雨のLIVE
「お……いたいた」
生憎の曇天の中、俺は弁当の入ったカバンをたずさえ、駅前の公園に足を運んでいた。
日曜日なのでお昼でも歌を唄っているのではと思い足を延ばしてみたのだが、案の定、いつもの場所で曲を披露していた。
今日はお客さんが何人か見てくれており、活気があった。みんなあやかさんの歌に聞き惚れているようだ。
しばらく遠くの方で愛らしい声を聞き、お客さんが掃けたところで顔を覗かしてみた。
「お、高校生君! 今日も来てくれたんだね♪」
眩しい笑顔に鼓動が高鳴ったのを感じた。ほんとに可愛らしい人だなぁ……。プロのアイドルも一歩引いてしまうレベルの可愛さ……直に出てくるであろう某アイドルグループのセンターは確実に取れると思う。
「ええ、またお腹を空かしてるんじゃないかと思いましてね」
「ふふ、今日もばっちりお腹は空いてるよ!」
程よい大きさの胸を張って肯定してきた。仕草がちょっとえっちい……。天然さんなのだろうか、少し無防備が過ぎるかと。あと、相変わらず貧乏さんのようだ。
「あ! 今『この人、貧乏なのかな?』って思ったでしょ! 確かにお金は無いけども……お腹を空かしてるのはわざとなところもあるんだよ?」
おっと、顔にでも出ていましたか? 的確に見透かされてしまったのだが……しかしわざとお腹を空かせている? 食べれるならしっかりと食べた方がいいですよ?
「とりあえずお腹が空いてるのなら良かったです。じゃあ、これ良かったら食べて下さい」
「やったぁ~! お弁当~キター♪ お昼ごはん我慢した甲斐があったよ!!」
どうやら俺が来ることに賭けていたらしい。嬉しいような迷惑をかけてしまっているような……。今日来なかったらきっと飢えてたな。
様々な思いが交差する中、お弁当の包みを持つ手に雨粒が落ちたのが見えた。どうやらお空の飽和水蒸気量がMAXになってしまったようだ。
「あちゃあ、降ってきちゃったか。ごめん、高校生君、ちょっと待って! 今日はもう片付けちゃうから。そ、そのお弁当は食べるからね!? 持って帰っちゃダメだよ!?」
必死ですね……誰も盗りはしませんから安心して下さいな。
しばらくすると雨は本格的に降り出してきた。そんな中、俺とあやかさんが避難した先は……。
「にひひ、なんか子供に戻ったみたいじゃない? ここってなんか秘密基地って感じしない?」
「はは、そうですね……まさかこんなところで雨宿りすることになろうとは……」
避難先は目と鼻の先にある公園の中の、石で作られた大きな滑り台の内部スペースだった。流石に子供用なので中はそこまでは広くはないが、雨を凌ぐことぐらいは十分に出来そうだ。
「最近見つけたんだ。雨が降って来た時の避難場所! じゃあここで……お弁当タイムにしよ!」
中にはおままごと用なのか、小さいテーブルがあった。ここまで下調べしているとは中々逞しい人である。
「うわぁ~!! か、唐揚げ様だぁっ!! ハンバーグ殿もぉ!? オムレツ閣下までぇ!!」
おかずを前にリアルに戦々恐々するミュージシャンさん。
ねえ、健康面大丈夫? 本当にちゃんと毎日食べれてます? 大層な肩書をつけておられますが、結構普通の家庭料理ですよ? 普段何を食べてるんですか?
「ね、ねえ……わ、私、もう我慢出来ない……い、いい? 食べて……?」
「え、ええ、どうぞ遠慮なく」
ここで『待て』を命令する程人間おちぶれてはいない、本能の赴くままに食して下さい。
ただ、なぜかとてつもなくエロく感じてしまった件については、他言せずに墓まで持っていこうと思う。
あやかさんってやっぱり天然エロお姉さんなのかもしれない。おじさんのハートをこれでもかと突っついてくるんですけど?
「いっただきまぁ~す!! うぅ~ん! おいふぃ!! すんごいジューシーだよこの唐揚げぇ!」
しかしあやかさんも三条先輩と同じく旨そうに食べるなぁ……。作り手にとって至高の瞬間でございます。
「そんながっつかなくても逃げたりしませんから。もっとゆっくりしっかり噛んで食べて下さいね」
無我夢中で食べるあやかさんの姿に見とれている時であった。
「……君!」
「……ちゃ~ん」
うん? 雨の音に交じって誰かを呼ぶ声が聞こえる?
「どうしたの、高校生君?」
「あ、いえ。そういえばまだ俺、名乗ってませんでしたね。いつまでも高校生君と呼ばれるのもあれなので名乗っておきますね。俺の名前は荻野修。高校一年です」
「自己紹介ありがと! じゃあ改めて私も! 名前は中野あやか、売れない貧乏ミュージシャンだよ」
少し困った顔して自己紹介してくれた。実際はこの先、メガヒットをバンバン飛ばす超売れっ子になるんだけどね。
「後輩君! どこに居るの! 出ていらっしゃいっ!!」
「お兄~ちゃ~ん、なんか呼んでるよ~」
確実に聞き覚えのある二人の声を捉えた。
外を覗くと、視野的に足元しか見えないけども、発言内容から間違いなく三条先輩と雪である事は確実であった。
てか雪のやる気の無さはともかくとして、三条先輩がガチコールだ。雪は渋々付き合ってる感がモロに出てるな……。
しかしなんで二人が揃って俺を探しているんだ? 雪はピクニックはどうしたの?
まあ、この雨で中止になったんだろうけども、三条先輩と一緒に居る事に理由が見当たらないんだが?
「ん? 外で誰かを探しているみたいだね。それにしてもこのお弁当も修君が作ったんでしょ? いろんな料理を作れて君って本当に凄いね! いいお婿さんになれるよ!」
「はは……そりゃどうも……」
一応プロの板前をしていた過去があるものでして。それに今回の人生ではお婿さんには是非ともなりたいと思っております。
ですが、今は外に居る二人の事が気がかりで全く言葉が入ってきません。
どうして俺が探されてるんだ? それになぜ居場所が特定されているんだ……誰にも行き先を告げてないぞ?
「……ちょっと悪い事考えちゃった。ダメダメ」
あやかさんが何かを呟いたのだが、意識が外の二人に行ってしまっており、雨の音も相まってよく聞き取れなかった。
外では俺を呼ぶ声がどんどん遠ざかっていく……。てかどうして俺は息を殺して隠れているんだ? 別にやましい事はしてないんだから堂々としていればいいんだ。あとで見つかった時の方がややこしいことになる。
よし、今からでも遅くない、俺はここに居ると宣言しよう!
「ご馳走様。いつもありがとうね、修君。じゃあお礼にここで一曲歌おっかな。自然にリバーブも効くしね♪」
こんな閉鎖空間で超一流のミュージシャンが俺の為だけに歌ってくれる? 最高な案件じゃないですか。
「じゃ、じゃあ、お願いします!」
「ふふ、OK♪ イッツショータイム♪」
あやかさんがアカペラで歌ってくれた曲は聞いたことのないものだったけど、心に染み込んでくるとても良い唄だった。
公園の滑り台の中、演者と観客のマンツーマン。
最高のLIVEステージを堪能してしまった。世界のミュージシャンが俺だけの為に歌ってくれた。これってラッキーどころの騒ぎじゃなくない?
ジャンル別日間一位に続き、週間一位にもなることが出来ました!
こらも皆様のおかげです!ありがとうございます!
感謝を込めて今晩、もう一話、投稿しますね(笑)




