家庭教師
「家庭教師? 構わないけど一体どうしたの突然。急にやる気になっちゃって。それにしても絶品ね、これ。舌触りが超滑らかだわ、このプリン♪」
料サーで作ってお持ち帰りしたプリンを頬張りながら答えてくれたのはお袋だ。かなりお気に召していただけているようでなによりである。
案外上手に作れて自分でも驚いたけどね。卵に砂糖を多めに入れて蒸せばなんとかなるか、と思って作ったら本当に結構いい感じになった。
正直、スイーツ、特に洋菓子系は専門外なので少々苦手ではある。こればっかりは料理長からも教えてもらってないもんな。
しかしプリン効果も合わさってか、簡単にオッケーしてくれたな。家庭教師を雇う以上、それなりに金額がかかると言うのに。
尚、雪は自分のプリンを完食し、相当気に入った&物足りなかったのか、俺の分に狙いを定め始めていたのが見えた。
状況だけ聞けば愛らしい妹の戯れに聞こえるが、実際にプリンを見つめる目は、どう見間違っても恥じらいのある美少女の目じゃない。
あれは獣の目だ。やはり武道を嗜むJCは違うな。ガチで狩りに来てやがる。
「助かるよ。ゆくゆくは大学に行きたいなとも思ってるんだけども、ちょっと基礎からやり直したいなと思って……」
雪が俺のプリンを強奪しようと手を伸ばしてきたので、おデコに手を置き、阻止してやった。そうやすやすと渡す訳にいかない。
「そういえばタイムリーな話だけど、今日そんなチラシが入ってたような気がするわねぇ~」
なんと。ここでも運命の神様は味方してくれているのか。そんなご都合展開ってあるんだ。
「……隙ありっ! いただきぃ!」
「あ、こら! それは俺んだぞ!? ったく……雪ってそんなに甘い物好きだっけか?」
「プリンは神……はむはむ」
一瞬の隙を突かれてプリンを強奪されるや、即手をつけられてしまった。しかし二個目を食べる顔が先程の獣の目とは違い、CM依頼されてもおかしくない程の笑顔だから許してやろうと思う。
身内贔屓になるが、なんだかんだ言ってうちの妹は美少女なのだなと実感した。あとはあの足癖の悪ささえ何とかなれば言う事ないんだが。
「じゃあ私が頼んでおいてあげるわ。その代わり、勉強しっかり頑張るのよ? でも修が勉強にやる気を出してくれと知ったらきっとパパも喜ぶわ♪」
そういえば親父は学歴主義者だったからなぁ。学歴社会であることは未来でもそう変わりないからな。
「そういえば親父……いや、父さんはいつ帰って来る予定だっけ?」
「今週末に帰って来る予定よ? そうだ! パパが帰ってきたら週末は皆で焼肉でも食べに行きましょうか♪」
うっ……焼肉か。当時の俺なら喜び狂っていたんだろうけども、歳を取るにつれ、油がきつくて全然食べれなくなっていくんだよなぁ。
若い今の肉体なら問題は無いのだろうけども、あの胸やけだけは昨日の事のように思い出せる。
特に『上』が付くカルビとかロースなんてニ、三切れ食べたら胸いっぱいになってたもんな。サシてんこ盛りの高級肉なんて、見るだけでお腹いっぱいになる自信がある。
おっさんが好んで食べてたのはハラミだな。油は少ないから食べやすいんだよなぁ……まあ、あれホルモンの一種だけど。
それになにより、焼肉屋に行ってビール飲めない拷問も辛い……。そう考えると、肉より寿司の方がいいかも知れないな。
……寿司は寿司で日本酒が飲みたくなるから一緒か。くぅ、枡酒飲みてぇ……。




