一家団欒
「えっ? だ、Wデートぉ!?」
「そうなんですよ。明日、遊園地に行く事になってまして。引き立て役ってやつですけどね。俺、恋のキューピッドの片棒を担ぐ事になったんですよ」
本日の家庭教師の授業も無事に終え、お茶を飲んで一服中のあやかさんに明日のWデートの話したところ、妙に険しい顔をされた。
「それ、ずるくない!?」
「ず、ずるいですか?」
なにやら噛み合わない回答が返ってきた。俺はなんだかんだ言って恭介の為なら少々は骨を折ってもいいとは思ってるのですが。
しかし何故にあやかさんのほっぺがパンパンに膨らんでいるんだ? この前食べた大学芋の時と同じく越冬を控えたリスみたいになってる。
「修君は三条さんとデートなんだ! ふ~ん、そうなんだ!? お姉さんは寂しいなぁ~!?」
「そ、そうは言われましても……」
じゃあ一緒に恋のキューピッド役をします? とは言えないし……な、なんだ? 何を求めていらっしゃるのだ? それにいつも三条先輩の事は彼女ちゃんとか茶化すのに珍しく名字で呼んでるし……。
「そのデートはあくまで修君の友達が主役だからね!? いい!? 間違ってもその……へ、変な関係にならないようにね!?」
変な関係とはどんな関係なのでしょうか? もしかして俺が佐川さんを横取りするとか? いやぁ~、それはないですわ。そんなことしたら恭介に恨まれてしまう。
先を越されるのは辛いが、俺は応援したいのだ。今回のWデートでいい感じになって欲しい。
「もちろんですよ。必ず成功させてみせます! 俺が横取りするなんてことは絶対にありませんから!」
「うぅぅ……なんか勘違いしてるっぽいぃ……」
あやかさんはその日、しっかり晩御飯を食べた後、なにやら肩を落としながら帰宅された。随分と恨めしそうな感じではあったが……。
あやかさんも遊園地に行きたかったのだろうか……。確かに不意に行きたくなる場所ではあるよな。
「お兄ちゃん、あやか先生に何か変な事した? 来た時と違って元気無かったけど?」
「変な事って……雪は兄をなんだと思っているんだ? いつも通り勉強を教えてもらっていただけだ」
「ふ~ん。じゃあ部屋に防犯カメラとボイスレコーダー設置しておくね」
「なあ、雪? 身内を、お兄ちゃんを信じようよ」
玄関の前で兄妹で言い合いしてると、扉が開いた。てっきりあやか先生が忘れ物でもして戻って来たのかと思ったのだが……。
「おっ? 可愛い子供達が揃ってパパをお迎えしてくれたのかぁ? 嬉しい限りじゃないか! パパ、感無量だよぉ~♪」
「「違う。たまたま」」
綺麗に雪とハモった言葉は、久しぶりに帰って来た親父が膝から崩れ落ちた。相変わらず茶目っ気のある親父だ。
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久々に一家の大黒柱が戻ってきた。その大黒柱はビールをグラスに注ぎ、一気に喉に流し込んでいた。その姿を見て、俺は心の中で悲しみの咆哮を上げていた。
なんて美味そうに飲みやがるんだ……。俺も飲みてぇぜ、こんちくしょうがっ!!
尚、以前に親父が帰ってきたら、焼肉屋に行こうと言う話になっていたのだが、親父が家で家族とまったりしたいとごね出し、翌日にお家焼肉をするということに変更となった。
家と店の違いはあれど、明日はいいお肉が食えるようだ。ますますビールが飲みたくなっちまうぜ……。
ちなみに出張の多い親父の仕事は、テレビ関連の仕事についているらしく、意外に敏腕で各方面から引っ張りだこということぐらいしか知らない。
そこそこの給料をもらっているようなのだが、それに比例して家を開ける時間も多いのが特徴だった。
小さい頃はそれが嫌でしかたなかったが、高校生ぐらいになると別にどうとも思わなくなっていった記憶がある。
まさに親はなくとも子は育つ。である。
かといって別段嫌っている訳ではなく、現にあの雪もお酌を素っ気ない顔でしつつも、しつこく親父に食い下がられて仕方なく話をしているぐらいだ。
反抗期の娘にボロクソ言われても、負けじとくらいつく親父のメンタルは高く評価したく思う。
「にしても今日のアテは美味いな! 母さん、どこで買ってきたんだ? このきんぴらごぼう!」
「私が作ったという選択肢は無いのね? でもそれは修が作ったのよ。まったく、本当に似てきたわね、あんたたち二人は」
「え? これ、修が作ったのか? めっちゃ旨いぞ、このきんぴら。専門店もびっくりだ」
きんぴら専門店か。かなりニッチなお店だな。需要はあるのか? しかしこんな賑やかし全開の親父と俺が似てるか? 俺はもっと落ち着きのある人間で……雪も頷いているけど。
俺はお袋似なんだと思ってたんだけどなぁ。雪は完全にお袋のコピーだけど。
「あ、そういえば今日家から出てきた可愛らしい女性とすれ違ったんだが……あの人は誰だったんだ? なんか遊園地がどうとかぶつくさ言ってたぞ?」
「ああ、その人は俺の家庭教師の先生で——」
急に首に腕が巻き付いてきた。ゆ、雪ちゃん、何してるの!?
「遊園地? お兄ちゃん、本当に勉強してるの? ちゃっかり遊びの約束してるじゃん。本当にカメラ仕込んだ方が良さそうだね?」
かなり力が込められてるんだけど!? おい、やめろ!? 落ちちゃうじゃないか! そういのうのって禁じ手じゃないのかっ!?
「ま、待て!? なにか勘違いしてるぞ!? 俺はあやか先生と遊園地に行く訳じゃない!」
その言葉に力が緩まった。だが離してはくれない時点でまだ疑ってるな? ここは本当のことを言っておこう。
「遊園地に行くのは三条先輩とであってぇぇ、ぐぇぇえ、ゆ、ゆぎぃぃ……?」
「可愛い妹を置いてあのおっぱいと……どうして私も連れて行くという選択肢を選ばなかったの?」
さっきよりも強い力で首を絞められた。こいつ、こんなに力があったっけか……?
てか妹を連れて恋のキューピッドは出来ないから! てか、お前はただただ遊びに行きたいだけじゃねえか!?
「なんだ、しばらく見ない間に修も女っ気が出てきたのか? でも二股は良くないぞ? 俺も若い頃、母さんに……ぐえぇぇ……」
お袋が笑いながら雪と同じ方法で親父の首をしめていた。なに、このシュールな展開。うちの家系の女、強過ぎない?
てか母娘でテコンドー習ってんのか!? でもテコンドーって足技主体の武術だよね!? どうして腕を使った締め技なんて覚えてくるのさ!?
「そうよね、私とあの子とで散々アプローチしていたのに、何年も気付かなかった超ウルトラスーパー鈍ちんだもんね! あの子が諦めるのがもう少し遅かったら私が諦めていたわ」
散々アプローチされて? 年単位で好意に気付かないだって? そんな奴いるのか? 俺ならすぐに気付くぞ?
童貞のレーダー性能を舐めないでもらいたい。そんな場面に出くわしたら瞬時にビビッっと探知出来るからな。
てか、雪? 息が出来なくなって久しいからマジでそろそろ手を放してくれない? あとお袋もな? 親父、ビールの泡じゃなくてガチの泡拭いてるから。




