練り上げられた技
怪我の完治と共に夏休みも終わり、残暑の厳しさもやっと落ち着き出して少しずつ快適な気候になってきた秋の入り口。
いつものように放課後は平和的に料サーで料理を作ったり、家庭教師での授業を続ける予定だったのだが……。
「テスト結果……学年二位だったわね? ふふ、残念ね? 約束は守ってもらうわよ?」
料サーの活動場所、実験室の隅にじりじりと追いやられる俺。迫る三条先輩は鬼の首をとったかのようなしたり顔。もうどこにも逃げ場はない。
「ま、待って下さい! 考えてもみて下さい!? 学年最下位だった人間がほぼほぼトップまで駆け上ったんですよ!? 一位との差も僅か5点ですし! だからお願い蹴らないでぇぇ!!」
以前お邪魔したジムで、三条先輩が放ってたサンドバックの弾け具合が脳内をかすめた。
本人はダイエットも兼ねて日々トレーニングに精を出しているらしい。どうやら食事の我慢は出来ないと悟り。消費カロリーを上げる方向にシフトしたようだ。
ただ俺のお尻はサンドバックじゃねえんです。うちの桃尻をいじめないでくださいぃぃぃ……。
「二位は二位。約束は一位になること。じゃなきゃ制裁って言ったわよね?」
「そ、そうですが……な、何卒ご慈悲をっ!!」
先日、テストの結果が返って来た。完全なる手ごたえがあったのだが、頂点までは後一歩及ばずであった。もう泣きそうだった……。
「……でもまあ、一位には届かなかったけど、夏期講習からちゃんと勉強はしていたみたいね。その功績は認めてあげなくもないわ」
非常にありがたいです……俺、知ってるです。夏休み、俺の家に来る度に勉強の合間に妹の雪にテコンドーの手ほどき受けてたの。それってもう護身術の域を超えてるよね?
まだ変な属性付けてパワーアップしようとしてます? デケぇと清楚だけで十分じゃないですか……。そもそも令嬢に武術の嗜みは不必要と思うのですが?
「ありがとうございますぅ……。感服の極みにございますぅ……」
「その代わりぃ……」
なんだ、このあざとい眼と口調は。絶対に良からぬことを考えてますよね?
「今度の文化祭を一緒に回ってもらおうかしら?」
え? それが制裁になるのですか? JKと一緒に文化祭を回るだなんて完全にただのご褒美じゃないですか。
「も、もちろん構わないですけど……」
「はい、言質いただいたわ。もう絶対に言い逃れ出来ないからね? もし万が一、逃げるような真似をしたら……」
綺麗な姿勢での上段蹴りが放たれ、俺の鼻先で止まった。素早い挙動なのに軸が全くブレてない。なんたる体幹……。
なんか、雪の影響受け過ぎてません? 清楚系女子どこに行きました? ダイエットで体動かしているとは聞いていましたが……。
そういえばこの前のジムでもサンドバッグ蹴ってましたね……。
あんなのが当たったら顔面無くなってる可能性が高い。俺はプラモの頭みたいに取り外し自由ではないんですよ? それとも某アニメのように新しい顔と交換してくれるんですか? その際にはイケメンフェイスでお願いします。
「それ教えたの雪でしょ……。もうそこまで来たら護身術じゃなくて殺人技で――」
身じろぎしながらクレームを吐きつつ生唾を飲み込んだ。綺麗な姿勢で上段に蹴り上げた脚。制服姿でそんな姿勢を取ると……まあ、見えちゃいますよね。
ピンクですか。
「っ!? み、み、み、見たぁ!?」
少し遅れて三条先輩も気付いたのか、脚を下ろすと全力でスカートを押さえ込んで頬を染めて睨んできた。
「ちょ、ちょっと……」
親指と人差し指の間隔を極少にしてアピールしたのだが……。すみません、嘘つきました。実はがっつり見てしまいました。レース生地なのも、少し食い込み気味なのも確認出来ました。
「こ、これはお気に入りのやつじゃないからね!? わ、私は基本は白を愛用して——」
「ストップ、三条先輩! 何を錯乱してるんですか!? 余計な情報漏らしてますよ!?」
何故か自ら恥ずかしい事を語り出した。そうですか、基本は白ですか……。いや、俺も何を考えているんだ?
「と、とりあえず今日の料サーの一品は生春巻きです。どうぞお召し上がり下さい」
「わぁ、透明な皮に中身が透けてとても綺麗……中身が……中が……見えて……」
たまたま作った料理が状況にマッチしてしまい、先程のピンクパンツ事件を思い出してしまい、二人してより無言になってしまった。
かつてない空気感を背負っての試食となったのは言うまでもない。




