補習
麗らかな春は足早に通り過ぎ、新緑の季節となった。
学校にもタイムリープ生活にも色々な意味で慣れてきた今日この頃。料サーの活動や、あやかさんのストリートライブも毎日顔を出し、二度目の青春時代を謳歌していたのだが……。
「なあ、最近授業難しくなってきてねえか……」
コロッケパンを咥えながら愚痴を漏らす恭介。物を咥えているのにも関わらず、言葉が聞き取りやすい。いっそのこと声優さんになればいいのに。
少し脱線してしまったが、このところ中学時代の復習を終え、新しい内容が多く入って来た為、更に勉強が難しく感じるようになってきた。
にしてもこいつ、飽きもせずにいつもコロッケパンばかりだな……。油分の取り過ぎは頭皮によくないぞ?
「ああ、もう何が何だかさっぱりだ」
俺に関しては一度受けた授業内容だが、習ったことは忘却の彼方へ葬り去られている為、下手したら中学の内容から思い出さねばならない状況なのだ。
正直、序盤の遅れも響き、今ではまるっきり授業についていけていない。思い出せればそこそこは対応出来ると思うんだけども……。
「おかげで今日は放課後に居残りだ」
「あれ? 修ってそんなに馬鹿だっけか?」
あっけらかんと失礼な事を……確かにそれほど頭は良くなかったが、少なくとも恭介とどっこいどっこいではあったと記憶している。
うん、馬鹿ってことか。
しかし俺のタイムリープによるセカンドライフで目指すのは大学進学だ。こんなところで躓いている場合じゃない。
もう少し勉強に力を費やしていかねばならない……のだけども、最近お袋や雪が俺の作る料理に味を占めてしまい、ちょいちょい料理を作らされるので自由時間が少なくなってきている。
歯向かえば雪が脚を上げてくるし……。そう、手はなくて脚を。とんだDVだよ……。
まあ例え時間があったとしても、がむしゃらに自己流で勉強していては遅々として進まない可能性が高い。
「テストも近いしちょっと真剣に取り組まないとな……」
初夏が近づく春の青い空に向かって深いため息を吐いた。
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放課後になり、他のクラスメイトが帰って誰も居なくなった教室で、担任の先生とマンツーマンで居残り授業が始まろうとしていた。
この補習で少しでも学力を取り戻す&付けようとしているのだが、教室の外で漆黒のオーラを放つ三条先輩が睨んでいるのがちょいちょい気にはなる。
「おい、荻野。教室の外にいる三年の女子だが……」
「先生、お互い今は無視しましょう。さあ補習の方をお願いします」
「そうは言われても……物凄く気になるんだが……」
まあメデューサも尻尾巻いて逃げる程にガン見してますからね。流石に乗り込んではこないだろうけど。
尚、ゴルゴンの目線以上のものを受けながらも、なんとか一時間程の補習を受けて解放された。のだが、まだどうも自分の中でしっくりこない。これは少し厄介だな……。
「後輩くぅ~ん?」
そんな俺はすぐさま怒りボルテージMaxの三条先輩に襟首を持たれ、引きずられるように実験室へ移動させられて行った。
結構、力あるんですね……。
実験室に着くなり、イスに座らされて目の前に立ちはだかれた。どうやら今から説教を食らうようだ……。
「君、この高校を卒業しているのよね? なのにどうして初歩の初歩である高校一年の授業に付いていけてないの?」
自身の果実を腕で持ち上げるようにして腕を組み、冷たい瞳で睨まれた。セクシーな姿勢に思わず鼻の下が伸びそうになるが、騙されてはいけない。
彼女の目の奥にはしっかりとした恐怖がある。
そもそも土台無理な話なんだ。十数年前の記憶が、三条先輩のデケぇみたいに艶々な状態である訳ないでしょうが。
と、言いたいところだが、そんな卑猥な事、言った時点で敗訴確定だから言わない。
「仕方ないわね……私が勉強を見てあげるわ」
「え? 三条先輩って勉強出来るんですか?」
「貴方、失礼よ?」
見た目は清楚系ですし、勉強も出来る感があると言えばありますが、時折挙動に幼い傾向が見られますし、あんまりアテにしてなかったといいますか。
「ほら、教科書出して。で、どこが分からないの?」
「ああ、はい。ええと……ここですね」
先ほどの補習授業を受けた場所のページを開けた。
「えっとなになに……うん、そこは公式を当てはめて解く応用問題ね。これとこれをなぞらえて、こっちに展開すると自ずと答えは出るじゃない」
……いや、だからさ? その理屈が分からないんだって。
「三条先輩? もう少し詳しくお願い出来ますか?」
「詳しくって……これをどう詳しく説明するの?」
ダメだ。この人、料理もそうだったけど、勉強も天才肌タイプだ。感覚でスラスラ問題解いちゃうから、人に説明するとか苦手なんだな。
「三条先輩……教えるの下手って言われません?」
「な、なによ!? そ、そんな事……ないわよ!?」
絶対俺以外にも言われたことある挙動だな……。しかし本当にまいった。このままだと、どんどん授業から取り残されてしまう。早急に手を打たねばならない。
「でも貴方の場合、かなり初歩から勉強し直さないとダメみたいだね……まずは九九から始めてみる?」
「三条先輩もちょいちょい失礼ですよね?」
「ふん、仕返しよ」
上機嫌で返された。ったくJKという存在は……。
「まあ冗談はさておき、高校レベルの内容を覚え直すより、初心に戻って中学生ぐらいから復習した方がいいかもね。そうなってくると、下手に塾なんかに通うよりは家庭教師とかの方がいいんじゃないかしら? 個々のレベルに合わせて教えてくれるし」
家庭教師か……確かにその方がいいかも。分からない場所を的確に教えてもらえるという点では、これ以上はない頼りになる存在だ。
「そうですね、一度検討してみますかね……」
「な、何だったら私がその家庭教師をやってあげてもいいわよ? 授業料は貴方が作るまかないで結構よ?」
「結局料理を食べたいだけじゃないですか……。勉強時間が調理時間に食われて本末転倒な未来が見えますので遠慮します。それに三条先輩は教えるの下手ですし……」
「貴方も言うようになってきたわね?」
またまた怒りを買ってしまったが、アドバイスをくれたお礼にプリンでも作りますと申告したところ、大変喜んで許してくれた。
なんだかんだ言ってもそこはやはりJK。甘い物には目がないらしい。とはいえ、あまりデザートを作るのは得意ではないんだけど。
そういえばプリンってどうやって作るんだっけ……。茶碗蒸しの要領でいいのかな?
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