デートぉ!?
波の音だけが辺りに響き渡る漆黒の海。砂浜の方は道路沿いの街灯と月明りでなんとか目視が出来るレベルとなっている。
そんな誰もいない砂浜で並んで座る男女二人。かれこれ十五分は無言である。
なにこの漫画みたいな場面?
あやかさんからデートと言われて、砂浜に連れてこられた訳なのだが……。いくら演技とはいえ、おばあさんたちが居ない場所まで演じる必要はないのでは? てかもうネタバレしちゃったし……。
そんな事を胸中に忍ばせながらも、寄せては返す波の音を聞いていたのだが、先に口を開いたのはあやかさんであった。
「修君、なんか……いろいろありがとうね! おばあちゃんとおじいちゃんもすっごく喜んでたし!」
「あ、いえ……こちらこそご飯や泊まるところまで提供してもらって。おかげで勉強もはかどりましたよ」
事実、この夏季講習で不安な場所や苦手な場所を重点的に補習出来たので、まさに鬼に金棒状態となっている。次のテストが楽しみで仕方ないなんて思ったのは、人生で始めてだ。
「あの、ひとついいですか? あやかさんって……その、音楽やめちゃうんですか?」
俺の言葉に『痛いところを突かれた!』感を出すあやかさん。月明かりの下でもばっちり見えてますよ?
「うぐっ……おばあちゃんだね。まあ、ほら、この歳になって売れないミュージシャンやってるのもあれかな~って」
「そうなのですか……それじゃあ今後はご飯の差し入れは無しになりますね」
「あ~んっ! それは辛い! 私は修君のお弁当で生きてられるんだから!」
俺の弁当で生を紡がないで欲しい。しっかり栄養のある物を食べて下さい。
「でもね、冗談でも無いんだ。三条さんの言葉を借りるなら……。私も掴まれちゃったのは間違いないかな?」
「あ~、それってもしかして……」
「へへ、胃袋♪ もう修君無しじゃ生きていけな~い♪」
むむ……やはりJDともなると、会話の中にも大人の貫禄が垣間見えるな。余裕すら感じる。てか三条先輩と違ってあやかさんの場合は、常に空腹状態なので胃袋を掴めるボーダーが低いような気はします。
失礼なお話ですが、コンビニの肉まんでもいけそうな気がします。
「もう、冗談はよして下さいよ」
「む、冗談……じゃないよ? 証拠……見せようか?」
急に真剣なトーンで返された。どういう訳か睨まれて……いや見つめられているのだが。
すると、徐々に近づいてくる愛らしいお顔。途中でその瞳も閉じられた。光源は乏しいが物憂げな表情が伺える。
あれ? こ、このパターンってどこかで見たことが……。あ、そうだ! キスする前のモーションのやつじゃね!? よくドラマとかであるやつ!
……いやいやダメでしょ!? 家庭教師の先生と恋仲になるなんてまるでA●……ゲフンゲフンッ! 何を考えているんだ俺は!!
な、なんとか対処せねば!! えっと、えっとぉぉ……!!
「そ、そうだ! あ、あやかさんっ!? 喉乾きません!? 何か俺、飲み物買ってきますよ! バス停の前に自販機はあったので!!」
俺はどうしたらいいか分からず、逃げるように急いでその場を立ち去ってしまった。その際、重いため息も聞こえたような気がした。
自販機の前に辿り着き、呼吸を整えようとしたのだが、一向に心臓の音が穏やかにならなかった。
冗談にしては度が過ぎますよ、あやかさん……。




