真実を
その日の夕飯時、今日も俺はおばあさんと台所に立っていた。あやかさんは向こうでおじいさんに絡まれている様子が伺える。
おじいさんもおばあさんも気さくな方で何よりである。
そんなご厚意に少しでもお恩返しすべく、泊めていただいたお礼も兼ねて今日もお料理のお手伝いをさせていただいている。
「修さんは本当にお料理が上手ねぇ」
俺の包丁さばきを見てニコニコとした表情を向けられた。その優しい笑顔に心が休まる。
「いえいえ、おばあさんには敵いませんよ」
料理歴で言えば俺なんか足元にも及ばない。なにせお相手は毎日の家族の食事を作ってきた歴戦の猛者である。キャリアが違います。おばあさんに比べれば俺なんてまだまだ尻に卵の殻が付いたひよっこです。ぴよ。
そんなひよこの俺が作っているのは、サバの味噌煮。今日はおじいさんが良い鯖を持って帰って来てくれたたのだ。どうやらおじいさんは釣りが趣味のようであり、毎日何かしら持って帰ってくるらしい。
たまに坊主の時もあるらしいけどね。
「よし、これでしばらく煮込みますね」
一通りの味付けを行い、落とし蓋をしておばあさんを見つめた。やはりこの人に嘘をつき続ける事は俺には出来ない。あやかさんからは死角になっているので本当の事を伝えようと思う。
「実はおばあさん、俺達……本当は恋人ではないんですよ……。すみません! 嘘ついて!」
頭を下げ、意を決して謝罪の言葉を述べた。しばらくしてゆっくり顔を上げると先程と変わらずにおばあさんはニコニコとしていた。
「ふふ、分かってるわよ。あの子に合わせてくれてるんでしょ? こちらこそごめんなさいね。変な気を使わしてちゃって」
今度は逆におばあさんが頭を下げた。既にバレていましたか……。まあ人生の大先輩に三文芝居なんて簡単に見抜かれるわなぁ……。
「すみません……騙してしまっていて。でもお見通しでしたか」
「ふふ、修さんこそ謝る事はないのよ? 私は久しぶりに見れて感謝してるぐらいよ? 心の底から笑っているあやちゃんを」
温かな目線を向ける先には、おじいさんに変なちょっかいをかけられたのか、顔を真っ赤にしているあやかさんが居た。
「あの子、最近ずっと悩んでいる様子でね。好きな音楽の道に進むべきか、会社員になるかで。でもそのどちらも上手く行ってない様子でねぇ……」
いやいや、天下の歌姫にまさかのOLルート出現ですか!? そこは是が非でも音楽の道を突き進んでもらわないと。日本の、ひいては世界のエンターテインメントの損失に繋がる。
ただ、恭介みたいに別ルートを歩めば、未知の幸せを手に入れる事が出来る可能性もあるにはある。のだが、流石にもったいなさ過ぎる。
「そうだったんですか……」
「ちょっとおじいちゃん!? 私達はそんな軽い関係じゃないの! もっとこう一歩一歩を大事にして育む的な!?」
「なんじゃい、若いのにま~だチュウのひとつもしとらんのかい! 儂と婆様なんかはそれはもう激しかったぞ? 現にあやかが居るのもそのおかげで……」
「ごめんなさいね、修さん、ちょっと席を外しますね」
にこりと笑顔を置き、おじいさんの元に向かうおばあさん。その姿に気付くやなにやらおじいさんの命乞いの声が聞こえてきたので、俺は鯖に意識を向けた。
これは他人の俺が踏み込んではならない領域だ……。
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「よ~し、今日はここまでにしよっか。スムーズに進められたから目標は達成だよ♪」
「そうですか、それは良かったです。いやぁ~。かなり頑張りましたよぉ~」
その日の晩、今回の夏期講習で進める予定であった箇所まで進む事が出来たとのお知らせを受けた。
明日は最後に実力テストをして、午前中でお暇する予定である。途中で寝不足による集中力切れはあったものの、まさかの膝枕で回復させてもらったし、なんだかんだいいながら進捗は良かったと思う。
こういった環境を変えて勉強するのも悪くないものだな。自分の部屋で丸一日勉強なんて絶対集中力が続かないもんな。
「今の実力ならケアレスミスさえ気を付けたら、学年でもいいところ狙えるんじゃないかな?」
「本当ですか!? 俺、そんなに実力付いてます!?」
「ふふ、それを明日試すんだよ。だから今日はゆっくり休んでね」
ふむ、知らぬ間にそんなに実力が上がっていたとは。しかしゆっくり休むか……。そこが一番の問題だったりします。ただでさえ今日は寝不足なのに、今日もまた迫られるとなると……。
「だ、大丈夫! 今日は私、違う部屋で寝るから!」
安眠が出来る事が確定したのだが、なんか心のどこかで少しがっかりしてるクソ野郎がここに居ます。
「お気を使わせて申し訳ありません……」
とはいえ、明日のテストは夏期講習の成果を見る為にも、万全の状態で挑みたい。JDとの添い寝という奇跡は先日果たしたことだし、今日はゆっくりお風呂に入って休ませていただこう。
「その代わり……今からおねえさんとちょっ~とデートしよっか♪」
なん……だと?




