親父との思い出
今日も今日とて蝉が全力全開で鳴く朝。怪我の具合も大分良くなったこともあり、残った僅かな夏休みを満喫するべく、現役JKとJDが、ありがたいことに迷えるおっさんDKを推しのスポットに案内してくれることになっている。
二人とは駅前で待ち合わせとなっており、朝からウッキウキ気分で支度をしていたのだが……。
「おっ? 修、出かけるのか?」
珍しく平日に家にいる親父が声をかけてきた。どうやら遅めの夏休みを取得しているようだ。俺もかつては客商売に身を置いていた身なので、その辺りには理解がある。盆と正月は稼ぎ時ですからね。
TV関係だと年がら忙しいのだろうけど。プロデューサー業も楽ではないようだ。
「ああ、三条先輩とあやかさんと少し遊んでくるよ」
「ご令嬢と……修、粗相の無いようにな? お前の間違った判断で一家離散の可能性も含んでいることを努々! 努々忘れるんじゃないぞ?」
三条財閥を恐れ過ぎだろ。いくらなんでも一個人の家庭を潰すような真似はしないだろうに。
……ないよね?
「いい身分だね。二人の女性と遊ぶだなんて。将来ロクな大人にならないよ」
リビングのテーブルの上に盛りだくさんの空白のプリントを置いて皮肉を投げてくるのは雪だ。
「雪は将来、良い大人になる為にもまずはその手つかずの宿題達を早く片付けることだな」
「ぐぬぬっ……」
ちなみに俺は女性と一切遊ぶ機会がなかったけども、ロクな大人になれなかったけど?
尚、ハンターのような鋭い目付きで唸り声を上げつつも、必死にリビングのテーブルにかじりついている雪は、一般的な学生の例に漏れず夏休み終盤に追い込みをかけるタイプとなっている。俺もかつてはそうだったが。
にしても懐かしい風景である。自室はなにかと誘惑が多いから背水の陣でリビングで宿題をしてたもんな。毎年兄妹仲良く地獄を見たものだ。
「そういうお兄ちゃんはもう終わってるの!? 去年は一緒に汗水垂らしながらやってたじゃない!」
「宿題? そんなもん、一か月前には終わらせてあるぞ。この夏休みは怪我のせいもあったけど、あやかさんに手伝ってもらいながら、三条先輩と共に予習、復習、仮想試験を何度も繰り返して今まで過ごしてきたからな」
「このガリ勉め……。いつからそんなキャラになったのよぉ……」
「それにしても修も変わったもんだな。父さんは嬉しいぞ! 大学に入る気も満々だし、就職したら俺と一緒に仕事するか? 口をきいてやるぞ?」
TV関係の仕事自体は立派な仕事だと思うのだが、晩年、動画配信とかに押されちゃう未来があるんだよなぁ……。
とはいえ、昔ながらの人気の職種で需要はあるにはあるのだろうけど……。
「いや、遠慮しておくわ。親の七光りと陰で言われる可能性もあるしな。それにまだ高一だし就職の事を考えるのはまだ先でいいかな」
「はは、違いねえな! まあ、父さんはお前が進みたい道を応援してやるからな!」
なんだかんだ言いながらも、理解のある親父であるのは認めざるを得ない。事実、板前になるって急に言い出した俺を最終的には快く送り出してくれたもんな。
親父の期待に応えれないことを謝ったら『構わねえよ、その代わりいつか美味い飯くわせてくれよ?』と頭をガシガシされた。
あん時はマジで泣いたもんな。いい親父だよ……。
「でもワンチャン、三条財閥の婿養子になる可能性もあるよな? そうなったら父さん、仕事辞めていい?」
前言撤回。
「死ぬまで働け」
子供の脛をかじろうとするんじゃねえよ。ニートになんかさせねえよ? by元ニートより。
婿養子もなにも、俺と三条先輩は部活の部長と部員の関係でしかないのだ。この夏、ずっと傍にいてくれたのは、怪我を負わせた負い目で一緒に居てくれただけにしか過ぎない。
それに勉強が主体ではあったし。まあ……楽しかったのは事実だが。
あんな綺麗な人がデケぇまで持ってるんだ。世界の富豪とか著名人ぐらいしかあの人とは釣り合わないと思う。一般ピーポーの俺には高嶺の花どころじゃないもんな。さて、準備準備っと!




