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三条先輩、吼える


 人体模型が存在感を醸し出す実験室。そんな料理を作る環境としては絶妙にふさわしくない場所で今日も料サーの活動中である。

 

 手元にはふんわりときつね色の衣をまとった豆腐がある。これと同じく彩りの良い黄色いかぼちゃと、緑のしし唐を添え、大根おろしを和えた出汁を全体に馴染むようにかけた。

 仕上げにすりおろしたショウガを豆腐の上に乗せて……ほい、完成。


 本日のメニューは揚げ出し豆腐。我ながらいい塩梅に出来た。


 揚げ物のジャンルになるとはいえ、ヘルシーさに定評がある人気の料理だ。個人的に大好きなメニューでもある。アテにもなるもんね。


「修……お前、マジで料理出来るんだな……。しかも手際が鮮やかだし」


「嗜む程度にはな。これからの時代、男も料理が出来ないと時代に取り残されるぞ?」


「いやいや、そんな家庭的なレベルじゃなかったぞ? テレビで見るプロの料理人対決も顔負けの技術だったような……」


 おそらく恭介が例に挙げているのは和・洋・中の料理の達人に一般の料理人が挑む料理番組のことを言っているのだろう。 


 懐かしいな……俺も下っ端の時によく見てたっけな。今の時代なら絶賛放送中か。今度見てみよかな。結果分かってるけど。だいたいのテレビは再放送感覚だからな。


「今日も最高の一品ね。それではいただくわね」


 ご機嫌に出来立ての揚げ出し豆腐を食す三条先輩。最近では出汁巻き玉子を作った以来、何もお作りになられていない。

 もはや完全に食べ専に移行したようだ。お料理サークルじゃなくて、三条先輩の賄いサークルとでも名前を変えるべきなのではなかろうか。


「ほれ、恭介も食ってみろよ」


「ああ、でもなんかうちのじいちゃんとかが好きそうな地味な料理だな。てっきりハンバーグとかオムライスとかを作ってるのかと思ったんだが。……え? くっそ美味いんだけど? なにこれ?」


 ふ、舐めてもらっては困る。こちとら料理長の限界を突破した厳しい修行に耐えてきたんだ。ご家庭の揚げ出し豆腐に後れを取るつもりはないぜ?


「ふっ、味わって食うが良い。で、結局何の話なんだ?」


 折角三条先輩を説得し、特別に料サーの部室に入れてもらったにも関わらず恭介はいつものようにガヤしてくるだけであり、まだ話の本筋を一切聞いていない。このままだとマジで俺の料理を食べておしまいになってしまうぞ?


「あ~、そうだな。そろそろ話すかな。あのな……隣のクラスの佐川咲ちゃんって居るじゃん?」


 誰……? 隣のクラスの女子? 記憶にないんだが……。


 眉を曲げ、遥か昔の記憶を辿っていたところ、横から三条先輩が揚げ出し豆腐の入った器を置き、言葉を発した。ちなみにきっちり完食されていらっしゃる。食べるの早くないですか? ちゃんと噛んでます?


「一年生の可愛いと評判の子ね。背も小さくて愛らしくて可愛い子よ。あと胸が大きいのがもう一つの特徴かしら」


 俺よりも三条先輩の方が詳しかった件ね。意外に情報通らしい。


 そっか、胸が大きいのか……。俺としたことがリサーチ不足だった。隣のクラスにデケぇが存在していたなんて。

 

「後輩君? 何を想像しているのかしら? アツアツの出汁を手にかけてあげましょうか?」


「すみません、この通り反省しています。どうか許して下さい。で、恭介、その子がどうしたんだ? まさかその子がこの料サーに入りたがってるのか?」


「おま……この流れで掴めねえのかよ……。その頭は飾りか?」


「後輩君はそっちの線は本当に残念なのよ。底辺と言っても差し支えないぐらいには」


 あれ? なんかめっちゃ俺、ディスられているんだけど? なんだよ料サーに入りたい訳じゃないのかよ。

 

「はぁ……恭介君はその佐川さんが好きなんだけども、どうしたらいいかって君に相談してるのよ」


「え? そうなのか?」


「ああ。でも俺が馬鹿だと気付いたよ。修に相談しても何にも前に進まないことが分かったからさ」


 なんか優しい目をして肩を叩かれたんだが? なに、その戦力外通告の儀式は。だが実際に戦力外であることは否定出来ねえけどな。俺は年齢=彼女いない歴のおっさんだからな。俺の中で高校生の恋愛事情なんて守備範囲どころから神話クラスのおとぎ話だぜ?


「もう最近じゃ彼女の事が好き過ぎて、いつも考えてしまってさ……飯も朝昼晩しか喉を通らねえんだよ」


 めっちゃ健康的に食えてるじゃん。何の問題もねえよ。


「そんなに好きならさっさと告白なりなんなりしたらどうだ? 玉砕するも、受け止めてもらえるも、早いに越した方が良くないか? だらだらしてて、横からかすめ取られるのも嫌だろ? 若いんだから失敗を恐れずに攻めればいいと思うんだが?」


「お前、何歳だよ……若いって若い奴が言うなよ。それに難易度高い事をさらっと言いやがって……。ならお前なら出来るのか?」


「無理だな。そんなもん出来る訳ないだろ?」


「ははっ、お前、ふざけてんのか?」


 安定の漫才を楽しんでいるところ、三条先輩が立ち上がった。ちなみにお皿は空なのでお代わりですかね?


「仕方がないわね。私が一肌脱いであげるわ……。ここは、Wデートの決行よ!」


 高らかに拳を上げて宣言された三条先輩。なぜか頬は赤いけど。


「おお……三条先輩、今、俺は貴女が神に見える……」


 その姿を見て指を絡ませ、祈りのポーズを取って崇める恭介。でも見ているのは顔じゃなくてデケぇだろ? このおっぱい星人が。まあ、俺もだが。


「まあ良かったじゃないか。三条先輩も手伝ってくれるってことだし、うまく彼女をゲット出来たらいいな。俺も陰ながら応援させてもらうからさ、頑張れよな」


 ポンポンと肩を叩き、調理器具の洗い物を始めたのだが、何故か二人して信じられないという顔で俺を見ていた。


 絵面的に漫画みたいだ。どこかでネタ合わせしましたか? 息ピッタリじゃないですか。


「なあ、わざと……やってるんだよな?」


「なにがだ? 洗い物の事か? 調理は洗い物が終わるまで調理だからな」


 下っ端時代から今に至るまで切っても切れない関係だ。洗い物は全ての基本だぞ? 家に帰るまでが遠足という言葉と一緒だ。料理長だって自分が使った器具は自分で洗っていたからな。

 

「……後輩君は、私とカップリング! 恭介君は佐川さんとカップリング! この二組でWデート! ここまで言わなきゃ分からないかしらっ!?」 


 頭から湯気が出そうな程に怒り狂った三条先輩が吼えた。まさに怒髪天を衝くのごとし。どうしてそこまでご立腹に……ん? 俺と三条先輩がデート?


「ふぁ!? な、な、何言ってんすか!? お、俺と三条先輩がデートなんて!? JKとデートなんてしたら俺、捕まりますって!? なによりデートなんて俺、したことないんですよ!? せめて取説! もしくは攻略本を下さいっ!」


「修、お前ちょっと落ち着け。確かに三条先輩はまごう事無きJKだが、お前と俺も対等の立場であるDKだ。何の問題も無いだろ?」


 へ、へい、ごもっともでございます……。そういや今の俺は現役高校生だったな。あまりの衝撃的な内容に取り乱してしまった。しかし、三条先輩がわざわざ恭介の恋物語の為に動くメリットなんてあるのか?


 ……もしや三条先輩って恋のキューピッド的存在なのか!? そうか、愛の名の下には理由なんていらないんだ!


「分かりました……俺らは恭介の為にお膳立てに徹する訳ですね! でもそこまで恭介の事を気にかけてくれるんなんて……。なんて優しいんですか、三条先輩っ! 俺、見直しました!」


 そう、俺達はあくまで仕掛け人。それ以上もそれ以下もない、何を慌てているんだか俺は……。


「……はぁ」 

 

 三条先輩が完全に死んだ目をしてその上ため息を吐いたんだが? 恋のキューピッドがそんな目をしたらダメですよ? ほら、笑って笑って!


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 当時JKなんて言葉あったかな
[良い点] DKで鈍感ってかわいいけど、おっさんで鈍感と考えると社会不適合者だよね! [一言] 今さらだったわね!
[気になる点] 出汁の色について言及してる人いるけどまんまその色なわけないじゃん 黄金出汁が本当に金ピカの黄金色してないだろ?
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