退院
黒塗りツヤテカの車が家の前から走り去り、運転手さんに見えるよう大きく手を振った。
本日、無事に退院する事ができ、立花さんに家まで送ってもらったのだ。まだギプスは外れていないが、後は日にち薬との診断で自宅で安静との処置になった。
随分と出遅れてしまったが、やっと俺の夏休みが始まる訳なのだが……。
「大丈夫? ゆっくりでいいわよ?」
なぜか俺の荷物と一緒に三条先輩も降りられた。
「あのぉ……本当に大丈夫ですから……」
「その怪我は私のせいで負ったものよ? 病院には出禁をくらったけども、退院した今、完治するまでは通い妻……おほん、通って面倒をみさせてもらうから」
通わなくてもいいかな? というか俺の荷物よりも三条先輩が持参した荷物の方が多いんだけど? 部屋が狭くなりますから引き取ってもらえませんかね?
しかしこの荷物量……完全に泊り込む気満々そうだ。それに高級菓子が詰まっている鞄が見える。きっとあれは雪の懐柔用だな。
「お気持ちは嬉しいですが、三条先輩は三年生でしょ? 受験勉強だってしておかないと……」
「そうね、だから一緒に勉強しましょ? それに料サーの活動も併せて出来るし、一石二鳥どころか三鳥ね。なんなら実験室にある道具、こっちに持って来てもいいわよ?」
「いや、私物化しそうなので遠慮しておきます……」
どうやら拒否権は無いらしい。現役JKがずっと俺の部屋で一緒に過ごすのか……一般的にはご褒美として受け止められるのだろうけども……。
「さ、三条さん!? な、なんですか、この荷物は……」
玄関先でグダグダやってる間にあやかさんが現れた。本日より、夏休みの間は午前中も勉強を見てもらうようにお願いしてあったのだ。
もちろん月謝はアップしてある。ありがとうお袋。
「ふふ、私も受験間近ですから。この夏は一緒に勉強する事にしたのよ」
「で、でも私は修君の家庭教師で……ごくり……」
あやかさんの生唾を飲み込む音が聞こえた。その先には『月謝』と書かれたやけに分厚い茶封筒が三条先輩の手に握られていた。
「もちろん、無料で受講しようなんて思ってないわ。あやかさん、これで私も授業、受けさせてもらえるかしら?」
「うぐぐっ……まさか真正面から依頼されるなんて。その月謝袋は魅力があり過ぎますぅ……」
あやかさんって常に貧乏ですからねぇ。ただ、あの封筒の膨らみ具合から軽く百万は入ってそうなんだけど?
ひと夏の授業料としては破格も破格じゃないですか? 軽く羨ましさすらあります。
結果、これも世の常。札束の力が果敢なく発揮され、三条先輩もあやかさんの家庭教師を受ける事になった。すると突如、玄関が開いた。ひょっこりと顔を出してきたのは妹の雪であった。
「……家の前でさっきから騒がしいんだけど? 入るんならさっさと入って?」
「「すみません」」
病院以来の見事なユニゾンで謝罪する三条先輩とあやかさん。仲も悪くないし、結構いいコンビな気がする。
しかし年上のお姉さん方相手にも関わらず、相変わらず物怖じしない奴だ。完全にお袋似だな。親父の血が濃いとぺこぺこするもんな。
俺みたいにな!!




