バラしました
しばらく無言の時間が流れた。クーラーのファンの音がいやに大きく聞こえる。
先程俺は隠していた素性を全て語った。元の年齢、職業、ニートになった経緯まで。これで俺の事を知っているのは三条先輩に続いて二人目となった。
「……年齢の割に随分と大人びた仕草や違和感があったのはそう言う事だったんだ。それにお料理が上手なのは元がプロの板前さんだったからかぁ」
「今まで隠していてすみません……。でもこんな話をしても信じてもらえるかどうかも分からなかったもので……」
尚、俺の知りうるあやかさんの情報もお伝えさせてもらった。その自身のこれから起きる功績に最初は混乱した様子だったけども、今では落ち着きを取り戻している。
「……修君のタイムリープの事、三条さんも知ってるの?」
「ええ、当初、脅迫まがいの選択を迫られまして……」
「き、脅迫……どんな内容?」
「……おっぱいを触られたと言って職員室に駆け込まれるか、全てを白状するかの二択でした」
「はは、それはどうしようもないね。……で、触ったの?」
「目、目が怖いんですけど。さ、触ってる訳ないじゃないですか! 三條先輩の策略ですよ!」
パイタッチなんて一撃退場もののレッドカードですよ? 職員室に駆け込まれたら嘘でも人生詰みますから。
「むぅ、ならいいんだけど……。それにしても私が世界のトップミュージシャンかぁ。でもね、私思うんだけど、未来って変わると思うんだ。きっと修君が知ってるミュージシャンのあやかは……まともに恋愛をした事がなかったんだと思う。だからあんなキラキラした歌詞を堂々と歌えたんだよ」
「それは、つまり……?」
ん? どゆこと? 未来のあやかさんに彼氏が居なかったって事?
「……ねえ、修君? タイムリープする前、彼女いなかったでしょ?」
それ、三条先輩にも言われましたよ。二人していじめないでもらえませんかね? 非リア充の何が悪いんですか。僕らは皆生きているんですよ?
「でもおかげですっきりしたかな! よし、今日はお姉さんのおごりでご飯でも食べに行こ! まだ晩御飯食べてないよね?」
「え……」
思わず目を見開てしまった。確かにまだ晩御飯と言う名のカップラーメンは食べてませんが。
それにしてもあやかさんが……おごってくれるだって? そんな大それた事を言うなんて……。明日は雹でも降るんじゃないだろうか?
「何、その顔は……バイト料たんまりもらったから大丈夫だよ!」
あ、そういえば三条先輩から分厚い封筒もらってましたね。
「さあ、牛丼でも食べに行こう!」
安い、早い、旨いのやつですね。安心しました。それでこそあやかさんクオリティです。
テーブルに置いた珈琲を一飲みし、またまた苦い顔をするあやかさん。だから飲めないのなら無理しなさんなって……。
「うぇ……やっぱ無理ぃ。はいっ、あげる」
いや、だからって渡されても……。
え? めっちゃ見てくるけど、何を待ってるの? とりあえずかなり残ってるし、確かに捨てるのはもったいないよなぁ。折角ルパンしてきた訳だし。とりあえずさっき飲んだ俺の珈琲のストロー刺し直して飲めばいいか。
うん、お高いだけあって焙煎された風味が段違いですな。
「……修君、本当に三十年以上生きてきたの?」
何故か目を細めて睨まれた。ストローが二本刺さったコーヒーの容器を見て。
俺の判断は間違ってないと思うのですが? だってそのままだと間接キスになるじゃないですか。
「ねえ、修君?」
なんかまた怒られそうな予感が……。
「私ね……やっぱり音楽やめるよ」
「はい、そうですね。すぐに芽が出ますのでこれからも頑張っ……はいぃぃっ!? 俺の話を聞いてましたぁ!? 続けていれば超一流のミュージシャンになれるんですよ!? どうしてやめちゃうんですか!!」
「じゃあ、ひとつ聞かせて? 修君はどうしてまた料理の道を歩もうとしないの?」
うぐっ……正直、料理長のあのご指導をもう一度受ける事を考えると足が震えてしまって……とは言えない。格好つけて二回目の人生は違う景色も見てみたいとでも言うべきか?
返答に困っていると、あやかさんが笑顔を向けてきた。
「ね? 修君も私と一緒。可能性は一つじゃないんだよ? 修君が知っている未来と、これから歩む未来は絶対に違うから」
「で、でも……」
「でもも、へったくれもありません。さ、難しい話はもうお終い♪ 牛丼が待ってるよ? 早く早く、私、お腹空いてるんだ♪」
「ちょ、待って下さいよ、俺、足が折れてるんですよ!? まだ走れませんから!!」
悪戯顔ながらも、とても柔らかい笑みを投げかけられた。それにしてもいろいろと考えさせられる内容だな。
これから歩む未来は違うか……。確かにそうだな。もう俺の知ってる過去ではないもんな。




