みくサイド~ダークホース~
みくサイド
「おかえりなさいませ、お嬢様……あの? お嬢様?」
みさきちゃんに声をかけられたのだけども、考え事をしていた為、スルーして目の前を通り過ぎてしまった。
「あ、ご、ごめん、みさきちゃん。ただいま……」
「どうされました? 随分と元気が無いみたいですけど……あ、そうだ! テンションが上がる物を見ます!? 海外から取り寄せていたものが今朝方届いたんですよ。ちょっと待ってて下さいね!」
文字通り胸を弾ませ倉庫の方に向かって行った。あの天真爛漫さが今は憎い。しかしどうやってダイエットしようかしら……。やっぱり朝ご飯か晩ご飯を抜かないとダメかしら……。
「ひゃほぉ~お嬢様~」
朝ご飯と夜ご飯のどちらを絶つか再度考えていたところ、みさきちゃんがご機嫌な声と共に、車輪のついた板のようなものに乗ってこちらに向かってきた。
あれは……なにかしら?
「どうです? これ、電動の立ち乗り自転車らしいですよ! ほら、体重移動で自由自在に動くんです! お屋敷の中は広いですし、歩くだけでも疲れちゃいますので、これさえあれば実質カロリーゼロで移動が……あれ? お嬢様? もしも~し?」
即、返品処理を立花さんにお願いした。我が家では楽して動くアイテムなど必要ありません!
みさきちゃんの抗議する声を背後に自室に戻り、服を脱いだ。今まで見ないようにしてきたのだけども、意を決して下着姿になって姿見の前に立った。
お・な・か・オ・ン・ザ・ぱ・ん・つ……だった。
泣いた。
私はあの超鈍感が服着て歩いているような、後輩君でさえも気付くぐらいにまでに脂肪を蓄えてしまっていた。
ちなみにそれに伴ってブラもきつい。ここのところ、締め付けがきつく、くっきりと跡がついてしまう。
どうやらバストサイズは確実にFからGになった模様……。下着を新調しないといけないみたいね。せめてもの救いは念願であるバストアップが叶ったという事実。
「いやいや……今は胸よりこのお腹をなんとかしないと。さもないと……」
『あ、俺、デブは無理なんで。いや、ほんと無理なんで勘弁して下さい』
『みじめだよねぇ、かの三条財閥のご息女がご肥満だなんて♪ ほら、ブヒヒとお鳴き?』
ああ、後輩君とあやかさんからの罵倒が脳内でシュミレーションされる……。
『俺、デブな三条先輩なんかよりスレンダーなあやかさんの事が……ああ、貴女の全てを俺の物にしたい! 付き合って下さいっ!』
『ダメよ、修君。ほらあそこで子ブタちゃんが見てるわ。その返事は……二人きりになれる場所でしてあげる♪』
『あやかさんっ! 俺、もうっ!』
『あん♪ もう、強引なんだから♪ 三条さんの前ではダメだよぉ……もう、修君ったらぁ♪』
「……むっきぃぃぃっ!! なんでこんな時に限ってハキハキとした口調で口説くかなぁ!? しかもとってもえっちいんですけど!? まったく、貴方って人はぁぁぁあ!!」
はぁはぁ……お、落ちつくのよ、みく。ちょっと私の脳内妄想が捗り過ぎてしまっただけよ……。恋愛脳が機能していない後輩君があそこまで積極的になる事は無いわ。
大丈夫、なんてことないわ。少し脂肪が増えただけだもの。正直お腹に付いたお肉もあるけど、胸に付いたお肉もある。
何の問題も無いわ。むしろ育乳は望んでいた事じゃない。お腹のお肉は少しづつ、少しづつ減らしていけばいいのよ。
「お嬢様~。おやつのショートケーキをお持ちしましたよ~。一緒に食べましょう♪ ってまた裸で何をしてるんですか?」
「ちゃんと下着は着てるわよね? てかこの前も同じ事を言った記憶があるんだけど?」
いくら同じ女性同士だからと言って、ノックも無しに普通に入ってこないで欲しいんだけど?
でもよく考えたらみさきちゃんて私以上に食べてるし、ジャンクな物も好き……。胸は私より大きいけども、反面、もしかしてお腹は私よりやばいんじゃ?
「あの、みさきちゃん? いきなりこんな事を頼むのもあれなんだけれども……ちょっと裸を見せてくれないかしら?」
「え……私、そっちの趣味は……」
ショートケーキを持ったまま後ずさって行った。目が完全に死んでる……。
「違うわよ、その……ちょっと私太っちゃったから、ダイエットしようと思うんだけど、みさきちゃんのスタイルを目標にしたいなぁ~って思って。ほら、みさきちゃんて女性の私から見ても綺麗で可憐で美しいから」
「え~? そ、そうですかぁ? 普通ですよぉ♪ ま、まあそこまでお嬢様に懇願されては仕方ありませんね! じゃあちょっと待って下さいね。このメイド服、ワンピースタイプだから一度全部脱がないといけなくて」
なんてチョロイ人なの……。本当はお腹周りについた惰肉を確認させてもらうんだけどね。
衣擦れの音を立て、遂にその裸体を晒したみさきちゃん。大きく実った張りのある果実を包んだブラの下には薄く割れた腹筋が見えた。
はい? お腹ぺったんこなんですけど? なんならムキってますけど? なにこのナイスバディ。本当に三次元の人? 冗談抜きでリアルに綺麗で可憐で美しいんだけど?
それにお腹以外にもよくよく見ると腕も引き締まってるし、脚も太腿も引き締まって……。それになにより胸よ、あれだけ大きいのに垂れるどころか張りがあるなんて……。
一体どんな胸筋してるのよ!?
「み、みさきちゃんてそんなスタイル良かったんだ……。はは、メイド服で隠れて気付かなかったよ……」
「特に何もしてないんですけどね。ただ、お仕事をしてたらこんな感じになったっていうか」
そ、そうか、そもそもこの広い屋敷を立花さんとみさきちゃんの二人で賄っているものね。主に料理などは立花さんが用意するけども、肉体労働系は一手にみさきちゃんが引き受けてる。
この広い屋敷の室内外の掃除に洗濯、お買い物……。毎日超運動してるじゃん。そりゃあ、腹筋も割れるわ……。
「さ、お嬢様、いつまでも裸でいないでケーキを食べましょ?」
再びメイド服を着直し始めたのだけども、化物がごくごく身近に居た。こんな姿を後輩君に見られたら一巻の終わりだわ。
「みさきちゃん。絶対に後輩君の前で服を脱いではダメよ?」
「脱ぐわけないじゃないですか。あ、お嬢様はあの子の事が好きですもんね! 大丈夫ですよ、私、高校生には手を出しませんから♪」
「あけっぴろげに言わないで!?」
くぅ……みさきちゃんにはバレてるのね。まあ普通の人なら気付くわよね……。
とりあえずダイエットよ! こうなったら食事制限だろうが運動だろうがガンガンやってやるわ! 痩せて痩せて痩せまくってやるわ! あやかさんみたいに……あやかさんみたいにスレンダーになってやるんだから!!




