目を逸らしていた事実
「……三条さん、太った?」
低空に見える水色の空。上空に上がるにつれて青の濃さが増していく夏の青空。
そんな空が覗く我が家の部屋に、ちょこんと愛らしく座るあやかさんの口からとんでもない言葉が飛び出した。
「へ?」
三条先輩から気の抜けた返事が漏れた。
夏休み真っただ中だというのに、どこにも遊びに行かず、今日も冷房の効いた部屋で家庭教師のあやか先生と、三条先輩とで勉強の毎日を送っているのだが……。
「あ~、ですよね? 俺も密かに全体的にふっくらしてきた——てゆうぇっふるっぶっ!?」
骨折が治っていないので今日もベッド上から失礼していたところ、光の速さでビンタが飛んできた。
今日の三条先輩の服装は、ショートパンツにTシャツ。あまり肌を見せない三条先輩らしくない格好となっており、いつにも増して体のラインが良く見えたのだ。
段々と我が家でリラックスするようになってきているのは間違いない。
「い、痛いですぅ……」
頬に手を添え、泣き顔を作って訴えたのだが、当の本人は怒りと恥ずかしさが混ざり合っているのか、肩で息をしながら随分とお赤い顔をして俺を睨んでいた。
「食べ過ぎだね」
「うぐっ!」
横からあやかさんが核心を突いた。まさにその通りだと思う。
ほぼ毎日俺の作るお昼ご飯やおやつを食べてますからねぇ。過去ではお袋が弁当を作ってくれたり、時間がない時は昼飯代を用意してくれていたっけな。
まあ、俺が料理を出来ると分かってからは、雪の分も作らされるようになったけど。
しかしそう悪い事でもない。お袋の負荷も下げられるし、毎日コンビニ弁当じゃ栄養が偏ってしまうからな。
とはいっても栄養のバランスは考えているが、さっと作れる賄いレベルの物しか作ってないけど。
本気で作ると時間かかっちゃうしさ。それに一人で食べるより、三条先輩とあやかさん、それに雪と一緒に食べる方が旨いしな。
ま、それはさておき、お昼は共働きの両親に変わって料理を作るのはともかく、おやつもスナック菓子等ではなく、一品料理を作らされてるからなぁ。
おやつを通り越して、夕食前の食事と化している感はある。
別に一回、二回ぐらいなら問題ないのだが、一日四食を常態化させたらそりゃ太りもするだろう。それに一日冷房の効いた部屋で勉強しているのだ。学校に行ってるよりはカロリー消費も少なくなるのは必然だ。
「だって、後輩君が作るお料理が美味しくて……この前の懐石も最高だったし、日々作ってくれる一品料理も……んっぶひゅうっ……」
息苦しそうに喋っていたのだが、どうやら喋りながらもお腹を凹ましていたらしい。
その光景の一部始終を眺めていたところ、涙を溜めて手を振り上げてきたので枕で顔面をガードした。暴力反対!
「ふ~ん懐石……羨ましい……。おほん、とにかく、これはしばらく三条さんは修君のご飯禁止しないとね。今日からお昼とおやつは私だけいただこうかな?」
確かにお昼とおやつは毎日俺が用意させていただいておりますが……。結構食べますもんね、お二人とも。あやかさんは夜を自然に控えてるっぽいから、トータルで丁度良いカロリーなんだろうけど、三条先輩は確実にオーバーしてそう。
「お昼とおやつ禁止!? そんなの無理! 他の料理ならまだしも、後輩君のお料理を食べられないなんて私の胃袋がどうにかなっちゃうわ!?」
三条先輩があやかさんに食ってかかった。その後ろ姿を見ていると、Tシャツごしにブラがお肉に随分と食い込んでいるのが見えた。
なんたる豊満な肉付き……。もしかしてデケぇが更なる進化を遂げようとしてるのだろうか。
「修君、何処見てるの?」
三条先輩越しの言葉に震えた。今の一言で室温が三度は下がったと思う。普段ゆるふわなのに結構鋭くなる時があるんだよな、あやかさんって……。
「くっ……運動よ! この炎天下で走り込めば体重なんてすぐに……」
三条先輩はデケぇを弾ませながら勢いよく立ち上がり、窓の外を覗いた。その先には親の仇かのごとく降り注ぐ日差し。そしてそれを遮る雲もひとつも見受けられない。
ドが付くほどの快晴である。
室内はエアコンが効いているが、間違いなく外気温は余裕で三十度を軽く超えているだろう。この環境下で運動など正気の沙汰ではない。それに……。
「あ、俺は足がまだ治ってないのでお付き合いは出来ませんから」
先に釘を刺すと、その場に崩れ落ちた。
「後輩君の作るお昼とおやつをお腹いっぱい食べるには一食減らさないと……。朝? 晩? 朝はお腹いっぱいになってティータイムを楽しみたいし、夜はお腹いっぱいになってティータイムを楽しみたいし……一体どうすれば……」
普段から常に満腹がデフォなのね。めちゃめちゃ食べてる件ね。そしてそのティータイムってどうせお菓子もあるんでしょ?
腹八分目という言葉をご存じか? デケぇ所持者の方はみんなこんな感じなのだろうか……。




