文化祭デート
「ぐすっ……ひぐっ……」
三条先輩は執事喫茶のバックヤードに連れられ、まだぐずってはいるものの、先程やっとこさ泣きんでくれた。
後輩達に気を使われ、開店前から飲み物やら食べ物を振舞われており、VIP待遇である。
もはやクラスの一員として扱われているレベルである。
クラスメイト達は、空気を変える為に三条先輩のクラスの準備は大丈夫なのかなど、もろもろ質問しているのが漏れてきた。
どうやら三条先輩のクラスは俺と学園祭を回る為、当日に自由が利く出し物の展示にしたらしい。
自分のクラスをも巻き込む豪胆さに感服である。
そんな中、俺は教室の端に呼び出され、男女問わず残ったクラスメイトに囲まれている。ぱっと見、いじめられてるんじゃないかと疑われても言い訳出来ない状況だぞ?
「いいか、修。俺の言う事をよく聞け。これはクラスの総意だ」
恭介が代表して俺に話しかけ、全員で相槌を打つ姿が少々気味が悪かった。だが、ここは茶化さずに話を進めてもらおう。
「この際、お前が鈍いとか、鈍くないとかは不毛な議論になりそうだから一旦置いておこう。いいか? 何も考えずに今日は三条先輩と文化祭を楽しめ。考えるんじゃない、感じるんだ。相手は三年生なんだ。今年で最後なんだぞ? 悪いことは言わない。ここは俺の言葉を信じて突き進め」
なんか大層な話になってきた。よくゲームとかである『お前は先に行け、な~に、すぐに追いつくさ』の雰囲気に似てるな……。
「お前、今どうでもいい事考えてるだろ?」
相変わらず鋭い奴だ。まじでエスパーいけんじゃねえか?
「分かった。とりあえず三条先輩と一緒に文化祭をまわればいいんだな? でも本当にいいのか? 店番とかしなくても。一応クラス行事な訳だし……」
「構わん。その代わりあとでこの借りはまとめて返してもらうぞ。打ち上げの時に報告といった形でな」
なにやら周りでは『ちくしょう! 俺はリア充になる瞬間を見ることになるのか!』やら『恋が実る瞬間……ああ、私も彼氏が欲しいっ!』だとか『でも万が一ってあるんじゃない? あの荻野君のことだからきっとぶっ飛んだ事を平気でしてくるよ?』など口々に聞こえてくる。
最後の女子のセリフは聞き捨てならないが。なんだよ、ぶっ飛んだことって……。
「なあ……一体みんなは俺に何を求めているんだ。まさか三条先輩とカップルにでもしようとしてくれているのか?」
「「「そうだよぉっっ!!」」」
声を揃えて訴えられた。結束感がすげえ。
「いいか!? この半年間、毎日毎日校内カースト一位の上級生が教室に来てはお前とイチャつく姿を見せられる身にもなりやがれ! おかげでこっちは毎日涙で枕びっちょびちょだわ!!」
「ねえ、荻野君って賢いくせにほんと馬鹿だよね!?」
「私、甘い物が超好きで毎日ヤバいぐらい甘い物食べてるんたけど、毎日毎日学校でお砂糖を吐かされてるおかげで、相殺してダイエットが捗ってますぅ! そこはありがとうございますっ! あと、この際だからぶっちゃけるけど、この話、小説にさせてもらってます! ネットに投稿するやつです!」
なんだろう、特に女子からの罵倒が痛い……。あと本人の許可なしに小説は書かないで欲しい。ちゃんと名前変えてくれてるんだろうな……。
「分かったか? みんな我慢の限界だったんだよ……」
恭介からとどめに遠い目を向けられているんだが。まあ、迷惑はかけているなとは思ってはいたが……。
「ほら、行ってこい!」
恭介に肩を押されると、クラスメイトが左右に散り、三条先輩までの道を作った。何だろう、このバージンロード的なものは。非常に雰囲気が重たいのだが……。
とはいえ、『早く行け』と目が口ほどに物を言っていたので、その場バージンロードをそそくさと駆け抜け、三条先輩の下に辿り着いた。
「あの……三条先輩? 約束通り、文化祭一緒にまわりましょう」
「……ううん。こっちこそなんかごめんね、楽しい文化祭なのにいきなり泣いちゃって……」
手を差し出すと、三条先輩はゆっくりと俺の手を握り返した。何度か握った事のある手だが、改めて確認すると、思ったよりも小さく、細い指であった事が印象的だった。




