男子トーク
「……なんか痩せたか?」
退院したその日の晩、恭介が見舞いに来てくれた。俺があまり満足に動けない状態なので部屋にまで上がってもらったのだが、顔を見るや否や質問が投げかけられた。
そんなに病んでいる顔をしていたのだろうか……。人並みに苦労はしてるけど。
「いや痩せてはいないと思うが、神経はそれなりにすり減ってるかな……」
「一体何があったんだ?」
「いやさ、三条先輩が泊まり込みで俺の看病をし出すと言い始めてさ……。それに感化されてか、あやかさんも『なら私も泊まりますぅ!』って流れになってさっきまですったもんだしてたんだ」
「どうしていつも修はそうなんだ? そんなに世の中の幸せを独り占めして楽しいか?」
冷たい目線と言葉を静かに置かれた。少なくとも俺にとってはその幸せとやらが目視出来ないのだが?
「それはそうと、お前、この前のお見舞いのエロ本、あのおかげで大変な目にあったんだぞ!?」
「はは、入院と言えば定番じゃないか。わざわざ修が好きなデケぇやつを仕込んでやったんだから感謝しろよ?」
お前は一体いくつなんだよ……。入院患者にエロ本は平成の話じゃねえだろ? もしかして俺と同じでタイムリープ者なのか?
そして悲しいかな、なんだかんだ言いながらも趣味は似通ってるという事実……。正直、あの本はじっくり腰を据えて読みたかったのだが、即廃棄させられたからなぁ。
「あの本、三条先輩とあやかさんに同時に見つかって変な雰囲気になったんだからな!! まあ、おかげで二人のバストサイズを知ることは出来たが……」
「なんだそうだったのか……爆散したらいいと思う」
流石に爆散はしたくないな。出来るなら原型は留めておきたい。優しい笑顔で恐ろしい事を言う奴だな。
「ところでその足じゃ不便だろうが、今年のこれはどうする気だ? なんだか例年に無かった特別なイベントがあるらしいぞ?」
恭介が取り出したのは夏を彩った煌びやかな背景が描かれている一枚のポスター。そこには『夏祭り』と書いてあった。ちなみにうちの近所の夏祭りは結構盛大にやることで有名でもある。毎年TV局も来るぐらいだ。
今にして思えば親父の地元愛による差し金だったのかも知れないが。
「……あっ!! そういえば!!」
ふと記憶が繋がった。恭介が差し出した夏祭りの案内を見るとイベント欄に『あの料理番組に出演した和の達人が来訪!』と書いてあった。
俺の師匠であらせられる、若かりし料理長が来るのだ。俺はこの夏祭りで料理長と知り合い、料理への道を歩むきっかけになるのが史実だ。
この夏祭りで行われたイベントには、料理長が作った料理を食べる権利をくじ引きで決めるといった催しものがあり、軽い気持ちで応募したら見事に当選したのだ。
運命とは恐ろしいものである。ここから料理長と繋がったんだものな。
「この人って、前にTVに出てレジェンドに勝った人だよな?」
意外にも恭介は料理長の事を知っていたようだ。人気のある料理番組に出演し、さらっと勝利した新進気鋭の板前さんだもんな。印象に深く残っていても不思議ではないか。
「にしても夏祭りかぁ。正直行きたいのは山々なんだが、流石にこの足で人混みの中を歩くにはちょっとな……」
「だよなぁ……結構な人が集まって来るし、危ねえよな」
少ししんみりとした空気が流れた。こう言う所に気遣ってくれるのが恭介のいいところである。
「まあ、彼女と仲良く楽しんで来てくれ。ああ……料理の試食会の応募はダメ元でいいから絶対にした方がいいぞ? 料理長の作る料理は絶品だからな」
「ああ、修がそういうなら応募だけはしておくぜ。って言うかこの人の料理食べた事があるような言い草だな?」
「あ、いや!? 間違いなく美味いだろうって予想だよ!」
おそらく引き当てる事は難しいだろうが、老舗料亭で腕を振るう超一級の板前が作る料理がタダで食べれるのだ。応募しない手はないだろう。
にしても若かりし料理長か。一目でもお会いしたかったな。
……な、なんだ、この足の震えは。体は正直……という事か。口では会いたいと言いながらも、脳裏に染み付いた記憶が本能レベルで体をビビらせてるじゃねえか。
ふっ、思い出しただけでこの様か……。でも仕方ないよな、料理長、超怖かったんだもん……。




