらいしとかんとお前の命は危ないぞ》


「まあ、分かったよ」


彼女と仲良くなることしか、方法はないのだろうか。

俺は疑問に思った。


ヒバナのやつ、なんか企んでんな。

まあいい、一応努力するか。


俺はヒバナが言っていたことに、それほど気にならなくなった。

すぐにその事が頭から離れた。


それからしばらくの間、俺は座ったまま星を見ていた。

無限にあるかのように思える星々が美しい模様で夜空を埋め尽くしていた。


とても、綺麗だった。


ザッ、ザッ、ザッ


突然、人間の足音が聞こえた。

誰かさんが家から出てきたようだ。


俺は足音が聞こえた方向、師匠の家の入り口あたりを見る。

そこにいたのは、白い髪をもつ可憐な少女だった。

見た目的には、15歳ぐらいだ。

額には二本の小さいツノがある。

俺と身長はさほど変わらない。

いつもと変わらずブカブカの服を着ていてる。

パーカーのようなボロボロで古いローブだ。

いつ見てもフードを深くかぶっている。

その姿は、魔女のようにも見えた。


彼女は、その光無き漆黒の目で俺の姿を見る。

それから、まっすぐこちらに向かってきた。

俺の目に前に来ると、彼女は右手を前に出す。

その青白い手には、片手で握り潰せる程度の大きさの小さな巾着袋を持っていた。


その魔女のような手を見た俺は、少し彼女の体が心配になってくる。


彼女が俺に突き出す様に小さな巾着袋を差し出した。

そして小さく呟く。


「はい…」


俺は少しビックリした。


「なにそれ」


彼女は、俺の言葉を聞いて少し面倒くさそうな顔をした。

ため息が混じった声で俺の質問に答える。


「お金」

「リュートから」

「・・・・」


俺は無言でそれを受け取った。

師匠の金か。

巾着袋を眺めたあと、ポケットにしまった。


「ありがと…」


俺は、彼女の顔を見ずにお礼をした。

彼女を見ると、リュックを背負っていることに気がついた。

小さめのオイルランプを左手に持っている。


彼女も俺の顔を見ずに告げる。


「行くよ」

「どこへ?」


俺の質問に彼女は少しぶっきらぼうに答える。


「学校」


彼女は話し方や態度に愛嬌がなく、そっけない人だった。

そんなことはもう既に出会ったときから分かっていた。

良く言えばクールな女?


俺たちは旅を始めた。

まず最初はノアの町を目指す。

出発は明日の朝を予定していたが彼女が太陽の光に弱いことから、夜のうちから出ることとなった。


俺たちは歩く。

会話もなく淡々と進み続けた。

ノアの町までなら、道がわかるので楽勝だ。

日が昇るまでに、なんとかタイガの森を出たいものだ。

タイガの森から出れば、整備された街道があるのだ。

たしか、アビス街道だったっけ?

そこまで行けば楽に歩けるだろう。


どのくらいの時間、歩いただろうか。

タイガの森の端、アビスの領域まできた。

目の前に婆捨て山から流れるアビス川が見える。

ここで休憩をとることにした。


「なあお前のそれ、いったい何なんだ?」


俺は彼女が背負っているリュックに縛り付けてあった棒を布で包んだ様なものを指さして言う。


彼女がそっけない態度で答える。


「何だっていいでしょ?」

「ああ分かったぞ、説明するのが面倒くさいんだな?」

「まあね」


彼女は荷物を降ろし、ちょうどいい大きさの石に座る。


「なあ、お前なんて名前?」

「あら、嬉しいわね。私の名前に興味があるの?」

「でも残念ね」

「私の名前は安くないわ」

「あなたのようなお子様には教えてあげないわ」

「はあ?お前のほうが子供だろ」

「失礼ね、私のほうが貴方より年上よ」

「てめえ何歳だよ」

「200から数えてないわ」

「どこのジョークだ」

「・・・・」

「冗談だよな?」

「さあ、それはどうかな」

「ていうか名前さっさと教えろよ」


「あなたこそ、名前は?」

「知らねえのか?」

「だって興味ないもの」

「・・・・」

「はあ…俺の名前はショウ」


彼女は俺の名前を聞いた瞬間、驚いていたように感じた。

少女は俺に質問をする。


「名字は?」

「んな御大層なもんねえよ」

「本当に?誤魔化してるんじゃないの?」


「いやマジだよ、マジでねえよそんなもん」

「つーか今の名前は後付されたもんだし」

「強いて言うならニドネスキー?」

「は?」

「冗談だよ」


「まあいいわ、嘘をついているようには見えないし」

「おい、そろそろお前の名前教えろよ。俺は名乗ったぞ早く言え」

「私ムガロ」


彼女が名乗った後、休憩を終わりにして再び歩き始めた。

アビス川を越え、タイガの森出る。

結構な距離を歩いたが、ムガロと名乗った少女はまだ疲れを見せない。

彼女も大したものだ。


歩きながら、俺はムガロに話しかける。


「なあムガロ、お前疲れないのか?」

「気安くレディーの名前を呼ばないでくれる?」

「面倒くせえなお前」

「うるさい!」

「はいはいムガロ様」

「馬鹿にしてる?」

「いや?全く?」

「あなたウザいわねモテないでしょ」

「いや、全く」

「どうせアソコも小さいんでしょ」

「い、いや、全く…」

「小さい男ね」

「どういう意味だそれ…?」


それから更に歩きアビス街道に入った。

ここからは、この舗装された石畳の道をまっすぐ前に進むだけだ。

この街道はノアの町まで続くのだ。


フクロウの鳴き声が聞こえる。


俺たちはただまっすぐ前に歩き続けた。

俺は思った。

馬が欲しいなと。


ムガロが俺に向けて言葉を投げる。


「ねえ貴方、よくこんな真っ暗闇で迷わず前に進めるわね」

「ああ、俺は夜目が聞くからな」

「暗くてもよく見えるんだ」

「お前が持ってるランプは眩しくてかなわん」

「あら、それは残念ね。私はこれがないと何も見えないの」


更に進む。

一度、馬車が通りかかったので乗せてもらおうかと思いヒッチハイクを試みるも、普通に無視されて行ってしまった。

少し、いやかなり残念な思いをしたが、挫けず前へ進む。


石畳をずっと歩いていると、足が少々痛くなることだろう。

俺は大丈夫だけど、後ろで歩いている彼女が心配だ。

ムガロは師匠が持っていた革靴を履いていたのだが、道中で破れてしまったのだ。

今、彼女は裸足で歩いている。

俺の靴を貸そうとしたが拒否された。


「おんぶしてあげようか?」


俺は気軽にそう言った。

彼女はため息をつく。


「そういうのいらないから」

「え…」

「お姫様抱っこが良かったか?」


ムガロはしばらく目閉じる。

怒っているのが一目で分かった。

彼女はゆっくりと目を開けて俺を見る。


「…助けてあげようとか思ってるんでしょ」

「・・・・」

「どうせ、私は女だから…弱いとか思ってるんでしょ?」

「男だから、女の子を助けなきゃいけないとか思ってるんでしょ?」

「そういうのほんっとに要らないから!」

「私はか弱い女の子なんかじゃないわ」

「勘違いしないで」


俺は一瞬、ムガロがなぜ怒っているのか分からなかった。

少し時間がすぎると、ちょびっとだけ理解した。


「ごめん」


俺は謝った。

ムガロはこちらを見ずに前を見たままで、俺の謝罪に反応しなかった。

俺は少しだけ、反省をする。


ちょっと調子に乗っていたなと。


彼女は弱い女の子と思われるのが嫌だった。

ムガロはそこらの女とは違うのだ。


しばらくすると、周りが少しずつ明るくなった。

夜明けが始まる。


ムガロは、リュックサックに縛りつけてあった、棒状のものを白い布で巻いた様なものを取り出す。

それは布でグルグルと巻いていたようだ。

彼女は片手でそれを持ち。

もう片方の手で布の端を掴んでグルグルと。

巻くのとは反対方向に動かして。

包んであった布をのける。


そして、その正体を現す。

それは、黒い傘だった。

なんでわざわざ傘を布で巻くんだ?


「それ、傘だったんだな」


俺はムガロに向けてそんな言葉を飛ばす。

ムガロは持っていた布を俺に投げ渡した。


「これ使って」

「なんで?」


ムガロは俺が左肩にかけていた猟銃を指さして言う。


「それ持って町に入れるわけないでしょ?」

「まさか、その銃をぶら下げたままノアの町の門をくぐれるとか思ってたわけじゃないでしょうね?」


思ってました。


「門番を甘く見るんじゃないわよ」

「そうだな」


俺は持っていた猟銃をムガロから貰った布で巻いた。

多分、これで隠せるはずだ。


ムガロは傘を開く。

そして、傘を差した。

日傘か、意識高いね。

まだ夜明け前なのに。


それからしばらく歩いた。

気づけば日の出が始まっていた。

辺りが少しだけ、明るくなっていた。


結構歩いたと思う。

驚くことに、体力はまだ充分残っていた。

そっか、一年経つんだ。

体の再構築は結構進んでいることだろう。

今なら火を吐けるのでは?


《もう出来るぜ、ファイヤブレス》

《なんなら今すぐ試してみるか?》


『いや、今はいい』


変に目立ってしまってはいかんのだ。


そして、少年は気づく。


『世界に残された時間は少なく、あと2年もしないうちに終わりを迎えてしまうということに』


隣を歩いている彼女を見ると、呼吸が荒いことに気がついた。

結構汗だくになっていて、だいぶヘトヘトな様子だ。


「ねえ、もう少し、ゆっくり歩いてくれる?」

「疲れたのか?」

「疲れたわ」


俺は歩く速度を落とした。

それからもうしばらく歩く。

太陽が少しずつ原型を見せ始めるにつれ、彼女はどんどん歩くスピードが落ちていった。

呼吸もどんどん荒くなる。

太陽が完全に顔をだした頃。

彼女はついに歩くのをやめて立ち止まった。

そのままゆっくりとしゃがみ込み水筒に入った水を勢いよく飲む。


「大丈夫か?」

「全然」


そう言ってムガロは座ったままフラッと後ろに倒れる。

街道のど真ん中で、仰向けに寝転がり両手を広げた。


「はあああ、もう無理しんどい」

「おぶって」


少女はプライドを捨てた。

俺はムガロを背負い、再び歩き始める。

そして、少年は気づく。

ムガロの体重は、不自然なほどに軽いということを。


彼女は俺の背中の上でぐったりとしている。

少女は意識が朦朧としはじめていたのだ。

意識を手放してしまいそうになるが気合で耐える。

俺はムガロに話しかける。


「なあムガロ、こりゃどういうことだ?」

「嫌がってたわりには、随分とおんぶをねだるじゃねえか」

「・・・・」

「んん…しかた、ないでしょ」

「日差しはキツイの」


彼女は目を閉じる。

少女は、もう少しの時間で意識を失いそうだった。


「もう話しかけないで…」


 ガチャッ


何かが落ちた。

音がした方向を見て気づく。


ムガロが手に持っていた黒い傘だった。


あれからどれほどの距離を歩いたのだろうか、やっとの思いでノアの町に到着した。


地元の門番とは顔見知りだったので、少し会話をしてから門をくぐる。


彼女の心臓の鼓動を背中で感じながら。



 

roaring heart

唸る心臓

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