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心世界  作者: rin極
第三章 修行編 ㊤
14/48

第14話 「新たな... 」


俺はしばらく外で生活をさせられるようだ。

何故なら,俺は体重が重くて床に穴を開けてしまうからだ。

師匠は俺を家に入れてくれない。

一体いつになったら屋根の下で寝られるのやら、と。

ショウは少し残念な気分になる。

俺の頭の中にあるのはフカフカのベットだ。


野宿はもう帰らずの森でさんざんやった。

もうウンザリなんだ。

最悪、最悪なんだ。


そんなふうに俺の心の中が何かによって蝕まれていく気がした。


しばらく野宿はご勘弁。

枕の無い寝床はもう嫌だ。


だが師匠はそれを許してくれなかった。


俺はリュートの弟子になったその日に狩りに出た。

我が師匠はまず最初に狩りをすることに決めたのだ。


今、目の前に年老いた男性の背中が見える。

俺はぐんぐん進む背中を追いかけていた。

見失わないように。


師匠は狩りをするための銃を持っている。

弾はまだ込めていない。


俺は師匠に質問をする。


「なあ師匠、狩りって具体的に何すんの?」

「こいつを使って鉛を奴らの喉にぶち込むんだ」


師匠はそう言って手に持っている鉄砲を俺に見せつける。


縄に火をつけて撃つやつだ。

そうそう思い出した。

火縄銃ってやつだ。


「狩りは難しいぞ、素人にはまず無理だ」


師匠が語りだした。


「今は夏だから温かいが冬になると最悪だ。奴らは毛皮に覆われて寒さを感じない。」

「まあ、この話は今どうでもいいか。」


「狩りは経験が必要だ。ちょっとやそっと訓練しただけじゃ逆に狩られる。」

「あ、そうなんすか。へえ〜。」


この後も話は続いたがカットだ。

長すぎるし面白くもない。

興味もない。


周りを見てみれば様々な植物が目に写った。


森はどこか薄暗く所々で日が差し込んでいた。

その日光を浴びれば露出した皮膚に温もりを感じさせる。

今日の太陽は紫外線が強く。とても熱い。日の当たるところでは太陽の眩しさに思わずおでこの前に手を当ててしまう。

森は良い、新鮮な空気で気分が安らぐ。


だが帰らずの森から帰ってきたその日にまた森だ。

しばらく森に入りたくないのに・・・


鼻の穴に大気を送り込めば山のあの独特な植物が朽ち果てていく微かな匂いがした。

森ってのはいろんな匂いがする。


時々雨に濡れたクローバーの葉がつんと匂ったり。


懐かしい草の匂いも鼻に付く。

昔抱えられて渡った小川を思い出す。

今はひらりと飛び越えられる。

膝の下まで伸びた雑草は俺達の行く手を阻み気分を害す。

雨が降れば川底に。

沈む橋越えて、胸まである草分けて。


「こくわの実を採っておけ、かなり頼れるナビになる」


師匠がそう呟いた。


沢山木の枝が交わり日の光を遮る。

森の冷たい空気で凍りついた木の匂いが立ち込めていた。


道なき道を歩いていると。

俺はある植物が目に止まった。

その植物の花はまばゆく日に照らされてすーんとした香りが辺りに漂っていた。

その花びらは輝くような綺麗な青色で、薄く光っているようにも見えた。

人が横に寝転んだ程度のスペースにその植物はびっしりと生えている。


「師匠」

「・・・・。」


声を掛けたが師匠は反応しない。

無視された。

少し待ってもう一度声をかける。


「なあ師匠」

「何だ」


2回目で師匠はやっと振り向いた。


「あれ」


そう言いながら俺は例の気になった植物に指を指す。

師匠は俺が指を指した方向に目を向けてその存在を確認し再び俺の方を見た。


「あの植物が気になるのか?」

「ああ」


「ショウ、それはベラドンナというものだ。七草のうちの一つだから覚えとけ。」

「へえ〜」


俺は七草を近くで見てみる。


セリじゃん。これセリでっせ師匠。

にしても綺麗だ。セリのくせに。

雑草のくせに。


やはり綺麗だ。

虐めたくなる。


すると、その花は何かを呟く。


  ベラドンナは詩を歌う。


復讐、あなたは私に死を与えた。


あなたは私にとって死を意味する。


裏切り、悪意、不忠実、君は美しいだけ。


はかない美、哀愁の美、淋しい美しさ。


偽りの魅力、あなたを酔わせる、夢の中、遠くから私を思って。


「・・・・。」


ベラドンナは沈黙。

ベラドンナは女神ヘカテの花。

ベラドンナは危険な美しさ。

その独特な強い香りは危険な香り、死の香り。

口にすればあなたの体は手足を狂わせ踊り続けるだろう。

ベラドンナはあなたを死に誘う。


俺は七草の花に手を伸ばそうとする。


「おっと触るでないショウ、七草は貴重なんだ」

「別にいいだろ触るぐらい」


「駄目だ。いいか、そいつはな、病気を治す薬草でもあるのだ。何故七草は貴重なのかお前さんは知らないだろう、何故だと思う?それはな、生息域の狭さと成長の遅さが主な理由だ。芽が出てから700年でやっと花を咲かせる。ここまでいえばお前さんのその小さい脳みそでも分かるだろう?」


「あ〜なるほどねえ、そんな植物があるなんて知らなかったよ」


俺はもう一度七草の花を見る。

その小さな花は何かを訴えていた。


耳をすませ。

何か聞こえる。


クリスマスローズ、あなたは植えてはいけない花。

だけどあなたは撫でたいほど小さく可愛らしい。

クリスマスローズ、あなたは歌を歌う。


耳をすまして、その可愛らしい花歌が聞こえてくる。


・・・・。

・・。


か ルく 手ヲだし ただけ・・・


・・あの 娘はじらすだけ。


 いいところまで来た挙げ句にね。


ちょっと手を出しただけ、そうさ随分かかったよ。

喜ばせようとしたのに、彼女にとっては一夜限りの遊びさ。

気づくのに、それに気づくのに・・・。


俺はその花が何かを喋っていることに気づいた。

何か、その何かを俺はまだ分からない。

耳をすましてももう何も聞こえない。

不思議な気持ちだ。

頭がポカンとした。


気のせいだと気づいた。


幻聴なんだ。

あのふざけた歌は。


すると七草の茎が数本ちぎれていることに気がついた。


「師匠、何かちょっとむしり採られて無ェか?」


「何だと!」


師匠は少し焦ったような顔をする。

七草に顔を物凄く近づけ一人で納得する。

師匠はナンテコッタって顔をしていた。


「どうしたよ師匠、ちと驚きすぎじゃねえのか?」

「いや、これは驚かずにはいられん。この七草を摂った奴は正気ではないことは確かだ、一体どこの馬鹿だ」

「何でそんなに驚いてんだ?」


「黙らんかいショウ!お前さんは何でこう、え〜と、ああ、あ?そんなに無知なのだ?ワシはお前さんにいちいち説明しなけれえばならないのか?ここらの森ではなあ小豆婆と米とぎ婆と洗濯狐が守っておるからなあ、七草が人に触られたってのは黙ってはいないだろうってことで驚いておるのだ!ショウ、金をやるから図書館行ってこい!。お前さんはまず身体よりも先に頭を強くせい!」


「ちょっと待て、何で帰らずの森でもないのに婆婆いんだよ。しかも2匹!」


師匠は頭を手でくしゃくしゃとする。

数秒して落ち着いたのか、師匠はそれから少し考えるようなポーズをとった。

しばらくして俺にこう言った。


「小豆婆と米とぎ婆は神が恐れる存在では無いから帰らずの森に入らなくていい」

「婆婆が二人いる詳しい理由は知らないが鬼婆がそうしたのは確かだ」

「・・・・。」


歩きを再開してしばらくし、やがて師匠は崖を登り始めた。

俺もそれに続いて足場の悪い凹凸に片足を置き体重を乗せる。

そこは少し湿っておりズルズルと足を滑らした。

もう少しで岩に頭をぶつけるところであった。

一瞬で冷や汗が出てしまう。


もう師匠は何メートルも先に登っていた。

俺はゆっくりと慎重に登っていった。


半分ぐらい登りきった所で俺が踏んでいた足場が崩れた。

一気に下に滑り落ちる。

所々で服を破りながらの落下だ。

なんとか木の根っこを掴もうとするがうまくいかない。

俺は一番下まで落ちた。

それを師匠は嘲笑う。

そしてなにか言った。


「ショウ、さっさと登ってこい下手くそ!」

「何だって!?」


俺は気を取り直しもう一度崖を登る。

なんとか崖を登り終えるとそこから見えた大自然の景色に感動する。


向こうを見れば山が2つ見えた。

左の方は婆捨て山という酷い名前の山だ。

師匠は俺をあの婆捨て山のふもとで狩りをさせるつもりらしい。


 何故あの山は婆捨て山と呼ばれているのか。


その疑問には師匠が答えてくれた。

昔、神の怒りに触れた人類は洪水によって滅ぼされた。

その二百年後にあの山は婆捨て山と呼ばれるようになったと言われている。

その理由は食料不足によるものだ。

ノアの町から少しずつ人が増え国ができた。

それらの国のある殿様が

ある非礼なお触れを出したことで始まった。

その内容は年老いて働けなくなった老人は山に捨てよというものだ。

これが婆捨て山の名前の由来らしい。


師匠曰く、婆捨て山の土には無数の白骨死体が埋まっている。

人の手で育てるのは難しいとされている七草でも、婆捨て山周辺の土の上では人意的に育てることが出来る。

だから七草は婆捨て山のふもとでしか花を咲かせない。


勿論例外もある。

七草のうち、ベラドンナという植物はシベリア沿海州、サハリン、帰らずの森周辺、ハバステラザンなどでも生息している。

何故か南半球だけベラドンナの生息地はないそうだ。


気を取り直して、俺たちは再び歩きだした。

歩いているうちに、景色もどんどん変わる。


俺を師匠の背中をずっと見ている。

師匠の背中は、年老いた今もなお姿勢が正しいままだ。

俺も見習おう、そして、おじいちゃんになったら背中を曲げない努力をしよう。


師匠が来ている服はボロボロだ。

氷の結晶をモチーフにしたデザインの白い服を上から羽織っており首にはマフラー代わりの布を巻いている。

その背中は二本の刀が付いていた。


その刀は柄(刀を握る所)の部分に白い包帯を雑に巻いており鍔が無く、鞘(刃を保護する為の筒)は木目の模様を活かしたシンプルなデザインだ。

鞘といっても白鞘しらさやである。

「白鞘」は任侠映画などで頻繁に登場するが実際は実用に足るものでは無くあくまで刀身を保管するための容器に過ぎない。

なぜ俺の師匠は柄と鞘を実用的な物に交換しないのかは俺には分からなかった。


でもまあ木刀みたいな刀でも結構カッコいい。

ちなみに髪の毛は白髪だ。

髪が長く後ろに結んでいる。


そして何時も目を閉じている。

目が見えないらしい。

どうやって歩いているのかというと視覚以外の五感を極めたらしい。

意味がわからない。


時々師匠は砂漠に住んでる人が使ってそうな丸い水筒を口につける。

そのまま顔を上に動かし喉を鳴らした。

師匠は良く酒を飲む。

一日中酔っ払ってる。

そのうち脳みそがアルコールでやられて死ぬのではないのだろうかと俺は心配している。


突然、師匠が振り返って俺の方を見てきた。


「ショウ、お前も酒飲むか?」

「いらねえよ。そんなもん飲んでたら脳みそ腐っちまうぜ?」

「何を変なこと言っておるのだ。怖いのか?お前さん酒が怖いのか?」


それを聞いて俺は少し腹をたてる。


「早くよこせよ」


俺は酒を要求した。

師匠は少し笑っていた。


師匠は俺に酒の入った水筒を手渡す。


俺は蓋を開けて一口のんだ。

俺の食道にアルコールが流れ込む。

喉が、カッと熱くなった。

アルコールが胃の中に流れ込むのが感じられた。


「うわ、まっず。何これ」


初めてのお酒に少し期待して飲んだがあまり美味しくなかった。

アルコールの味しかしない。


「ハハハッ!!やはりお前さんはまだ子供だ。」

「ほら、さっさとワシの酒を返さんかい。何してる。はよ返さんか。」

「・・・・。」


俺は黙って師匠の顔を凝視する。

俺はそのまま酒を一気飲みし始めた。


「ショウ!もう飲むな!!ワシの酒をもう飲むな!!!」

「ショオオオオーーーーウ!!!!」


「・・・。」


俺は見事に飲み干した。

空になった水筒を師匠に投げ渡す。

師匠はそれをナイスキャッチ。


「焼酎だぞこれ・・。」


師匠がなにか呟いた。


「ワシの酒が・・・。」


師匠がしょぼんとしている。


「結構高かったんだぞこの酒・・・。」


また何か呟く。


「ちびちび飲もうと思っておったのに・・・。」


師匠がガチで泣きそうだ。

ちょっと可哀想に思えてきた。


それからしばらく森の中を歩いていた。

谷を降りたり川を渡ったり、岩や崖を乗り越えたりした。

かなり大変だ。

よくもまあこんな険しくて道も無いところを迷いなく目的地に向かって進めるもんだよ。

さきほど、大きな崖を超えたが特に景色は変わらず植物が日光を遮る薄暗い森のままだ。

俺は変わらず師匠の背中を追っている。

師匠は年寄りのくせにいまだに呼吸を乱すことなく黙々と歩き続けている。

そういえば、狩場に行く前にある場所へ寄り道すると師匠は言っていた。


ある場所って何だ?

おい、俺はいったいどこに連れて行かれるんだ?


だんだん俺は不安になってくる。


帰らずの森とかはやめてくれよ?

トラウマなんだよ。

特に、天井に吊るされていたあの死体。

鬼婆の屋敷で見たやつだ。


「ふう・・。」


ゆっくりと息を吐いて心を落ち着かせる。

そして、森林で浄化された空気を吸う。

鼻の穴の毛穴にまで透き通るかのような洗礼された空気だ。


わかるかね?

この・・・


「くっさ!!」


なんだ、臭いぞ!!

何なんだこの匂いは!!


言葉では言い表せることができない。

つまりこの匂いを表す言葉がこの世には存在しない。

強烈な刺激臭と言えばそうだが、しかし、そんな単純なものでは無い。


腐った卵の匂い、強烈なアンモニア臭、ウンコ系の臭さ、チーズの香りを五倍した匂い、ドブの臭い、魚の腐ったような匂い、公衆トイレ、動物園、ムワッとする生ゴミのように強烈な口臭のような匂い、シンナーの匂い、むれた靴下の匂い。


それらの匂いを合わせたにおいだ。

わかるかね?

この・・・濁った空気を!!!

感じるかね?

全ての嗅覚よ!!

想像できるかね君たちは!!!

この危険な香りを。


「ショウ、見えるか?」


師匠が俺に語りかける。

俺はそれに応答する。


「何が?」


すると師匠は真っ直ぐ前を見て指を差した。

俺は師匠が指を差した場所に注目する。


「老邪魔虫だ」


おじゃまむし?


「あれか?あれだな、こいつが老邪魔虫か。」

「グロwww」


「初めて見たか?」

「ああ。」


俺の目に写ったそれは、とても醜いものだ。

生きているのか、そもそも生き物なのかを疑ってしまう。

それは、人のような手足をもち、肘を上げ、大地にその手のひらを押し付けている。

膝を折り曲げ地に置いている。

骨はむき出し皮膚は無い。

皮膚が無いなら肉も無い。

ならば内蔵を守るものも無い。

小腸らしきものが姿を見せている。

頭はみそを守る骨が無い。

目玉は飛び出し紐のようなものでぶらさがっている。

脳みそは土の上にぶちまけている。


口は無い。

食事もしない。

食べなくても生きている?

なら、内蔵はいらない。


「それにしてもでかいな」


そう、そいつは巨人だ。

頭蓋骨はなく。

皮膚もなく。

体を動かす筋肉もない。

内蔵が丸見えだ。


敵に狙われるぞ。

いや、この悪臭じゃ天敵はいないだろうな。

これが老邪魔虫か。

初めて見るな。

てかそもそも老邪魔虫なんて知らなかったぜ。


「15メートルはあるな」


師匠がそう呟いた。

俺は師匠に質問をする。


「こいつは何なんだ?」


「老邪魔虫は老婆が作り出した不死の生物だ。」

「いらないものはどんどん削ぎ落として骨と内臓しか残ってない。」

「老邪魔虫がいるところでは植物は育たない。」

「80年前に大量生産されて多くの畑がやられた。」

「昔から老邪魔虫という生き物はとても迷惑な存在なのだ。」

「『邪魔』という言葉の由来になったほどにな。」


それを聞いて俺は驚いた。

そんな超ヤバい生き物がいるなんて知らなかったからだ。


「なんたって老婆はそんな妙な生き物を作ったんだ?」

「さあな、昔から老婆は変なものをつくるのだ。」

「変な生き物がいたら、それは全部老婆によって作られた存在だ。」


師匠との会話が終わると、再び歩き出した。

まだまだ歩くみたいだ。


「・・・。」

「なあ、

「なあ、何で急に俺の弟子入りを認めたんだ?」


「それは、よく考えればワシがお前さんを殺めることができないことに気づいたからだ。」

「つまり、お前さんという驚異の存在をワシが保護しなければならない理由ができた。」


「ふむ、なるほどなるほど。」

「で?その理由はなんなんだ?」


「もう手遅れだからというのが理由だ。」


「え〜と、それはつまり、どういうことさ。」


「もうこの話は終わりだ。」


「えぇえ〜〜〜〜!!!なんだよそれ〜〜!!!!」


「あそこを見ろ、獲物だ。」

「ちぇっ。」


今回はこれで引き上げてやるよ。


「・・・。」


俺もあそこを見るとなにか白いものがいることに気づいた。

迷える羊だ。


迷える羊がそっぽを向いて草をむしる。

ただそれだけの動作を続けている。

迷える羊は群れを作るのを許されていない。

ただ孤独に草を食べ続ける。


俺たちに狙われているというのに逃げようともしない。


「あれか?あの白いの。」

「そうだ。」


俺たちは今、森をぬけて草原に出た。

師匠に銃を手渡された。


「さあ撃ってみろ。」

「その鉄砲は400メートルも飛ぶ高級品だ。」


へえ〜、高級品ねえ。

さあて、どうするもんかねえ。


俺と羊との距離は目測でだいたい200メートル。

これまであの白い物体に気づかれぬよう移動してきた。


「まあ、とりあえず撃ってみるか。」


俺はそう言って銃を握り、ポケットからマッチを取り出した。

弾はすでに入っている。

俺は火薬に火をつける。


銃を構える。

迷える羊に狙いを定めて発砲するまで静かに待つ。

俺はなんとなく足を一歩前に出す。


その時、何故か石につまずき体制が崩れかけた。

俺はなんとか踏ん張ろうとした。

だが、もう間に合わない。


「ちょ、やべ!まっ!!」


 ドオオオン!!!


鉛の弾が音速を超える速度で羊めがけて飛んでいく。

そして何故か命中した。

迷える羊がゆっくりと倒れる。


師匠が唖然とする。

まさか一発で仕留めるとは思ってもいなかったらしい。


師匠は口を開けたまま俺の顔を凝視する。

俺も同様、唖然として口を閉じるのを忘れている。

お互い拍子抜けた顔を合わせる。

俺も弾が当たるとは思わなかった。


師匠が喋る。


「今晩は飯抜きにしようと思っていたのだが、やめておくか。」


「ちょ、待て、てめえ俺の晩ごはんを無しにするつもりだったのか!!!死ぬぞ!!俺が死ぬ!餓死だ!!!!」


「自分の飯ぐらい自分でなんとかしろ。」


「おいおい、そりゃ鬼畜すぎんぜ。」


「まあそう吠えるな、お前さんは犬ではないのだぞ。」


「俺が吠えたら火傷するぜ。」


突然、ヒバナが俺に語りかける。


《すまん、ショウ、お前は今火を吐く事はできなくなった。》


突然の報告。

俺は驚愕した。


『え?なんで?』


《つまりだな、お前は俺様の力を使いすぎたってわけさ。》


『そうなの?マジカヨ。』 

『何で早く言わなかったんだ。』


《忘れてたんだ。》

《まあ、特に帰らずの森にいたときだな。力を使いすぎたのは。》


『はあ、そっか。』

『って事は手のひらから炎を出すことも?』


《まあ、無理だな。残念。》


『爪を鋭くすることも?』


《さあ、できないんじゃね?俺様もよく分からん。》


『いつまで力を使えないんだ?』


《半年安静にしてたら大丈夫だ。多分な。》


本当に力を使えないのか。

まあ試してやるか。


そう思った。


なるべく多くの酸素を蓄えるため、深く息を吸った。

俺は大きく口を開ける。


体の奥に眠る炎を。

全て吐き出すように。


《お前まさか、ファイヤブレスをするつもりなのか?》

《やめとけ。痛い目見るぞ。》


『ご忠告感謝しないね。』


《はあ・・・。》


ヒバナがため息をつく。

俺は気にせず口から炎を吐き出した。

その時、何かとても熱いものが気管を通る。


物凄い勢いで炎が放出される。

それはまさに火炎放射器だ。


師匠が驚き声を上げる。


「ショウ!!何故なんだ!!」


なんでってそりゃあ、ヒバナが言っていた事が本当かどうか確かめるためさ。


炎の放射が止まる。

俺の正面の地面に黒い跡が残った。

その黒い跡は俺から離れるにつれて幅が広くなっていた。


辺りの草木は真っ黒。

余程高温だったのか、辺り一面消し炭になっている。


ファイアを発声器官から放射させて数秒したころ、俺は自分の首を締めるように手でつかんだ。

そして、うずくまる。


口から血を吐き出した。


止まらない。


「ゴホッゴホッ、ウボアア、、、ガッハアアア」


口から血が蛇口のように出る。


想像を絶する痛みだった。

呼吸器官全てが焼かれたようだった。

肺も燃やされた。


息ができなくて苦しい。


喉のかわも剥がれている。

それはもうベロンベロンに。


口の中もひどい火傷だ。


《だからやめとけって言ったのに。》


ヒバナがそう呟く。


「る、せえええ・・。」

「しゃ、べ、んなああ・・。」

「ぼほああ、アアああ!! が、かはああ、」


師匠が俺に近寄ってきた。


「ショウ・・・。」


少し心配そうな顔をする。


「ひゅ〜・・・ヒュ〜・・・スウー、ゴホッ、ウボアアッ」


ようやく呼吸ができた。

手で口を押さえる。


まだ血は止まらない。


息を吐くと同時に煙も出る。

息をするとその煙も吸ってしまう。


気管に空気が通るたび激痛が走る。


息をしても、しなくても、とても苦しい、辛い、痛い、超痛い。

何でだよ。

前はなんともなかったじゃないか。


クソッ、痛え。


《バカだなあ、お前は。》

《最初っから俺様の言うこと聞いてりゃあそうならなかったんだ》


『早く言えよ!!』


《はあ・・・。》


ヒバナはまたもやため息をつく。


そして、師匠俺に声をかけてくれた。


「ショウ、大丈夫か?」


「おう。」


「もう大丈夫「ゴホッゴホッ」」


「まあとりあえずは休め。」


ああ最悪だ。

ファイアブレスなんてしなけりゃ良かったぜ。

でもまあ、迷える羊を狩れたのは良かったかな。



--



あれから少し時間が過ぎ、師匠の家に戻った。

仕留めた羊は師匠が担いで運んだ。

師匠はお荷物を抱えながらもズンズンと歩いた。

俺は死ぬおもいで歩いた。


死ぬかと思った。


師匠の家についた後、俺は羊のさばき方を教わった。

ついでに、羊肉を使ったシチューの作り方も教わる。


食事というものはじつに素晴らしい。

食事をすれば自分自身が抱えている悩みも忘れることができるのだ。


迷える羊は群れを作らない。

なぜなら迷える羊は人間のためだけに存在する生き物だからだ。

この世界の羊は、とても警戒心が強く群れを作って常に敵がいないかを協力して見張っている。


物音一つでもすれば仲間に報告。

何か変だなと思ったらすぐに仲間に報告。

少しでも怪しいなと感じたらすぐに仲間に報告。

よそ者の匂いがすれば仲間に報告。


一匹でも危険を感じたらすぐに集団逃亡。

仲間がやられた場合は集団攻撃。

連携は勿論のこと頭も何故かとても良い。


それだけではなく、皮膚がものすごく分厚い。

脂肪も筋肉も分厚い。


銃を使っても確実に急所を当てなければびくともしない。

よって、狩り初心者の俺にはまず一番狩りやすい迷える羊を狙ったわけだ。


これから先、もし俺が後悔するとしたらそれは己の弱さだろう。

弱ければ餓死するか殺されるかのどちらかだ。

当たり前のことだ。

前は命の危険を感じたことがなかった。

だから俺は、日本にいた頃が奇跡のように感じた。


ようやく、シチューができた。


師匠が言った。

迷える羊を食べたからには、今後全ての迷いを捨てなければならない、と。

たが、俺にはそのような覚悟はない。

俺はあまり気にせず出来上がったシチューを口にした。



Dreaming sheep

夢見る羊

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