嬉し恥ずかし
俺は今、JKと手を繋ぎ、いつもの無機質な廊下とは一風違って派手に飾り付けられた校舎を歩いている。
女性と手を繋いで並んで歩く……。この鼓動の高鳴りは、フグの調理免許を取って、初めてお客様に出した時に似ている。
過去には手を繋ぐどころか、抱き合ったことすらも何度かあるのだが、それは危機的状況であったからノーカンである。お化け屋敷キライ。
素面、と言うかまともな精神状態でシンプルに手を繋ぐという動作が、その……妙に照れ臭い。いっそ振り切ってしまって、いつぞやの時のようにおんぶする方がまだ恥ずかしくないかもしれない。
しかしこんな事ってあるのだろうか? 良く分からないがクラスの奴らまでも後押ししてきたし。案外このまま本当に三条先輩とカップルになったりして……いや、このハードルは高過ぎる。
だって相手は日本屈指の財閥の一人娘。現に総帥であるお父様と対面した時はちょっと怖かったし、そんなご令嬢とただの高校生が付き合えるものなのか?
いや、普通に考えて無理だ。俺みたいな一般人とは住む次元が違い過ぎる。高嶺の花どころじゃない、月にある石ぐらいは手が届かない存在ではある。
タイムリープしたという点も大っぴらに公表出来るものでもないし……。やっぱりどう考えても釣り合わないよなぁ。
「……輩君、ねえ、後輩君ってば!」
「あ、はい!? な、なんですか三条先輩」
柄にもなく考え事に没頭してしまっていた。料理長相手だと死んでたな……。え~っと何でしょうか?
「あれ一緒に食べてみない?」
三条先輩の指差す先にあるのは、クレープ屋の模擬店。教室の前にかかげられた手作りののぼりには『絶対旨い!』『買ってけ泥棒! おなしゃす! 魂を金で売ってます』などと書かれており、学生のノリが満載であった。
こういうの嫌いじゃない。高校生らしくていいと思う。
「クレープですか。美味しそうですね」
「普段はこういった料理は作らないものね。すみません、ひとついただけるかしら?」
「は~い、カップルの方は料金五倍いただいております! 爆発しろリア充がっ!」
「ふふ、面白い事を言うわね、貴方。で、でもね、ま、まだカップルではないわ、その……まだね?」
なんだこのやりとり……。しかしずっと手を繋いだままなのでそろそろ手汗がやばい。緊張が半端じゃないんですよ?
「ふむふむ、確かに手の繋ぎかたもぎこちないし、微妙な距離感もありますね。カップル成立まで秒読み段階といったところですかね……。じゃあレアケースなので十倍いただけますかねぇぇぇ!?」
やめてあげて三条先輩。何か分からないけど、この人を追い込んでしまって居る気がするんだ。目も血走ってるし。
とりあえず面白い人からクレープはもらった。もちろん通常料金で。
「はい、一口どうぞ♪ ふふ、なんか本当に恋人同士みたい……ね?」
商品を受け取った三条先輩はにこやかに俺の方を向いてクレープを差し出してきた。
「え? 三条先輩ならそれぐらい一人で簡単に食べ切れちゃうでしょ? 俺も別で買いますので——痛っ!? 今蹴った!? 尻を蹴ったでしょ!?」
「この朴念仁」
おうふっ……なんか普通に悪口言われた。




