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療養

 

 夜の校舎で階段落ちを決め、三条先輩におんぶされた日から三日程経った。


 今俺は空調管理された部屋の真っ白なシーツの上に寝転がってある。俗に言う入院というものだ。人生初経験である。


 足にはギプスが巻かれ、非常に痛々しい姿になっており、腕や体にも至るところに湿布が貼られている。

 足以外は大丈夫かと思っていたのだが、いざ明るい場所で確認すると青痣だらけになっており、全身打撲状態であった。


 案外重症のようだった。そして肝心の足は……まさかの足首が折れてた。どうりで歩けないぐらい痛かった訳だ。


 お医者様からは足の方は若いから二~三か月で治るであろうと診断されたが、念の為の検査と経過観察も兼ね、少しの間入院する羽目になってしまったのだ。


 あの日、三条先輩におぶられ、無事校舎を出ると、すぐさま立花さんに連絡してくれ、そのまま病院に運ばれた。その時、家族にも連絡してくれており、色々とお世話をかけてしまった。


 尚、入院に関しては立花さんが完全個室を用意してくれるなど、至れり尽くせりの対応をしてくれた。結構お高い部屋だと思う。無駄に広いし……。


 しかしこの足じゃこの夏は遊びに行くのは難しそうだ。そしてなにより、今抱えてる一番の問題は……。


「ふぅ……暇だ」


 あれだけ店で忙殺されていた毎日を送った経緯があるにも関わらず、あまりに暇過ぎてあの頃が懐かしいとさえ思ってしまっている。料理長にどやされていた頃が懐か……うっ、頭が……。


 いかん、あの頃を思い出すと頭痛がするのは、若返っても同じようだ……。完全に体が拒否ってるもんな。


 しかし最終的にニートをしていた俺が言うのもなんだが、非常に時間がもったいない。早く骨よくっついてくれ。


 働け、カルシウム。


 にしても本気で暇だ。この時代じゃまだ動画配信とかもしてないし、昔ながらの暇潰し方法しかない。


 主に読書やクロスワードといった物だが、あまりそっちに興味はないんだよなぁ。何よりクロスワードは内容が昔過ぎて良く分からない所が多いし。

 そもそも俺が子供時代の大人の時事なんて知らねえもん。難易度高過ぎだよ。


「荻野さん、面会の方が来られましたよ」


 こうなったら夜に寝つきが悪くなるから使いたくない方法だが、禁断の技である昼寝を選択しようかと思った時であった。看護師の方が声をかけてくれた。


 その後ろから顔を覗かしたのは恭介と佐川さんだった。流石に日中に親父やお袋が来るのは難しい。初日には家族総出で来てくれたが。


 そういえば雪がしおらしくしてるの、久しぶりに見た気がする。ちょっと前までは優しいお兄ちゃん子だったのになぁ……。


「よお、中々痛々しい姿だが、意外に元気そうだな」


「大丈夫? 荻野君」


 カップルで見舞いに来てくれたと言う事は、なんだかんだでちゃんと仲直り出来たんだな。でも土下座しても許してくれなかったとは言っていたが……。

 もしかしてそれよりも上位技のスライディング土下座か、ローリング土下座でもしたのかな? 


 ともかく娯楽が無い入院生活、こうして見舞いに来てくれる人が唯一の楽しみでもある。まあ、家族以上に三条先輩とあやかさんは来てくれるけど。


「ほれ、これ見舞いの品な。置いておくから腹が減ったら食べてくれ」


 どうやらお菓子を買ってきてくれたらしい。下手にフルーツなんかを買ってこられるよりそっちの方が気さくに食べれていい。病人ではないので食べ物の制限もないし、非常にありがたい。


 フルーツ自体は嫌いではないんだけども、ここには包丁もないし、真っ白なシーツを果汁で汚すのもあれだしな……。


 いやはや、分かってるじゃないかい、流石は恭介だ。痒いところに手が届く存在である。


「それにしても……すげえな」


「うん、本当だね」


 怪我人に対して驚きを隠せない様子を見せているのだが、それは怪我の具合に対してではない。


 二人の目線の先にあるのは……ギプスだ。


「メッセージ書かれ過ぎだろ。隙間なく書かれ過ぎてもはや呪詛みたいになってるぞ?」


 その昔、俺と恭介がサッカー部に入部していた頃、同じチームの奴が骨折してその時に部員からメッセージを書いたりもしたのだが、今俺が置かれている状況はその比ではない。


 そう、俺の左足のギプスには耳なし芳一も驚きの、経ならぬメッセージが書かれている。


 可愛らしい丸文字のゆるフワな文字と、跳ねるところは跳ね、止めるところはしっかりと止めている清楚な文字が。


 三条先輩とあやかさんによって書かれたものだ。


 最初はささいな一文だった。『早く怪我を治して、また一緒にサークル活動しましょうね』の文字を三条先輩が書いたのが始まりだった。


 それを見たあやかさんは、なぜか頬を膨らましてペンを取るや『また二人で勉強しようね(は~と)』や『お姉さんとの勉強、早く再開しようね(は~と)』などと書き記した。


 そのあとはもう覚えていない。毎日二人がお見舞いに来る度に限界までギプスに書きなぐるおかげで、全方向にあらゆる文字が書き綴られてるに至っている。


 今のところ、奇跡的に二人がかち合う事がなかったのが救いなのだが……。おっと、これがフラグにならない事を祈る。


「私、あやかさんって人は会った事は無いけども、三条先輩と張り合えるぐらいだから、間違いなくとんでもない綺麗な人なんでしょ? 修君にとっては究極の選択だよね……」


「ああ。たまたま俺は一度だけ見かけたが、綺麗というより可愛い人だな。アイドル顔負けの可愛らしさがあったぞ? そんな二人からこれだけの想いをぶつけられるとなると……」


 二人して俺のギプスの文字を読みながら様々な感想を漏らしているのだが、俺も一言伝えておこうと思う。


「な? 酷いもんだろ? 俺のギプスが完全に落書き広場だよ……」


「「え?」」


 二人が素っ頓狂な声を上げた。個室とはいえ、病院内はお静かに。


「おま……マジで言ってんのか?」


「荻野君って、何考えて生きてるの?」


 おい、恭介。お前の彼女、口悪くねえか? いくら同期……いや同級生とはいえ度が過ぎてるぞ?


「いやいや、何も考えていない方が可愛げある。もはやこの鈍感さには悪意を感じるレベルだ。豆腐の角で後頭部をカチ割ってやりたい気分だ」


 おっと、てめえの方が口悪かったか。


 なにより豆腐の無駄遣いするんじゃねえ。豆腐って値段的には安いけども、作るのにめっちゃ手間がかかるんだぞ? 豆腐屋さんに謝れ!


「なんだよ、その不満そうな顔は。俺達は事実を述べただけだぞ? ま、ともかく早くその怪我治せよ?」


「おう。ちょっと遊ぶのは難しいかも知れないが、勉強ならいつでも教えてやるぞ?」


「うへぇ……頼りにはなるんだろうが、頼りにはしたくねえな」


「見てもらった方が良いんじゃない? この前のテストだって散々だったじゃない」


 散々だったのかよ……。今の内に取り返しておかないと後々苦労することになるぞ?


 そんな世間話も交えながらしばらく三人で和やかに話をした後、二人は帰って行った。その瞬間だった。


「荻野君、またお見舞いの方が来られたんだけど……二人……」


 恭介達と入れ替わりで非常にバツの悪そうな顔を向ける女性看護師さん……そうですか、遂に交わってしまいましたか。


 出来る事なら平行線のままでいて欲しかったのですが——


「後輩君っ! 調子はどお!?」


「修君っ! 新しい勉強の資料持ってきたよ!」


 お互いに一歩も譲らずに同時に病室に入って来たのは、巨乳JKとゆるふわJD。張り合うかのようにテンションもMaxである。だが……。


「「病院内は静かにして下さい」」


 俺と看護師さんの言葉がユニゾンし、すぐさましょんぼりする二人だった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 先輩の株上げ展開いつクル~?(アオハルから目を逸らしながら)
[良い点] スライディングはなんとなく分かるけど、ローリングってどんな感じでしょうか? 前転でしょうか謎です(´・ω・`)? [気になる点] 骨折とは結構災難ですね、ギプスがとれても元通り動かせるよう…
[一言] もう!もう! みく先輩とあやかさん、この二人はしょんぼりさせても可愛いとかなんなの?!
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