誠心誠意の対応
今日も今日とて蝉の鳴き声が届く夏の部屋。目の前にはいつものように三条先輩と家庭教師のあやかさんが座り、俺を見ている……? のではないかと思う。
何故疑問符かと言うと、俺が視認出来ていないからだ。別に目を瞑っているとかではないのだが……。
ところで話は変わるが、日本にはわびさび、つまり情緒を大切にする趣がある。
それに伴って古来から様々な謝罪の方法がある。その中で最も誠意を表すことに特化した表現があるのを俺は知っている。その名も……。
D・O・G・E・Z・A。
そう、土下座である。だが骨折している足ではこの技を繰り出す事が出来ない。なので……。
「なんの、真似かしら?」
明らかに憤怒の感情を隠しきれていないJKの声が頭上より届いた。そんな俺は現在、床にうつ伏せに寝そべり、腕を上げて合掌している。
「足を折りたためないので、五体投地にて対応しております」
「ふぅん……で?」
いかん……怒りが溢れ過ぎて言葉が単調になってる。下手したら脳天に足を置かれてぐりぐりされそう。
JKの足でぐりぐりなどある意味ご褒美……いや、違う違う。俺はそんな性癖は無い。ただ足蹴にされても怒りはしないだろう。俺、大人なので。
「後輩君、想像して。一緒に夏祭りを回ろうと約束した女の子が居ます」
「は、はい……」
一体何の話を……いや、今は考えるな、本能のままに感じたままに答えるんだ!
「金魚すくい、りんご飴、綿菓子、ベビーカステラ、イカ焼き、焼きそば。普段とは違う非日常のお祭りの雰囲気。お祭りって世間一般で言う夏ならではの、男女の距離を縮めるイベントよね」
食べ物の屋台名が多いな……。いや、そこじゃないか。
「しかし、突如襲った不幸のせいで急遽一緒に夏祭りを回るのは中止になってしまいました。はい、そこ、どう思うかしら?」
「ざ、残念だなぁ……と」
「そうね、残念よね? やむを得ない事情があったとしても残念よね? そんな気持ちを持って私は一人で夏祭りに望んだわ……。で、その間に後輩君はあやかさんと二人で過ごしていたですって? し・か・も! 二人だけの秘密までも喋っちゃったって? これは一大事を通り過ぎて、早くも世紀末だね?」
余りの迫力ある声に一瞬三条先輩に目を向けたのだか、『ゴゴゴ……』と背景に擬音を背負いながら冷たい目を向けてた。見ない方が良かった……。
ちなみに世紀末は少し前に通り過ぎているので、次の世紀末にはかなり頑張って長生きしないと辿り着けませんよ?
それにしても遥かに年下であるJKと目を合わせる事すら出来ねぇとは。でもめっちゃ怒ってるしなぁ……。怖えよぉ……。下手したら料理長クラスかも……。
「まったく……自分自身の事なのよ? もっとデリケートに扱わないと! あやかさんは悪い人じゃないから良かったものの……。まあでも、これで音楽活動に身を入れてもらえれば——」
「あ、三条さん? 私、音楽辞めるの」
「……え?」
無言の空間が訪れた。いや、窓越しに厳密に言えば蝉の鳴き声だけは聞こえるのだが。しかしそう考えると蝉の合唱って窓を閉めてても聞こえてくるし、かなりの大音量だよなぁ。
おっと、余計な事を考えている事がバレたら本気で足蹴にされてしまう可能性がある。集中せねば。
「後輩君から聞いたんじゃ……。世界レベルのアーティストになれるって……」
「うん、聞いたよ。でも今は新しい夢が出来たんだ」
プロのアーティストになる事を蹴ってまで叶えたい夢とな? 一体あやかさんは何を目指そうとしているんだ?
「どんな夢か聞いても?」
次の瞬間、尚も五体投地中だが、あやかさんの口角が上がるの俺は見逃さなかった。
いやあ、俺じゃなきゃ見逃してたね。
「お・よ・め・さ・ん♪」
「後輩君?」
口を筆記体のWにしている無邪気なJDの隣には、背後に揺らめく何かを背負った憤怒したJKが居た。
火山爆発、激おこぷんぷん丸インフェルノ状態だ。
「お、お嫁さんですか……。よ、良い人が見つかるといいですね」
とりあえず何か返さなくてはと、放った一言。これが更なる不幸を呼ぶ事になった。
その瞬間、先程まで無邪気さに満ち溢れていたあやかさんは、突き刺さるような鋭い眼となり、反対に三条さんは口元に手を当てて嘲笑っていた。
秒で陰と陽が入れ替わった。こんな事ってある?
「ねえ、三条さん、修君のこの症状酷くない?」
「そう思うわよね? 良かった、私だけおかしいのかと思ってたから。もはやわざとやってるんじゃないかと疑うレベルよね」
そして急に結託して仲良くなられた。なんか許された感は出たので、とりあえず五体投地はとりやめ、そそくさとベッドに戻り、おしゃべりに興じ出した二人をよそにノートを開いた。
可愛らしいJD様と美しいJK様に少しばかり見とれながら。




