寝不足……
部屋の網戸越しに青白い光が東の空から差し込み、太陽が昇り出したのが見えた。次第に明るくなっていく景色を眺めながら、俺はゆっくりと体を起こした。
「ふぁ……おはよう、修君。早起きだね、ちゃんと寝れた?」
俺の挙動に気付いたのか、あやかさんも目を覚ました。寝ぼけ眼のJDである。非常にレアな表情をゲットすることが出来た。
対して俺は特に寝ぼけてもおらずギンギンに覚醒済みである。だって……。
「あ、あんまり寝付けませんでした……」
嘘です。もっと悪い状態です。一切寝れておりません。
幸いな事に気付かれてはいないようだが、あのホールドが丁度良いツボらしきものにはまったらしく、そこからあやかさんは満足してしまったのか、一切動かなくなり、一晩中抱きしめられてしまった。
そしてつい今しがた、やっと解放されたのだ。しかもまた綺麗に転がって自分の布団に戻って行ったし。
何たる帰巣本能だろうか。起きてるんじゃないかと疑ったぐらいだ。
おかげでこっちは一晩中、巡って来る事のないチャンスに意識を集中させ、その間眠る事も出来ず、ただただ感触を味わう羽目に……。
幸せですけど辛いです。幸せという字と、辛いという字が似ている理由が身を持って分かりました。
「あ、もしかして修君って……枕変わっちゃうと寝れないタイプ? 意外と繊細なんだね♪」
「そ、そうですね……ははっ……」
ずっと貴女のプニ腕、プニ脚に絡まれてましたからね……。そんな枕で寝れる訳ないじゃないですか。
若さゆえの体力があったおかげで徹夜にも耐える事が出来ましたが……。初日からとんだハプニングだ。とりあえず顔でも洗って目を覚ますとするか……。
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冷たい水で顔を洗い、改めて意識を覚醒させたのち、おばあさんお手製の朝食を頂いた。
今日のご飯もとても美味しい。流石は毎日欠かさずにご飯を作り続けてきた主婦である。その腕前は超が付くほどのものであり、元料理人の俺としても脱帽ものであった。特に漬物が絶品であり、完璧なる塩梅で最高の一品と呼ぶに相応しい。
まさにプロ顔負けの技術だ。プロが言うんだから間違いない。
ちなみに漬物を褒めちぎっていたら、お土産に持たせてくれるとのお言葉を頂いた。まじでその瞬間、ガッツポーズしたね。その後で『私の水着見た時より喜んでない?』と刺々しく質問されたのはまた別の話。
可愛いと美味しいは別ベクトルかと思うのですがね……。
そんな朝からひと悶着はあったものの、早速、風の通る縁側で本格的に夏期講習を始める事になった。
親切丁寧に教えてくれるあやかさんのおかげで、講習は順調に進み、あっという間に時間は過ぎ、お昼を迎えた。
ほんとに教えるのが上手な方であり、自分でも驚くほど知識が吸収されていくのが分かる。もちろん家庭教師として慣れているのもあるのだろうけども、素質が高いのは間違いない。
板前の修業は見て盗めが主流だったからなぁ……。こんな親切丁寧に教えてもらうなんて事は無かったから、非常に新鮮である。
順調に勉強を進めている中、ふとノートから目を離すと辺りが随分と暗くなっていることに気付いた。
朝は起きた時から真っ青な青空だったのだが、いつの間にか濃い鼠色の雲が空一面に広がっていた。
「ちょっと湿気も出てきたし、蒸し暑くなってきたね。これは一雨来そうだね」
あやかさんが胸元をパタつかせているのだが……この人、ほんと無防備な所がある。今だってちょいちょい下着が見えてるのですが?
良き膨らみですね。じゃなくて……。
「あの? あやかさん? もうちょっと服装をですね、こう……。見えちゃう時がありますので……」
顔を真っ赤にして襟元を正していた。やはり気付いていなかった様子だ。
「も、もうっ! 何処見てるの!? ほんとエッチなんだから——」
その瞬間、あやかさんの雷と本物の雷が同時に落ちた。
「ひやっ!?」
「おおうっ!?」
あまりの轟音に思わず声が出た。かなり近い場所で落雷した様子で光ったと同時にノンタイムで落雷の音が響き渡たった。
あっという間に外は雨で真っ白になり、ゲリラ豪雨が降り注いだ。
「凄い雨だね……ひゃっ!? また光った!!」
外の景色の感想をこぼすあやかさんなのだが、雷が苦手なのか、空に目線を向けて体を縮こまらせている。
雨の匂いと音が支配する空間。ちょっと趣がある瞬間だ。
「いやぁびっくりしましたね。でもなんか都会で降る雨よりも、なんか情緒がある感じがしますよ」
「そ、そう? 私は雷が苦手だから情緒も何も感じないよ……」
あやかさんの怯える様子に、不謹慎ながら少し心を惹かれてしまったのは内緒にしておこうと思う。




