あやかさんの特技
あやかさんの一押しスポットはゲームセンターであった。しかし意外である。もやし愛好家で名高いあのあやかさんが、こんなお金が湯水のごとく消える場所をテリトリーとしているとは。
「あ、でもお姉さんはビデオゲームとかコインゲームは出来ないんだ。私が得意なのは……アレ!」
あやかさんが指差す方向にあるのは、妙に射幸性を煽るような独特の音楽が流れる個体があった。いわゆるUFOキャッチャーなるものだ。
俺も何度か挑戦した事はあるが、景品が取れた記憶は無い。ぶっちゃけ、やる度に『買った方が安くね?』と自己問答するやつだ。
「ふふ、このお店はかなりの台数のUFOキャッチャーが置いてあって、その上……」
その上? なんだ? 何があるというのです?
「食べ物の景品が多いの!」
あ、うん……スーパーで買おうよ。絶対その方が安いからさ?
「これはどうやって遊ぶのかしら? ボタンがあるけども……」
不思議そうな表情で個体を眺める三条先輩。マジでお嬢様なんだな……。財閥令嬢様は場末のゲーセンなんかには顔を出さないですもんね。
「じゃあ早速やってみるよ。見ててね……」
あやかさんは見ていろと言った割には中々お金を入れず、前後左右を入念に確認していた。尚、景品は皆が大好きな細長い棒にチョコレートがコーティグされたお菓子、ポッキーである。
ただ、俗に言うアミューズメント用なるものなのか、かなりデケぇサイズだった。きっと中身は葉巻ぐらいあるポッキーが入ってるに違いない。
うん、初めてデケぇを正しい用法で使った気がする。
そういえば俺がこの前、雪の前で通常サイズのポッキーを三、四本まとめて食べたら『ポッキーさんに謝って!? どうしてそんな無慈悲な食べ方をするの!? 一本ずつ食べてよ!!』と割かしマジでキレられた後、尻を蹴られた。
あいつの中でお菓子に対する食べ方、礼儀は兄の存在を超えるらしい。泣けてくる……。
「ふっ、見えたよ……」
小さく呟くや百円硬貨を投入口に落とすや、ひとつ息を吐き、アームを操作し出した。大きな四角の箱に入ったデケぇポッキーは既に傾いており、その上、少しの衝撃で落ちそうな場所に設置されているように見える。
しかし騙されてはいけない。俺も似たような設定で何度も挑戦したことはあるが、惜しいところまでは行くものの、結局最後は動かなくなり、四苦八苦して諦めるまでがデフォである。
そう、どうせこれもアームパワーがゲロ弱で少しも持ち上がらず撫でる程度で——
「「え?」」
俺と三条先輩の声が重なった。
UFOキャッチャーはその名の通り、景品をキャッチして獲得するゲームなのだが、あやかさんはとんでもない位置でアームを止めたのだ。
アームが止まった場所はもはや景品をすくう事など出来ない、辛うじてアームが景品に掠るかどうかの、まったくもって見当違いな位置だった。
そのままアームが開き景品に向かって下降し始めた。これは誰が見ても完全なるミスプレイ。あやかさんの貴重な百円が無に帰した。
そう思った瞬間だった。あやかさんの口角が上がったのは。
なんとアームの爪先がぎりぎりで景品の角に当たり、その頂点に力が加わるや、そこを支点に景品がぐるりと一回転し、景品は一撃で落下口へと落ちた。
なんだ今の動きは……キャッチしてないじゃん。どうしてそれで取れるの?
「ふふ、反動台設定にみせかけてるけども、お姉さんの目は誤魔化せないよ? この台の本質は押し台。左アームの爪の甲を軸に押してやると力が加わって……」
なんだかめっちゃ説明してくれているのだけど、完全なる初心者である三条先輩は目が点になってるし、俺も正直よく分かっていない。
分かった事は……この人、こっそりUFOキャッチャーでも生計を立てていたという事だ。
「す、すごいですね。俺、そんな大きなポッキー初めて見ましたよ! 物凄い食べごたえがありそうですね!」
景品のデケぇポッキーに嬉々として感想を漏らしていると、あやかさんが少し悲しい顔をして、パッケージを開封しだした。
「……修君これね、中に入ってるのは通常の商品なの」
てっきりデケぇポッキーが入っているのかと期待していたのだが、出てきたのは見覚えのある通常サイズのポッキーが数箱。
百円でゲット出来た事は大変素晴らしいし、通常サイズとはいえ数箱もあるのでスーパーで買うよりも完全にお得なんだけど、ちょっと残念感があるのは否めない。
「意外に簡単に取れるのね、私もやってみようかしら」
三条先輩が例のファンシーなお財布から百円玉を取り出し、隣の個体である、箱に入ったポテトチップスが景品の台のボタンを押した。
尚、ポテトチップスにも苦い思い出がある。まとめて三、四枚食べらたら雪に尻を蹴られて……。うん、基本お菓子はまとめて食ったらダメらしい。
「あ、あら? おかしいわね……こ、今度こそ」
おっと? 連続してお金を投入しているJKが居るぞ? しかもさっきから爪は箱を撫でているだけで一ミリも浮かないし、進んでもいない。
アームパワーが弱いとかいうレベルじゃない。さっきから良い位置にはアームを持ってきているのだけど、一切持ち上がらずにそっと撫でるだけ。
これ、詐欺じゃね? どうやって取るのさ。
「ふふ、そこまでにしておいた方がいいよ、三条さん。大丈夫、後は私に任せて……」
三条先輩に代わり、再び硬貨を投入してアームを動かすあやかさん。
隣では『これは絶対に取れないようになっているのよ! 箱に接着剤でも付いているに違いないわ!』と鼻息を荒くしているJKが居るが。
しかし少々大げさかもしれないが、三条先輩の意見は正しいと思う。あんなの何をどうやっても取れる気がしない。
あやかさんは先ほどのポッキーをゲットしたみたく、正攻法のキャッチは狙っていないようだ。またとんでもない場所でアームを下降させて……。
「「え?」」
本日二度目のユニゾンとなった。
ポテトチップスが入った箱の封緘部、なんとその僅かな隙間にアームの爪を入れ込み、ぶっ刺して持ち上げたのだ。
そのまま箱は吊り上げられ、初期位置に戻ってきた。
「落下はしていないけどゲット判定になると思うから。ちょっと待ってね、すぐに店員さん呼んでくるから♪」
呆然とする俺達を脇目にスキップで店員さんを呼びに行くゆるふわJDさん。尚、無事ゲット判定をいただけた。
マジですげえっす、あやかさん。




