ブレイクタイム
ひとしきりゲーセンを楽しんだあと、元の駅から電車で移動し、次のスポットへ案内してくれている三条先輩。なのだが、どうもご機嫌が斜めである。
「私にはゲームセンターは性に合わないわ」
三条先輩の後ろに続くのはがっつり景品を獲得して大荷物となっているあやかさんと、俺。ちなみにあやかさん程ではないが、コツを教えてもらったおかげでそれなりに景品をゲットする事が出来た。
今までは何が楽しいんだ、こんなもの……と馬鹿にしていた自分の認識を改めさせられた。
景品が取れると超楽しい♪
そして当の三条先輩なのだが、壊滅的に下手だった。もちろん何度もあやかさんがあの手この手のアドバイスはしてくれたのだけど、結局ひとつも取れなかった。
運転免許とか、操作性のある物には手を出さない方がいいと思う。
「さあ、着いたわよ。私からは体の動かせる場所を提案させてもらう予定よ」
あやかさんからバトンタッチした三条先輩に案内されたのは……超が付くほど高級そうなレストランだった。
洋館を彷彿とさせるような建屋に雰囲気のある蔦が伸び、明らかに『隠れた名店』感を醸し出している。店構えからもきっと腕の立つシェフが居るに違いない。
だけども体を動かすはどこ行ったJK? それにこんなシャレオツなレストラン、両手にお菓子の袋を携えた高校生は行きませんよ?
一般の高校生は、精々牛丼屋かファストフード、背伸びしても31種類のフレーバーが並ぶ、高級アイス屋ぐらいですからね?
ほら見て? あやかさんの膝、笑ってるでしょ? 体が、いや細胞レベルで拒否反応起こしてますよ?
「あの、三条先輩? おっしゃっられていた事と紹介された場所が真逆なんですけど……。いや、逆というか、因果関係すら感じないのですけど?」
「何を言ってるの? もうお昼よ? 体を動かすにしてもまずはお腹いっぱいにならないと。今日は貴方のご飯は食べれないから渋々この店を選んだのよ」
確かにお昼時ではあるけども……。敷居が高過ぎてもはや下をくぐれちゃう件ね?
「わ、私は、お水だけで……」
「大丈夫よ、ここの会計は私が持つわ。二人は好きなものを好きなだけ食べてちょうだい」
そういっていつもの夢かわファンシーなお財布を見せつけてきた。俺はもう見慣れたけども、あやかさんの表情が非常に硬いままだ。
「で、でもここすっごく高そうだよ!? そんな可愛いお財布に入ってる程度のお金じゃ払えないと思うんだけど!?」
「あ、その辺りは大丈夫と思いますよ? 俺、前に中身見せてもらいましたけど、とんでもない金額が入っていましたから」
「あら? これでも金銭感覚はしっかりしてる方よ? さ、早く行きましょ?」
とりあえず硬直したあやかさんの背中を押して店内に入った。
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どうやらここはフランス料理専門店のようだ。俺は和食の板前であり、作り手ではあるものの、こう見えて最低限のテーブルマナーは身に着けている。
料理長の厳しいご指導のおかげでね……。
あの人、料理全般に厳しい人だったからなぁ……。作るも食べるも随分と厳しく仕込まれたのは良い思い出……。になればいいなと今も思ってる。
とはいえ、学んだ作法のおかげでレストランでの食事も堪能出来た。あやかさんは俺と三条先輩の動作を見て四苦八苦していたが。
味の方は俺の作る料理とはジャンルが違うもので一概に言えないが、トップ層の味を感じる事が出来た。
料理を堪能したあとにシェフが挨拶に来られたのだが、内心、驚かされた。なんと俺が知っているお方だったから。
当時、フランス料理における若き鬼才と呼ばれていた方だった。その昔、うちの店に来て料理長と話をしていた事を見た事がある。
イケメンでありトークも軽やか。調理の腕は一流。言うなれば貴公子みたいな存在だ。
「本日の料理、いかがでございましたか?」
「ええ、とても美味しかったわ」
さも自然に会話する二人なのだが、先程から緊張のあまりか、口数が滅法少なくなっているあやかさんが居る。そして何故か常に涙目で小刻みに震え出してさえいる。
一刻も早く外の空気を吸わせてあげたい。
ちなみに料理の味の方は三条先輩の言う通り、確かに美味しかった。良い素材を用いて、高い技術で調理されているのが分かる。
ただ、料理のジャンルが違うので一概に言えないのだか、出された料理は言葉通り、美味しいのレベルでしかない。
俺の器量もその領域にたどり着いていないが、曲がりなりにもトップ層に君臨している方にしてはちょっと……。料理長はその上の『感動』を与えてくれるもんな。
「また利用させていただきますわ」
「宜しくお願いいたします」
そんな会話で締めくくられ、店を出たのだが……先程から三条先輩の顔が営業スマイルモードなのが気になる。
なんだかんだ言いつつも、ほぼ毎日付き合っている仲だ。俺はこの顔の意味を知ってる。
めちゃ怒ってらっしゃる。
店から出て少し歩いたところで意を決して声をかけた。
「あのぉ……三条先輩?」
「全然美味しくなかったわね、あの店。私達みたいな子供だと思って手を抜いたのが丸分かりよ。食材の味に助けられたようなものね」
全然美味しくないまでは言い過ぎなのでは……。そこまで悪くはなかったようにも思うのですが……。ただ、あの料理長のレベルにあるかと聞かれれば全然及んでないですけども……。
「わ、私もそう思いました! 修君の作る料理の方がよっぽど心がこもっていて美味しかったよ!」
どれだけ高級な食材があっても、どれだけ腕があったとしても、食べてもらう相手の事を思って作らない料理など三流品でしかない。
あ、これ料理長の受け売りだけど。今のがそう言う事なのかぁ……。まさか目の当たりに出来るとは。
でも間違いなくあの人は後に大成するひとなんだよな……。もしかして料理長との出会いで一皮剥けるのかも知れない。
「そう言っていただけると俺も嬉しいです、あやかさん」
「う、うん……やっぱ修君のお料理が一番だよ、えへへ……」
二人の間に何とも言えない甘い空間が——
「そのセリフ、私が言おうとしてましたぁ!! どうして先に言っちゃうの!? それに貴方!! なに鼻の下を伸ばしてるの!!」
おっと、いろいろなものが積み重なってボルテージがMAXになっていらっしゃる。
「もう!! 行くわよ!!」
「「はいっ!」」
今度はあやかさんとユニゾンすることになり、鼻息の荒い三条先輩の後をついて行った。




