死亡フラグ
ひんやりとして、少しばかり砂っぽいコンクリートの廊下の感覚が尻を伝って感じる。夏場とはいえ、日が落ちてしまえば鉄筋コンクリート造りの校舎は良く冷えるようだ。
「三条先輩……俺の事は放っておいてくれて構いません……。一人で、一人で行って下さい……。大丈夫です、俺も必ず後から行きますので……」
精一杯の作り笑いを浮かべ、自ら死亡フラグを立てる俺。そして先程からじんわりと尻に冷気を感じている理由は……足をくじいて座り込んでいるからである。
情けねぇ……んでもって超痛ぇぇえ!! マジで痛ぇぇ! 立てないよぉ、もう歩けないっ!!
間抜けな状態に陥ってしまっているが、こうなってしまった原因はちゃんとある。
暗黒の校舎をスマホライトひとつでへっぴり腰で行軍していたところ、なんと三条先輩が思いっきり空のバケツを蹴飛ばしてしまい、その音に驚いてパニックとなり、階段を前にして転倒してしまいそうになったのだ。
美少女が某コントにもあるような階段落ちなど、万が一にでもさせる訳にはいかないと、強引に無理な体勢で庇った結果、身代わりとなった俺は見事に階段から落下し、見事に最上段から下段まで綺麗に転がり落ちた。
ただ、不幸中の幸いか、足以外の痛みは大した事は無い。一番大事な頭も打たずに済んだようだ。
危うくタイムリープしている身で異世界転生してしまう所だった。にしてもどうして空のバケツなんて階段の近くに置いてるんだよ! ただの嫌がらせじゃねえか! 誰か知らないがちゃんと片付けておけよ!
「そんなこと出来る訳ないでしょ!? ごめんなさい、私が……私のせいでぇ……怪我させてぇ……」
真っ暗で顔は見えないが、声は震えている。おそらく涙を溜めているのは間違いないだろう。そしてさっきから足の痛みがヤバイ。どうやら俺はここまでのようだ。本当にちょっと歩ける気がしない。
「三条先輩に怪我が無くてなによりです……。でも、庇った時のボディータッチは大目に見て下さいね!? 暗かったから変なとこ触ったかも知れませんが、これはれっきとした事故ですから!! セクハラとかいうの無しですからね!?」
「こんな状況でそんな事言わないわよ! それに貴方、一応今は高校生なんだからそこまで心配しなくても大丈夫よ!」
何を言っていらしゃるのだ。高校生とはいえ、しっかりとセクハラの定義は存在するのだ。肉体が若いからといって油断する訳にはいかない。
「……これ持って」
光源替わりとなっているスマホを俺に渡すや、三条先輩はその場で屈みこんだ。
「……何をしてるんですか?」
「乗って」
もしかして、その体勢はいつぞやかした覚えのあるおんぶじゃないですか? いや乗れませんよ? JKに後ろから抱き着くなんて……。そんな事をするくらいなら歯を食いしばってほふく前進で進みますから。芋虫のように。
「そんなの出来る訳ないじゃないですか……。それより俺の事はいいですから三条先輩一人で——」
「何度も同じ事言わさないで。乗って」
振り向かずに再び同じ言葉を投げられた。先程までの涙声とは打って変わって強い意志を感じる言葉だった。
流石は三条財閥の跡取り娘様。ここぞという場面では普通のJKと違って貫禄が違う。力強い意思と責任感をひしひしと感じる。
「……無理そうだったらすぐに言って下さいね」
おそらくどんなに拒否しても一切引かないだろうと思い、足を引きづりながら諦めて背中に乗せてもらった。
「っつ!!」
小さな背中に体を預けた途端、痛みが襲ってきた。咄嗟に三条先輩の体に手を回してしまったのだが、その拍子に大きな柔らかい物が……あ、触れちゃた。
「ひゃうっ!? そ、そこは……ううん、し、しっかり掴まってて。行くよ……んっ!!」
三条先輩の気合いの入った掛け声と共に、体が持ち上げられ、宙に浮いた。
そして誰も居ない校舎に時折響く艶やかな声に……。すみません、この状況で不謹慎ですが、その……あれがあれです。お願いだから気付かないでくれぇ……。




