3年生の教室
お昼休み、昼食を食べ終えての休憩タイムの話題はいつものあれだった。
「やべえよ! この先の展開が気になって夜も眠れねえぇ!! マジで修が言った通り、主人公、髪の毛が金髪になって強くなってるしよぉ! だが髪の毛を、髪の毛をネタにするんじゃねえよぉぉ!! クソぉぉぉぉ!!」
少年誌を机に叩きつけ、見えない何かに訴えて唸る恭介。どうやら髪の毛のくだりは漫画とはいえ、こいつにとってタブーのようだ。
そんな今日も平和な昼休みの一コマを迎えているところである。
「まあ、なんだ……夜はしっかり寝ろよ?」
「一応言っておくが、比喩だかんな? 言われなくても寝るし寝てるわっ!」
芸人並みのシャープな切れ口で返してきやがった。腕上げてきやがったな……。
ちなみにサッカー部に入らなかった恭介だが、それはそれで毎日楽しく過ごしているみたいだ。基本的に面白い奴だし、気配りも出来るので何気に女子人気も高かったりする。
その気になれば普通に彼女とかも作れるんじゃないかと思う。サッカー部に入部しないという事はワンチャン、ハゲルートからも逃れれたかもしれないしな。
ちなみに早速ではあるが、今日から家庭教師の方がいらっしゃる予定となっている。ゆえに今日の料サーはお休みする必要がある。なので今日はこのまま昼休みが終わるまで恭介とだべっている訳にいかないのだ。
「なあ恭介? 今日は漫画の話は置いといて、ちょっと三年の校舎の方に行きたいんだが。一緒に来てくれねえか?」
「ん? 三条先輩に会いに行くのか? ああ、もちろんいいぜ!」
景気よく返事をしてくれた。きっとこいつはデケぇを見たいだけあろう。
くくくっ……生贄に捧げられるともつゆ知らず呑気なものだ……。そう、真っ向から『料サーをしばらく休ませて下さい、お願いします!』なんてものが通用するなどとは思っていない。なので代替案として、この恭介を捧げる案を提唱する予定だ。
三条先輩が好きに料理した物をこいつに食べてもらう……事実上の実験動物として献上する予定だ。
おっぱい信者の恭介ならきっと炭の塊でも喜んで食うだろう。まあ、俺も信者ではあるが、そこは流石に元板前のプライドもあるからな。流石に炭は食えねえよ。
「……修? お前、なんか物凄く酷い事を考えてないか?」
ほう、エスパーの素質があるのかな? よくぞ俺の脳内情報を読みとった。だが俺の為に屍になってくれ。その上を俺は渡らせてもらうからさ。
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三年生のクラスが並ぶ校舎。当時の俺は、上級生のその成長した体や威圧感にビクつきながら歩いたものだが、今の俺からすれば高校三年生なんて子供もいい所であり、生暖かい眼で見る事が出来る。
俺も今は子供だけどもね。とはいえ、大人の対応として遠慮はせねばなるまい。入り口でコソコソさせてもらいますよぉ~?
「えっと、このクラスの筈……あ、いたいた。三条先輩、三条先輩! ちょっとよろしいですか?」
「——ん? 後輩君? どうしたの? 珍しいじゃない」
ご友人と話をしているところ、少しお邪魔させてもらった。てか、やはりデケぇ。周りにいる上級生JK群の中でも断トツのサイズだ。
「あ、もしかしてこの可愛い子がみくの言ってたお気に入りの子?」
「ちょ、ちょっと!? な、何を言っちゃってるのぉ!?」
先程まで話し相手になっていた友人に対し、顔を真っ赤にして叫び声を上げた。しかもいつものお嬢様口調ではなく、JK口調で。おかげで周りの諸先輩方からも注目を集められているのが見てとれる。
どうやら俺はお気に入り認定されているようだ。
だがそう思われても不思議ではない。もはや専属のシェフに近いもんな。俺自身が可愛いかどうかの判断はなんとも言えないが。主観にもよるのでコメントは控えさせていただこう……。
「こ、後輩君!? 違うからね! 今のはこの子が勝手にぃ……くっ! 余計な事を言わないの!」
「ちょ!? 当たってる当たってる! 自慢の胸がこれでもかと当たってるから! ほら、超変形してるじゃん!」
突如繰り広げられたJKの絡みに、思わず前傾姿勢になったのは俺達二人だけではなかった。同じく教室に居る男子の先輩方も同じフォームになっていた。
これは仕方ない。俺も恭介も、先輩方も男の子だもん……。
しばらくして友人を撃沈させた三条先輩は、改めて俺の話を聞いてくれたのだが……。
「ダメよ。月曜から金曜まではサークル活動よ。家庭教師は学校の無い土曜と日曜にしなさい」
即、NGを食らう羽目になった。だがここまでは想定内。こっちには秘策があるのだ。
「はい、だから生贄……おほん、もとい試食係として恭介を差し出します」
「修、俺さ今、とんでもない本心が零れ落ちたのが垣間見えたんだけど?」
ちっ、俺としたことが。つい本音を漏らしてしまったか。
「……その家庭教師って男性よね?」
「え? 手配したのは俺じゃないので性別まで聞いてなくて。今日は顔合わせも兼ねて家にいらっしゃるんですよ」
「気になるわねぇ……私も確認しに行こうかしら……」
どうして来ちゃうの? てか料サーの件はどうなったの? 恭介はちゃんと受け取ってもらえますか?
「三条先輩は来なくて大丈夫です。じゃあ今日からは恭介を送りますので……」
「恭介君はいらないわ。最悪は後輩君の家で料サーの活動をするから」
バッサリと切られ、orzになる恭介。本人を目の前にして絶対に言わないが、髪の毛のある今の状態は間違いなくイケメンなんだけどな……。
もはや自然に俺の家でサークル活動する事になってる件ね?
「え~、みくったら大胆! 彼氏の家で何する気ぃ~? もしかしてぇ、ご自慢の胸であんなことやこんな……ご、ごめんっ冗談だってばぁ!」
手の平に拳を打ち付け、クラスメイトを睨む三条先輩。ただ、弾みますねぇ……デケぇが。
尚、渋々ではあるが、顔合わせの初日という事で、今日だけは料サーはお休みさせてもらえることになった。でもおかしいよね? 学生って文字通り学業が本分だよね?




