苦手アトラクション
園内に入ると、ホットスナックや軽食がショーケースに並ぶ、ちょっと割高な販売価格の売店が見えた。また、園内のあちらこちらに設置されているスピーカーからは、陽気で心躍る音楽が鳴り響いている。
どこからともなく歓声が聞こえ、その場に立っているだけでわくわくする感覚が襲ってくる。
懐かしい……。遊園地なんて来たの、子供の時以来だな。今も広義で子供ではあるが。
ちなみにこの数年後には、この遊園地は惜しまれつつも閉園し、更地になってしまうんだけどね。
「じゃあ初手として……ここなんてどうだ?」
恭介が手始めに選んだアトラクションは……これまたノスタルジックさを感じるお化け屋敷だった。この一角だけ平成を突き抜けて昭和の香りがするのだが……。
もちろん演出なのだろうけども、本気度がパねえ。おどおどしくって周囲の温度を三度は下げてる。絶対怖いやつだ。
お化け屋敷なんてWデートの初見で行く場所か? もう少し温めてからの方がよくね?
「きょ、恭介君、わ、私、お化けは苦手なのぉ……」
「大丈夫、大丈夫! 佐川さん、俺に任せてよ!」
なんかあっちは良い雰囲気を出してる。いいなぁ、甘酸っぱい青春ってやつじゃないか。
イチャイチャとじゃれ合う高校生を眺めていると、脇の高校生が服の裾を握ってきた。顔面を青ざめさせて。
……もしかして三条先輩って、お化け屋敷無理系なのか?
ちょうど良かった、俺もお化けとかホラーは苦手だ。無駄に心拍数を上げるなんて愚の骨頂だと思っている。俺は心穏やかに人生を過ごしたいと常々思っているのだ。
よし、ここは嫌らしく三条先輩のせいにして乗り切ろう! ええ、私は汚い大人ですからね!
「あ~、三条先輩? もしかしてお化け屋敷は苦手な感じですか? 仕方ないですね、それなら俺達は外で待機して——」
「だ、誰が怖いって言ったのよ!? あ、貴方の方が怖がっているんじゃじゃないの!? さっきから足震えてるの知ってるんだからね!? ま、まあ、貴方が怖いのが苦手だって言うなら、仕方なく付き合って外で待ってあげてもいいわよ!?」
「こ、怖いとかないし!? いい大人がこんな子供だましで怖いなんて、はは、わ、笑っちゃいますね!! こんなの余っ裕ぅっすよ、余裕ぅ!」
「いや、俺達まだ子供だろ? ほら、茶番はいいから早く行こうぜ?」
しまった……。でももうここまできたら後には引けない。大丈夫だ、ここはガチの心霊スポットでもなんでない、人工的に作られた怖いでしかないのだ。
何の問題も無い……。ふふ、荻野修、漢見せてやんよぉ!!
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「……佐川さん、大丈夫だった?」
「うん、アトラクションよりも前を歩いていた二人がちょっと目の毒だったかな……はは」
余裕のある二人とは打って変わり、轟沈して互いにベンチで放心状態に陥っている俺と三条先輩。辛うじてお化け屋敷から出ることは出来たものの、完全に燃え尽きてしまった。
今日のデート、開始三十分でもう動ける気がしない。
なんだよ、あの本気クオリティは。マジで心臓止まるかと思ったぞ? おかげで道中で耐え切れなくなった三条先輩は泣き叫ぶし、俺は脳裏に恐怖を植え付けられ、未だに足に震えが止まらないときている。
絶対、今日寝れねえ……。思い出して震える奴だわ、これ。天井とか壁がそれっぽく見える現象待った無しだわ……。
「怖かったよぉ……」
「ええ、俺も本気で漏らすかと思いましたよ……」
道中はお互いの手を固く握り、体をこれでもかと寄せ合って進んだ。これだけ聞けば、恋のキューピッドがなんて役得! お化け屋敷に感謝感謝♪
と、言いたいところだが、実際はあまりのお化け屋敷のクオリティーの高さの前に、触れ合うJKの肌やデケぇの感触を感じる余裕など微塵もなかった。
とにかく必死だった……。絶対もう二度と行かねえ、お化け屋敷なんて。この世から滅んじまえ。
「じゃあ次行こうぜ。と言っても二人がこんな状態だから……休憩も兼ねて観覧車なんかどうかな?」
「うん、そうだね。三条先輩、荻野君、大丈夫? 立てる?」
パイスラッシュが近づいて来た……だと? 眼福でございます。なんか元気が出てきました。幸せな映像のおかげで足の震えが消えました。凄い効果ですね、パイスラッシュって!
「な、なんとか。折角のWデートなのに時間を無駄にする訳にはいかないからね」
重い腰を上げてなんとか立ち上がったのだが、同時に服の裾を引っ張られた。用があるなら声をかけるかして欲しい。服が伸びるじゃありませんか。
「ま、待って……わ、私、た、立てないよぉ……」
涙ながらに訴えるJKは腰が抜けていたようだった。




