非モテの悪い癖
「おはよう、修君。なんか目の下にクマがあるように見えるんだけど……もしかして寝れてない?」
「おはようございますぅ……はは、バレちゃいましたぁ?」
夏期講習三日目の朝、洗面所でばったり会ったあやかさんに寝不足を瞬時に見抜かれた。きっと精も根も使い果たしてくたびれた表情をしていたのだと思う。
それもその筈、折角あやかさんが気を利かせて別の部屋で寝てくれたにも関わらず、昨日の告白まがいを言葉を真に受けて悶々と思い悩んでしまい、先日に続きこれまた一睡もする事が出来なかった。
いくら無敵の高校生ボディとはいえ、すこぶる絶不調である。
睡眠ってほんとに大事だよね……。
しかし何度も繰り返し考えた事ではあるが、やはりひとつの可能性として、あやかさんは……もしかして俺の事を好き、なのかも知れない。
じゃないと昨日みたいな会話にはならないだろう。これはいわゆる脈ありという奴では?
……いや、落ち着け。これは童貞非モテが陥りやすい罠だ。
これはプライベートな時間を共に過ごし、ちょっと仲良くなっただけであり、自分の中で過大評価しているだけにしか過ぎない。
よくあるよな、そんな勘違いしてドン引かれるパターンが。
生粋の高校生ならまだしも、人生二周目の大人が嵌っていい罠ではない。でもなぁ、昨日のくだりはやっぱり……。
などと部屋でのたうち回って考えている内に、気が付けば朝が来てた。俺の恋愛脳は中学生以下である事は認めざるを得ない。
「も、もしかして、昨日の事を考えて眠れなかったとか?」
「え、ええ……あやかさんがあんな事を言うから……ん? もしかしてあやかさんも……?」
目をこすりあやかさんを見ると目の下にクマらしきものが見えた。明らかに寝不足の証拠である。
「わ、私は、大人だし、お姉さんだもん! そ、そんな事で寝不足になったりはしな——ふぁ……いもん!」
今めっちゃあくびしましたよね? 完全に俺と同じで寝不足じゃないですか。
「とても眠そうに見えますが……あのぉ、もしかしてあやかさんって今まで彼氏とか……」
「ち、ちがうもんっ! わ、私を誰だと思ってるの!? お、お姉さんだよぉ!? 恋愛なんてもうそれは掃いて捨てるほどに経験してるからっ!」
絶対嘘だと思う。絵に書いたような挙動不審さですもの。しかしここで言い合いしても仕方がない、ここは俺が大人にならなければ。
「そ、そうですね。あやかさんみたいな可愛い方なら引く手数多でしょうし、イケメンをよりどりみどりって感じでしょうね」
「ちょっと!? それは聞き捨てならないよ!? そんな事全然無いし! 私、誰にでも付いていくほど軽い女の子じゃないよ!? 物凄く純情なんだから!」
急に身を乗り出し、それはもう必死の形相で訴えられた。緩いパジャマなのでマジで胸元気を付けて下さい……。本気で見えちゃいますよ?
それにおっしゃられている内容が支離滅裂なのですが? 寝不足で頭が回っていないのかな……。
そんなこんなで随分あやかさんが朝からエキサイトしていたが、大人の対応で場を収め、寝不足で回らない頭に活を入れる為にいつもより入念に顔を洗った。
そしておばあさんの作ってくれた朝食を頂き、当初の予定通りに帰る前に最後のテストに取り掛かったのだが……。
「っぐ……ね、眠い……」
瞼に鉄アレイでもついてんじゃないかという程に目を閉じさせようと本能が動いてくる。やはり二日連続で徹夜は若い体とはいえ、かなり堪える。
そんないまだかつて味わった事の無い程の睡魔と、死に物狂いで戦っていた時であった。
「……っくかぁ……ふすぅ……」
え?
全気力を振り絞って目を開き、顔を上げると、目の前に座っているあやかさんがよだれを垂らして船を漕いでいた。
いや、船を漕ぐというか……もはや爆睡中である。
座ったまま寝るとはなんとも器用な方だ。とはいえ、もう俺も限界だ……。少しだけ、少しだけ寝よう……。
あやかさんの寝顔を見るや何かが切れてしまい、そのまま机に倒れ伏し、意識を手放してしまった。




