お料理サークル
朽ち果てた姿になってしまった元食材。哀れな炭と化したらものが、JKによって流しから回収され、遂にその手に持たれた。あれをまだ食べ物と認識出来ている若者の視点が怖い。
「ちょっと、ダメですよ!? 食べるのは無理に決まってるでしょ!? そんなの食べたら苦み、えぐみが口の中にまとわりついた挙句、お歯黒になって吐きますよ!? てか確実にお腹壊しますから止めなさいって!!」
「お腹を壊す? 何を言ってるの? 私、こんな感じのお料理をこの前、家で出したわ。両親は涙を浮かべながら美味しいって言ってくれたもの」
は? あの炭を……食ったの? ちゃんと注意してあげて? 家の人。
娘を甘やかし過ぎじゃないですかねぇ? おかげで大きな勘違いをされておりますよ?
しかしタイムリープして若返っても、俺は板前の端くれ。目の前で水浸しになった炭を食そうとするJKを黙って見過ごす程人間腐っちゃいない。
てかもはやあれは食い物じゃないからね?
「分かりました! 何か替わりの料理を作ってあげますから、それは食べずに廃棄して下さい!」
炭を指で摘まんで食べようか食べまいか迷い、一点集中しているJKにくさびを打った。躊躇があったのは本人も食べれるか悩んでいたからだと思う。
「貴方、お料理出来るの? じゃあ私が部長として腕を確かめてあげるわ。さあ、早く作りなさい」
焦げてるだけならまだしも、流石に流しにぶち込まれた食材を食べるのは無理と判断したのか、炭を袋に破棄するや急にイキイキしだした。
まったく、最近の若いやつは現金である……いや、昔の若い奴は、なのか? ややこしいなぁ……。
「はいはい、分かりましたよ。それではかけてお待ち下さいませ。何か食材はありますか? 調理器具も適当に使わせてもらいますよ?」
「食材はそこの冷蔵庫に入ってるわ。それよりも貴方、一年生よね? その割には随分大人びてるというかなんと言うか……独特な雰囲気を持ってるわね」
中の人は三十二歳ですからね。ですが貴女がさっきからぶっ飛んだ行動を取ってくれるおかげで、こう見えて年甲斐もなくはっちゃけますけどね?
「そ、そうですかね? てか先輩……ですよね?」
「自己紹介が遅れたわね。私はお料理サークルの部長で名前は三条みく。三年よ」
胸を張って自己紹介してきた。おかげでよりデケぇ部分が目に付きますね。素敵な物をお持ちですねで。大切にして下さい。
っと……ついそっちに目が行ってしまったが、精神年齢は遥に高い俺が言うのも何だが、全体的に落ち着いた物腰のお嬢さんだ。
しかし、少し残念な所もある。その年齢に似合わずの毅然とした態度には、少しばかりとっつきにくさを感じる。
「これはご親切にどうも。それでは三条先輩、嫌いな物やアレルギーとかはありますか?」
「アレルギーは無いけども、嫌いな物なら結構あるわ。ナスにトマトにグリンピース。その中でも特にナスはこの世から消えてもいい存在だと個人的には思ってるわ。誰か滅してくれないかしら?」
「ナス農家さんに謝って下さい」
好き嫌いするんじゃねえよJK! 思わず『世の中には食べたくても食べれない子が居てだな……』と説法を説きたくなってしまいましたよ?
ともあれ、いろいろと葛藤を背負いながら実験室の片隅に置いてある冷蔵庫へと向かった。
その冷蔵庫のドアには【これはお料理サークルの冷蔵庫。部外者が触ったら……噛まれます】と書かれた張り紙が貼ってあった。
怖えよ……無機物が噛み付いてくるのかよ。
でもこれじゃあ俺が触った時点で噛み付かれるよね? 俺、お料理サークルの部員じゃないですもん。さあ、噛み付けるものなら噛み付いてみな! へいへいっ!
……何考えてんだ俺は。たかがJKの落書きに躍らせれちまっているぜ。
と、心の中で浮足立った華麗なツッコミを入れた後、扉を開け、封の空いた生鮮食材を取り出した。どうやら先ほど焦がした食材はこれだったらしい。
「春なのに秋刀魚とは……ただどうりで良く燃えた訳だ」
昔から親しみのある庶民の味。
であったのは昔の話。昨今は漁獲高が減り続け、高級魚にクラスチェンジしたあの秋刀魚である。初物で極上品のものなんて競りで一匹数千円の値が付く事もある。
今の時代はその昔だから安い訳だが。値札に198円と書いてる。超安い。完全に冷凍物だとしても。
恐らく二尾でワンパックのものだったのだろう。一尾だけ残ってる。色々と言いたいことはあるが、せめて保存するならラップぐらいまこうよ……。
生魚を剥き出しで冷蔵庫にポン置きはダメだろう……。匂いが他の食材に移っちゃうでしょ?
にしても食材は旬ではない魚か……。確かに焼き魚にして香ばしく調理すれば、冷凍物といえど、それなりに美味しくは食べられるだろう。
だが、いくら実験室とはいえ、換気設備のない室内で煙を立てて焼く訳にはいかない。今度こそ消防に連絡されてしまう。
仕方ない、煙を出さないでサクッと出来る料理なら……あれでいくか。
しっかりと手を洗い、まな板の上に秋刀魚を乗せ、包丁の刃を眺めた。その刃先は完全に丸まっており、場所によっては刃こぼれすらしていた。
ぼろっぼろじゃねえか……。ちったぁ、手入れしろよ。こんなの包丁じゃねえ、もはやのこぎりじゃねえか。
でもこれしか包丁がないし、砥石なんて気の利いた物もないから渋々使いますけど……。
「へぇ……包丁の持ち方、随分と手慣れてる感じね。貴方ってもしかして普段から料理してるのかしら?」
「いえ、魚を捌くのなんて今日が初めて? だと思います」
「どういうこと? そしてなぜに疑問形なのかしら?」
このお嬢様JK、意外に鋭角にツッコんでくるな……。
しかし他に言い様がないのだ。高一の頃の俺は包丁なんてまともに触ったことはないにも関わらず、自然と体が動いちゃったんだから。
だが、直感で感じ取れた。イケる……現役のあの頃と変わらないレベルで調理出来るぞ。
ひとつ息を吐き、早速調理を開始した。
秋刀魚の頭を落とし、ワタを取り、サクッと三枚おろしにした後、辛うじて置いてあった調味料を合わせて味を染みこませ、食べやすい大きさに切り分けて片栗粉をまぶした。
それにしても塩、開けっ放しだったから湿気って固まってましたよ? 調味料は正しい保管方法で保存して下さい。
確実にやりっぱだったでしょ? あと片栗粉があった奇跡には感謝したい。
「あら? お魚は焼かないのね。私、基本調理は焼くしかしたことないから見ていて斬新だわ」
なぜに調理法が焼き一択なんだ? よく今まで学校燃えなかったな……。
「あのぉ……こんなぶっ飛んだ方法で今まで調理してたんですか……?」
「学校でお魚の調理をしたのは今日が初めてよ。なにせ、このサークルは出来てまだ三日だから」
想像以上に歴史が浅ぇぇ……じゃあさっきの包丁は新品から僅か二回の調理でズタボロにしたの? なに? 岩でも切ろうとしました?




