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お留守番

 

 いつもと変わらぬ蝉の鳴き声に、どこまでも済んだ青い空。


 そんな夏の様相とは相反して、冷房をガンガンに効かせた風情の欠片も無い快適な俺の部屋。


 だって暑いんだもん……。あやかさんのおばあさんの家とは違って窓を開けても入って来る風は生ぬるい……どころか熱風だもの。冷房を考えた人はマジ天才だと思っています。


 そんな最高の環境で真面目に勉強に取り組む俺と三条先輩。そして講師のあやかさん。


 ……は今日は不在だ。


「あやかさん、頑張ってますかね……」


「そんな心配しなくて大丈夫よ。だって世界が認めるミュージシャンになる人なんでしょ?」


 本日は夏祭り当日となっており、朝から音楽祭に参加するアーティストの方々の予選が行われている。


 まあ、あの歌声があれば予選通過なんて楽勝だろう。あくまでお祭りの余興枠なので、特に賞などがあるわけではないが、かなりの人数に注目はされる。なんならそこでデビューの声かけが来る可能性も高い。


 怪我の介護の為に泊まり込む気満々だった三条先輩も、あやかさんのことは応援してくれている。ちなみに泊まり込みに関しては流石にご容赦いただけるよう、頭を地面にこすりつけて懇願したところ、なんとか回避する事が出来た。


 その代わり、夏休み中は毎日朝から訪ねてくるようになったんだけどね……。


 おかげですっかり俺の家で勉強するのが日課になっている。ちなみに本日のお持たせは、匠が作った当日予約必須で有名な水ようかんだった。


 雪が超喜んでいた。今では毎日来て欲しいとすら言い出す始末となっており、完全に飼い慣らしたようだ。

 そして三条財閥に手に入れられない物は無いらしい。当日予約品が朝イチに手元にある時点でその勢力の強さが垣間見える。


「でも本当にいいの? あまり使いたくは無い手段だけど、三条財閥は夏祭りの大手スポンサーになってるから、VIP待遇の特別席で花火見物も出来るのよ?」


 今にして思えば、寄付金を提供してくれた企業や個人名称が飾られている場所で一番左上にデカデカと『三条財閥』と書かれていたような気がする。寄付額も他と桁が違っていたような……。


「はは、他所の人間がそこまで入り込むのは無粋ですよ。それよりも三条先輩こそ夏祭りを楽しんで来て下さい」


「……私はパパのおまけで何もしないわよ。ただ居るだけ。後輩君がいないなら、別に参加なんてしたくないのに……」


 なにやらぶつくさ言っているが、親父は今年もTV中継が入ると言っていたし、料理長のイベントもある。そんな盛り上がりを見せる祭りで一番のスポンサーが顔を出さない訳にがいかないだろう。


「ま、今年の夏まつりは諦めて俺は今日はゆっくりとTVでも見て過ごしますよ。ついでに料サーの夏の懐石メニューも考えておきますから」


「……分かったわ。怪我をさせたのは私だし、後輩君がそう言うなら。それじゃあ今年は我慢してパパと一緒に居ることにするわ」


 我慢て……。天下の三条財閥総帥も年頃の娘の前では形無しだな。親の苦労、子知らずとはよく言ったものだ。


 娘に対して超絶甘やかしてそうだもんなぁ、あの人……。



 夏祭りが行われている晩、例の料理対決番組の放送日でもあった為、テレビを懐かしみつつ眺めながらお菓子をついばみ、料サーの懐石メニューを考えていた。


 雪はもちろんのこと、職権乱用している親父がお袋もつれて夏祭りを堪能しに行っており、足を負傷している俺は空しくまったり一人でお留守番をしていた。


 正直、あの頃の俺なら大イベントである夏祭りに行けないもどかしさで部屋の中を七転八倒していただろうが、今の俺はお子ちゃまではないのでこの程度の事はどうという事は無い。

 むしろこの一人の時間を満喫しているぐらいだ。これが大人というものさ。


 ……と息巻いていたが、今、俺は心の底から戦慄してたりする。


 リビングのテーブルに置いてあった、いつぞやか三条先輩が持って来てくれた美味しいお菓子を食べ終わり、空容器を捨てようとした所、紙らしきものが手に当たったの感じた。


 なにかと思って容器の裏を覗くと、ビビットカラーの目が痛くなるレベルのピンクの付箋が貼りついていた。そしてそこには文字が書かれていた。


『雪用。万一お兄ちゃんが食べたら本気で蹴る。これぐらいの勢いで→ふぉあちゃぁぁぁぁあっっ!!』  


 終わった……。


 どうやら俺の尻が死ぬのは確定したようだ。付箋に書かれている言葉の気合の入り方が尋常じゃない。そんな雄叫びを発して出す技を堅気の人間にぶっ放すんじゃないよ。


 それにド派手な色の付箋はいいんだけども、どうしてそれを分かりやすい正面に貼り付けておかないんだよぉ……。裏側に張ってあったら分かんねぇよ!!


 とはいえ、涙をこぼしながら四つん這いになって拳を床に叩きつけたところで何も解決しない。俺の尻が生き残る為には三条先輩に頼み込んで同じ物を用意してもらうしかない。


 その際の要求はどんなものでも飲むしかない……。俺は尻が惜しい……。


 そんな絶望の淵で思い悩んでいると、チャイムの音が鳴り響いた。この時間に誰だろうか……回覧板か? 正直それどころの心情ではないのだが、今は俺しかこの家にいない。

 止む無く足を引きずり、少し時間がかかって玄関を開けたのだが……。


「えへ……こんばんわ、修君」


 玄関を開けて現れたのはお隣のおばさんではなく、アコギの入った大きなバッグを背中に背負った、元気の無いあやかさんが立っていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 暴力や脅迫がゴミ、それに対して毅然とした態度をとれない主人公もゴミ。それがなければ面白いのに。 だから人気の話ランキングでキャラがあやかのばっかり入るんですよ。 面白い部分もあるので読んでま…
[気になる点] とりあえず、三条先輩に頼ってお菓子のお取り寄せを。 そうすればなんとかなるさ、きっとたぶんメイビー…   あやかさんはまさか落ちちゃったのかな? と、思わせて実はお腹が空いただけとか?…
[気になる点] 元気、ないんですか…… [一言] 修くん。 大丈夫?俺で良かったら話し聞こうか?でいくんだ。
2022/05/07 14:46 退会済み
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