嗚呼、夏休み
「はい、バッチリ! 見直しもしっかり出来てるし、ケアレスミスもなし。満点だよ♪」
先日の夏風邪から無事回復したあやかさんの弾む声と共に、テストの答案用紙を返された。いくつになっても100点を取るのは嬉しいものだ。ただ『100点』の文字の後になぜかハートが散りばめられていたが。
それにしてもすぐに治って良かった。ご本人曰く、誰かさん達のせいで大量の汗をかいたから一気に熱が下がったとか……。こっちはこっちで大量の冷汗と涙が出ましたけどね。
「三条さんの方は……残念98点。答えは合っているんだけども、答えの単位が間違ってるよ? 油断大敵だね」
「くぅぅう……ひっかけ問題にまんまとやられたわ!」
それはひっかけ問題ではないと思う、純粋なケアレスミスでしょ?
などとお二人の掛け合いを見つつ、ふと壁にかけてあるカレンダーを眺めた。気が付けば八月も最終週。足の怪我もあったせいか、ただただ勉強三昧で過ごした夏休みであった。
そんな青春を代償にしたおかげで、かなりの学力が身に付いたと自分でも実感出来る今日この頃だ。二回目の高校生活は、学力極振りのガリ勉野郎だ。
尚、ギプスの方も無事に取れた。まだダッシュなんて真似こそは出来ないが、普通に歩く分には問題ないレベルにまで回復した。
医者からは『やっぱ若いから治りが速いねぇ』と定番の言葉をいただいた。流石は高校生ボディである。中身はおっさんなのに。
「じゃあ、勉強はここまで。残った夏休みは思いっきり遊んだらどうかな? 二人は高校生なんだから思い出作りも大切だと思うんだ」
夏休み終了まで残り一週間。あやかさんから遊ぶことも学生の本分と諭され、残った日は気分転換に遊ぶことにしたのだが、ここで大きな問題に直面した。
「でも遊ぶって言われても何をして遊ぶんですか? 俺がかつて経験した高校時代は、三年間丸まる部活に魂を捧げてましたし、働き出してからは遊ぶ暇なんて微塵も無かったので。だから急に遊べと言われましても……。基本的に仕事が休みの時は体と精神を休める為にごろごろするか、膝を抱える事ぐらいしかしてなかったですからねぇ……」
俺の過去を話した所、三条先輩とあやかさんがドナドナされていく子牛を見るかのような瞳で俺を見ていた。特に後者の膝を抱える事に反応したようだ。でも料理長のプレッシャーって半端無いんです。メンタル鋼の俺でも何度折れそうになったか……。
「なんかとっても可哀いそう……これが大人の世界なんだね……」
「で、でもほら! お酒とか飲めるのが大人の特権だし、そういった場では楽しんでいたんじゃないの? 今は高校生だから飲めないけど……」
「そうですね、居酒屋巡りは結構好きでしたね。十分静養した休日の夜によく行ってましたね。ふらりと入って、隅の空いている店のカウンターに座り、二、三品頼んで味を盗みつつ一人静かに晩酌していたのはいい思い出ですね……。どうしました? さっきから二人して顔を覆って……」
気が付けば二人は手の平で顔を覆い、小刻みに震えていた。どうやら俺の過去の人生について悲しんでくれているようだ。でもだいたいの大人ってそんなもんじゃないのかな?
「分かったわ! 私が後輩君に高校生の遊びというものを教えてあげるわ!」
「お姉さんも、こう見えて大学生だからね! 大人の遊びってものを教えてあげるわ!」
言葉を選んでもらえます!? 大人の遊びはダメでしょ……。
あやかさんは未成年ではないのだが、ちょっとガードが緩過ぎるというか。なんというか……。もっとしっかり自分を持って欲しい。じゃないと良からぬ虫が寄ってきてしまいますよ?
「後輩君は今は高校生なんだから高校生らしい遊びをするべきよ! だから私に任せて、あやかさんはご辞退下さい」
「ええっ!? 三条さん、それは酷くない!? 私だって高校生の時はあったんだよ!?」
なにか揉め出した。ちなみにJDですからね、当然、JKの時代はあったでしょう。
「まあまあ、でも高校生時代のあやかさんってどんな感じだったんですか?」
「え?」
真顔を向けられた、話の流れ的には間違ったことは聞いていないような気がするんだけど。
「い、いや、きっと可愛らしい女の子だったんだろうな~って」
「じゃあ今は可愛くないっていう事なの?」
しまった。失言だった、これでは高校生時代は可愛かったのに、今はそんなに……と取られてしまった。即刻言い直さねば!
「!? 後輩君、ダメ、それは罠よ!?」
「いや、そういった意味ではなくて今のあやかさんも可愛いく……え? 罠?」
同時に言葉を発したのだが、罠とはなんぞや?
「えへへ、そっか……修君から見た私って可愛いんだぁ~♪」
「きいっ!! 後輩君っ!」
ああ、罠って可愛いって言わす意味だったのか。だけどそんな遠回しな言い方をしなくても褒めるぐらいいくらでもしてあげますよ?
「あやかさんは普通に可愛いと思いますよ? アイドルも顔負けの容姿もさることながら、なにより声がいいですからね。言葉も聞き取りやすくて……ってどうしました?」
「お、修君……いきなりそんないっぺんに言われちゃうと……わ、私……」
「後輩君? ちょっといいかし……ら!?」
赤く頬を染めるあやかさんに青筋を立ててる三条先輩。この二人が共に笑う場面がなかなか無いのは何故だ?




