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悪魔の囁き

 

「ううっ……ひぐっ……酷い、酷い、酷い……」


 魔王さんでの買い付けを無事に終え、その他の食材も仕入れる事が出来た。その間にすっかりと日は登り、今ではさんさんと日差しを降り注いでいる。


 そんな中、クーラーが効いた快適な車内で食材と共に学校に向かってくれているのだが、助手席では嗚咽を漏らすみさきさんがいる。


 手には紙袋を持っているのだが、先程マジでドライブスルーに寄ってハンバーガーを購入させられていた。


 尚、魔王さんとは三条財閥の名の下に、今後も取引が出来るようになった。とはいえ、魔王さんの食材は超一級だが、その分お値段も張る。今回は懐石を作る為に利用させてもらったが、毎回毎回利用するのは少々気が引ける。


 なので料サーの活動としては、原則は駅前のスーパーを利用させてもらう予定だ。部費の上限が無いサークルだが、毎回最高級食材を利用するのもどうかと思うので。


「そんな恨み節で迫らないでもらえるかしら? ハンバーガーセットを二個とポテトと飲み物をLサイズに変更してあげたでしょ?」


「ハンバーガーと懐石料理を比べて見て下さいよ!? セット二個とLサイズ化はありがとうございますぅ!」


 しかし女性がセット二個のLサイズとはいささかカロリー的に……そうか、そうしてなるべくして大きくなって行くのか。


「ああ、もう分かりましたよ! こうなったら……こうしてやるっす! これでもくらえっす!!」


 急に体育会系の語尾になったかと思うと、みさきさんはとんでもない所業に打って出た。


 なんと、車内でハンバーガーとポテトを開封するや、その場で貪り出したのだ。


「み、みさきちゃんっ!? なんてことを!?」


 慌てた声が車内に響くと同時に、紙袋から漏れ出てくる何とも言えないジャンキーな匂いがエアコンの風によって車内に充満させた。


「うめえっす! ポテト、超うめえっす! あ~、コーラも旨っ!! こいつら、最強のコンビっすわぁ!」


 当のメイドさんはポテトの入った容器を直接口に当て、ラッパ食いを敢行していた。口の中にめい一杯頬張っては大きく咀嚼し、口の中が無くなると間髪入れずストローに食らいつき、怒涛の如くコーラをズビズビと吸う。


 男でもなかなか見れない程の気持ちが良くなる食べっぷりである。


『ぐぅぅ……』


 可愛らしい腹の虫が聞こえてきた。顔を真っ赤にしてお腹を押さえる三条先輩。今日は朝早かったですからね。それにどうやら今回は前回の炭秋刀魚の時と違い、羞恥心があったらしい。


 いくら財閥令嬢とはいえ、華も恥じらうJKに変わりないのだ。このジャンキーな香りを放つポテトの魅力には敵わなかったらしい。


 しかしこれは仕方がない。俺は和の美食を追求し、繊細な味付けにこだわりを持ってやってきているが、そんな俺だってファストフードは食べる。なんなら好きなぐらいだ。


 しなしなの細ポテト、旨いもんね。


「けふ……ポテト超旨かったっすわぁ。おや? ここにもう一個あるっすよぉ? どうっすか? お嬢様も食べるっすかぁ? あ、これから懐石を食べるのでしたっけ? それじゃあお腹開けておかないといけませんねぇ? でもこのポテト、超旨えっすよ?」


 見下すかのように口の周りに付いた塩を舐めながら、小憎たらしい顔を向けてきた。もはやクビになってもおかしくない攻め攻めの態度だ。


「み、みさきちゃん……貴女って人はぁ……」


 息を絶え絶えにしつつも、尚も茶番を繰り広げる二人であったが、俺はそっと窓を開けて夏の生ぬるい風を車内に送り込んだ。


 とりあえず車内でハンバーガーセットを食べないでもらえますかね?



「うぷっ……あの誘惑には勝てなかったわ……」


 お腹をさすりながら実験室で項垂れる三条先輩。ちなみにしっかりとポテトはおろか、ハンバーガー、ドリンクを含めたセットを丸々一個食べきっていた。


 みさきさんは『ちょっ!? 食べ過ぎっす!? それは私の朝ごはん兼お昼ごはんなんすよ!? え? ハンバーガーは!? ハンガーガーはだめっすよぉぉお!』と想定外の反撃に出た三条先輩に助手席から喚き散らしていたが。


「はは、美味しそうに食べてましたものね。俺もちょっと食べたかったぐらいでしたよ」


「貴方は……どうしてそれをあの場で言わないのよぉ……」


「だってみさきさんに負けず劣らずの勢いで食べてましたし……邪魔しちゃ悪いかなって」


 お嬢様ならぬ食いっぷりであったことは認めざるを得ない。ちゃんと手を使って上品には食べていたが。


「いくらでも食べさせてあげたのに……。ポテトを『あ~ん』とかするチャンスだったじゃないの!」


「いや、流石に立花さんやみさきさんが居る前で『あ~ん』はちょっと……仮に誰もいなくてもJKに『あ~ん』は社会的にアウトになるので遠慮しておきます」


「貴方は今は高校生だからいいの! もうっ! 次は逃さないわ……」


 虎視眈々と獲物を狙うような目つきの三条先輩が恐ろしくなってきたので、急いで目線を外し、調理中の料理の方に目を移した。


 足の方はまだギブス状態だか、何とか調理が出きる程には回復している。まあ、ずっと寝てるのも良くないので、立ち作業は丁度良いリハビリになるのではないかと思ってる。


 ちなみにおしゃべりをしながらも下ごしらえの方は着々と進めている。口は動かしても手を止めませんよ? 一応はプロですから、


「よし、これで準備完了と。それでは三条先輩、料サー夏の特別活動、懐石フルコースをご堪能下さいませ。とはいえお腹はいっぱいでしょうから無理はしないで下さいね」


 大食いチャレンジ前の注意勧告に近い物を伝え、そっと第一の料理である先付をお出しした。


「大丈夫、懐石は別腹よ。ハンバーガーとポテトの食べ過ぎで貴方の作った料理が食べれないなんて愚の骨頂だわ」


 謎のパワーワードが吐かれた。懐石はデザートではありません。がっつりコース料理なので先程食べたハンバーガーセットと大差無いボリュームはあるかと……。


 とは言え、いくらなんでも流石に食べ切れないだろうと踏んでいたのだが、驚くことに『美味しい、美味しい』と一品ごとに賛美され、まさかのデザートに至るまで一切残さずに目の前で全て平らげられた。


 魔王さんで仕入れた食材が超一級品である点や、道具も同じく超一級品であることから、自分でも会心の出来栄えの懐石コースを作れたとは思う。

 あの料理長ですら頷いてくれる程の出来映えだとは思っているのだが、今回一番深く感じ取れたのは……。


 成長期の子の食欲ってやべぇな、ってことだった。


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― 新着の感想 ―
[一言]  そんなに食べたら、『でけえ』がさらに育ってしまう。
[一言] でかでかメイドを泣かせるでかJKのお言葉。 だってこれはお料理サークルで使う食材ですもの。 サークルメンバーでもないアナタに食べる資格があるとお思い? ましてアナタはウチの生徒でもなければ…
[良い点] いっぱい食べる君が好き〜♪ [一言] パクパクですわぁ〜!!
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