未知との遭遇
「チラチラ……遊園地と言えば外せないのが……これ! 絶叫系!」
「チラチラ……わぁ~楽しみぃ~!」
観覧車を降りてから超絶不機嫌になってしまった三条先輩を気遣うかのように……。いや、明らかに気遣ってくれている恭介と佐川さんが必死に場を盛り上げようとしてくれていた。
年下の高校生の二人に気遣われる上級生とおっさん高校生。大変申し訳がない。すまん、恭介。
そして今しがた紹介されたアトラクションは、どこの遊園地にもひとつはあるであろう、定番のジェットコースター。
ではなかった。
「お、おい……これはちょっとハード過ぎないか?」
アトラクションボードには『無重力体験! フリーフォール!!』と書かれていた。
一旦観覧車を挟んでいるとはいえ、なぜWデートでそんな激しいアトラクションばかりを選ぶのだろうか? メリーゴーランドとかコーヒーカップでいいじゃないか……。
「ちなみに、佐川さんが絶叫系は好きだって言ってたからこれに決めました!」
あ、そうなの……。でも流石にこれは乗れる気がしないなぁ。ワンチャン、胃の中の物が出てしまう可能性すらある。
「ふふ、面白そうね」
おっと、三条先輩は絶叫系はいけるクチなのか? しかも何気に機嫌治ってるじゃん。もしかして絶叫系アトラクションが苦手なのっておっさん系高校生の俺だけ?
でもこれはいくら背伸びしてもやっぱ無理だわ。お化け屋敷の教訓も活かし、ここは大人として素直にドロップアウトしようと思う。
「あ~、恭介? 悪いが俺はちょっと……」
きっぱりとこのアトラクションに乗るの辞退しようと申し出ようとしたところ、恭介が俺の肩を抱いて耳元で囁いてきた。
「……自由落下される……デケぇ……未知の形……それを拝まないつもりか? 俺は行くぞ。この命、果ててもな……」
タイムリープのおかげで、恭介の倍の人生を歩んでいる俺ではあるが、導き出せない答えなんてそれこそ無限にある。そう、今の問いもそうだ。世の中にはまだまだ知らない事が沢山ある。
大きく鼓動が脈打つのを感じた。俺の中の……未知への探求心がくすぶり出したとでもいうのだろうか。
「まだ見ぬ世界が……そこにあるとでも言うのか……?」
恭介が静かに頷くのを見届けた俺は、無言で列に並んだ。
不思議な事にそこにもう先程の恐怖心はなく、ただただ、未知なる世界を受け入れる、冒険心と希望に満ちた志しかなかった。
エロは冒険の最大のスパイスかも知れない。デケぇ……万歳ッ!
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そんなこんなで欲望の赴くままに体を動かし、なんとか胃の中の物を撒き散らかさずにフリーフォールを乗り終え、またひとつ、俺の脳内に新しい記憶を刻み込むことが出来た。
尚、流石に激しいアトラクションだったので、少しばかり休憩を取ろうと、今はみんなで露店の前で飲み物を飲んでいる。
しかし、何度思い返しても不思議な光景であった。まさか体は落下しているのにも関わらず、デケぇは上昇するとは思わなんだ……。あんな事が目の前で起きるなんて……。
「折角だしこのまま昼メシにしようか。じゃあ、俺は佐川さんと先に買ってくるからお二人さんはそこの席を取っておいてくれ」
売店の方に仲良く向かう二人の姿を眺めていると、口角を上げた三条先輩が寄り添ってきた。
「……貴方って大概エッチね」
デケぇを持ち上げて腕を組む三条先輩。そしてしたり顔。
よく見るその仕草は、どうやら三条先輩の癖みたいになってるようだ。きっと相当重いのだろう。
そしてばっちりバレている模様……おそらく佐川さんにも感付かれてるだろう。恭介は俺以上にガン見してたからな。
「な、なんの事ですかね?」
とりあえずしらばっくてみた。あわよくばこれで窮地を乗り切れるかも知れな——
「あら、しらばっくれるのね? じゃあ言うわよ? アトラクションそっちのけで私の胸をじ~っと見てたでしょ?」
「大変申し訳ございません。何卒ご容赦の程を……お巡りさんに通報だけはご勘弁して下さい……」
テーブルにおでこを叩きつけて謝罪した。
くそう……おっぱい星人の自分が恨めしい。そしてセクハラで訴えないで……お願い……。
「ま、少なくとも興味は持ってくれてる……ってことかな」
なにやらぶつくさ口ごもっていらっしゃるのも気になったが、脇目に映った恭介が随分慌てている姿が視認出来た。
どうやら向こうでも修羅場を迎えているらしい。
「私、ハンバーガーが食べたいな」
「はい、仰せのままに……」
この窮地を凌げるならご飯をおごるぐらい安いもんだ。二個でも三個でも買ってご機嫌を取ろう思う。
「ふふ、言質は頂いたわよ? 楽しみだな、貴方が作ってくれるハンバーガー♪」
ええ……そっちぃ? 作れない事もないですけど、俺、和食がメインなんですけど……。 いや、ここで歯向かってはいけない。じゃないとお巡りさんに調書を取られて前科持ちになってしまう。
「はい……分かりました。じゃあまた学校で……」
「何を言ってるの? 今日、私の家で作ってもらうわ。大丈夫、材料ならなんなりとあると思うから」
マジですか……。家には電話の一本でも入れれば、夜遅くなっても問題はないだろうけども、今日はお家焼肉の日なんですよ。なんだかんだで地味に楽しみにしておりましてですね……。
なんとか別日でお願いさせていただけませんかね?
「あれ? 何、その顔。もしかして嫌なの? じゃあ貴方のお家に行って、雪ちゃんやお義母様に『胸を……されました』と告白しに行ってもいいのよ?」
「その一部分の無言はなんですかね!? いや、正直に伝えられても困りますけど! 分かりました、分かりましたよ! ハンバーガーは作らせていただきますので、どうか家族には!! あと警察にも!」
断腸の思いで焼肉を諦め、イスから飛び降り地べたに着地するや、土下座の体勢を取った。ちなみに向こうの方でも恭介は土下座していた。どうやら置かれている境遇は似たようなものらしい。
鼻の下伸ばして胸を見てたら大変な目にあったなぁ……。俺っていい歳なのに、恭介と同じ行動取って怒られるなんてなぁ。
……男っていくつになっても馬鹿ってことか。




