定番
「「うぐっ……」」
二年生の校舎棟に入って早々、ある模擬店の前で足を止めるや、俺と三条先輩は同時に声を揃えてどもってしまった。
流石にずっと手を繋いでの行動は少しばかり恥かしかったので、今はもう手はつないでないが、その代わり腕と腕が触れ合う程度には寄り添って歩いている。
これでもかなり恥ずかしいけどね? てかほんと手汗がやばかった。年甲斐も無く真剣に照れたわ。
そんな先程までの淡い気持ちをかき消すかのように佇むのは、おどおどしい文字で書かれた【お化け屋敷】の文字。
絶対に毎年どこかしらのクラスがお化け屋敷ってするよな。やめようよ、そんなに繁盛する模擬店でもなかろうに……。
さて、唐突だが俺は大人だ。以前のような失態を何度も繰り返す程、愚かではない。ただ料理長には『お前は何度同じ失敗をすれば気が済む? え? え? え?』とゼロ距離で迫られた過去があるけど。
まじでメンタルブレイク寸前だったもんな……。我ながらよく耐えたと思う。
「三条先輩、提案なのですがここはお互いの名誉の為にスルーしませんか?」
「そ、そうね。わざわざ今日という日に怖い思いしなくてもね?」
今回は意見が一致して幸いである。ならばとさっさと通り抜けようではないか。立ち止まってると客引きあってしま――
「いよ、そこのカップルさん!! お化け屋敷どお!? 今なら待ち時間無しで入れるよ!?」
「やったね、超ラッキーだね~! いつもは二時間待ちのアトラクションだよ!」
しまった……。もたもたしてたら先輩のキャッチに引っ掛かってしまった。一応影ながら、ツッコんでおくが、どう考えても二時間待ちにはならんだろ。とりあえずここは適当にあしらって脱出せねば!
「あの、俺達——」
「大丈夫だ、そこんとこは安心してくれ! ぶっちゃけ見た目はチープけど、中は本物! 超怖いからさ!」
いや、怖さを求めている訳ではないの。むしろ怖さは邪魔なの。ワタシタチ、オバケキライナノ。
「わ、私達は、その——」
「先輩の彼女さん! 学校内で彼氏と合法的にくっつけるよ? いよヒューヒュー♪」
「こ、後輩君? ここまで誘われて断るのもなんだし、入ってみない?」
なんか懐柔されてますね。先程の合意はどこにいったのでしょうか? あと合法とはいかに?
「はい、二名様ご招待~!!」
「ちょ!? 俺は入りませんよ!?」
「でももう彼女さんは入って行ったよ? いいの?」
何してんだよ、三条先輩っ!!? 怖いの苦手なのに口車に乗せられ過ぎでしょ!? どこまでチョロ子さんですか!!
「ああっ!! もう! 三条先輩っ!?」
このまま放っておく訳にもいかず、止む無く後を追う形でお化け屋敷へと入場した。
くそぉ……結局こうなってしまう運命なのかよぉ。嫌いな物が避けれないって、どんなだけ苦行を強いて来るんですか、運命の神様ぁ……。
重い足取りで室内に入ると、足元に僅かな光源がゆく先々にあった。どうやらそれを追って行くと順路になるようだ。
上部の視界がほとんど無い為、分かりにくいが、なにやら机などを使って迷路に見立てた造りのようである。窓は全て目張りしているのか、昼間だというのに外からの光は一筋も入ってこない。想像以上の真っ暗闇だ。
この閉鎖空間の中で脅かされるのか……。まったくもって意味が分からない。今すぐ帰りたい。日の当たる場所に出たい。なんなら泣き叫びたい。
「こ、こ、こ、後輩君っ!? 真っ暗で、こ、怖いんだけど!?」
「だから言ったじゃないですか!? どうして何の考えもなく入るんですか!!」
数歩先に居るであろう三条先輩の声が聞こえた。
「何も見えないし、もう私、動けないよぉ……」
姿こそ見えないが、既にいつもの毅然とした言葉使いではなくなっていた。この人、元々俺よりも頭は良い筈なんだけどなぁ……。どうして同じ失敗を何度も繰り返すのだろうか。
「今そっちに行きますからじっとしていて下さ——」
手を伸ばして一歩踏み出してた瞬間、何かを掴んだ。感触で言うと……丸い、そして柔らかい。そしてなによりデケぇ。
やった……やっちまった。これ犯罪だ。
「んっ!? こ、後輩君!? そ、そ、あうぅぅ……」
三条先輩のこの反応。間違いない、俺はなんて声をかけたらいいんだ?
「……とりあえず、出ましょうか……」
「う、うん……」
そのままずっと足元の光源を頼りに、亀の歩みでなんとかお化け屋敷を抜け出すことが出来た。道中、沢山驚かされた気はするが、頭の中は真っ白になっていたおかげで、一切の感情を表に出すことなく外に出る事が出来た。
どうしよう、まずは土下座から始めればいいのかな?




