みくサイド~再び交わる二人~
みくサイド
「お嬢様、すみません、お買い物に付き合ってもらっちゃって」
「いいのよ、私も欲しい物があったから。何よりその買い物も私が頼んだものだしね」
隣で山のように詰めこまれた調理器具の入ったカートを押すみさきちゃんからお礼を述べられた。
日曜日の昼下がり、明日からのお料理サークルに使用する食材や備品を買い揃えに来ていた。
もともと私は焼き専門の調理しか行わなかったので、料サーには最低限の道具しかない。なのでこの機会に様々な料理に対応出来るよう、道具を一通り揃えてみた。
後輩君は嘘のような話だけども、元は一流の板前さんであり、その腕前はかなりの物。それを安物の調理器具や、道具が無い為に作れない料理があってはもったいないと思い立ったのがきっかけ。
明日からの料理のバリエーション追加に躍動する心とは対照的に今日の空模様は悪い。折角の休日だというのに今にも雨が降り出してきそう。
「あら? 降ってきたわね……」
「お嬢様、傘を」
メイドのみさきちゃんから折り畳み傘を渡されたので、開けて再び空模様を眺めた。
それほど雨は強くは降っていないけども、遠くの方までびっしり敷き詰まった灰色の雲から察するに、しばらくは止みそうにもない。
「立花さんがすぐに車を回してくれますので。少しお待ち下さいませ」
そんな店先で何気はなしに景色を眺めていたところだった。
向こうから三人組の中学生ぐらいの女の子が小走りに駆けてくるのが見えた。リュックを持っているところを見ると、どこかピクニックにでも行くつもりだったのかな?
「わぁ、降ってきたぁ」
「あそこで雨宿りしよ! 雪ちゃん、こっちこっち!」
他の二人に少し遅れて走って来るのは、雪ちゃんと呼ばれたツインテールが印象的な女の子。
見覚えがある……あの可愛らしい顔立ちに特徴のあるツインテールは間違いなく後輩君の妹。世間は狭いわね、まさか休日にこんなところで出会うなんて。
「あ……おっぱいの人っ!!」
「うぇ!? わ、私ですか!? い、いきなり、おっぱいの人だなんて、恥ずかしいじゃないですか!?」
みさきちゃんが胸を押さえて狼狽えながら答えた。
確かにみさきちゃんは私よりも更に一回り以上大きい。もはやそのサイズは日本人のサイズではないわ。けど、初対面でしょ? この場合、確実に私を指していると思うんだけど。
「違う、そっちの若い方のおっぱい」
「へえ……大人に向かって喧嘩売ってんすか?」
少しは年齢を気にしているのか、いたいけな美少女に向かって指を慣らす真似をして迫っていった。
「みさきちゃん、やめなさい。それこそ大人気ないわよ」
威嚇のポーズを取るメイド姿のみさきちゃんを前にしても一歩も動じず、私を見据える妹さん。中々肝が据わった子のようね……簡単に脅しに屈する兄とは全く違うじゃないの。
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「改めて自己紹介するわね、私の名前は三条みく。お兄さんが通う高校の三年生で、お料理サークルの部長をしているわ」
「荻野雪。中学二年生。お兄ちゃんの妹」
この前も名乗った気もするけど、今後もおっぱいの人と呼ばれるのも恥かしいので、改めてしっかりがっつり名乗っておいた。
「じゃあ折角の飲み物が冷めちゃうから飲みましょ」
私はホットティーを。雪ちゃんはホットミルクを口につけた。
尚、やはり雪ちゃんはピクニックに行く予定だったらしく、雨も止まないことから、先程止む無く延期解散にしていた。
「おっぱ……三条さん、ちょっと確認したいことがあるんですけど」
リュックの中から取り出されたのはお弁当箱だった。そのまま包みを取り中身を見せてきた。
そしてまた今、おっぱいの人って言いそうになったよね? 覚えてね? 三条みくだよ? それほど難しい名前じゃないから。
開かれたお弁当は色どりに溢れた美味しそうなお弁当だった。でも喫茶店でお弁当を広げて一緒に食べる……訳ではなさそう。流石にそれは店の人に怒られちゃうし。
「美味しそうなお弁当ね。唐揚げやオムレツにハンバーグ。見てるだけで食欲が沸いてくるわ」
とても美味しそうなお弁当だった。でも普通の手作りのお弁当だった。後輩君がいつも作る渋めの料理のラインナップとはちょっと異なる。きっとママさんが作ってくれたものだと思う。
「……本当に三条さん用じゃなかったんだ。お兄ちゃんと一緒でもないみたいだし。じゃあ、あのお弁当は誰のだろう……」
「ちょっと雪ちゃん。その話、詳しく」
思わず真顔になった。嫌な予感がする。もうひとつのお弁当? 行方に心あたりがあり過ぎる。というか、そのお弁当、後輩君が作った物なの?
ここで好きなだけご飯食べていいからそのお弁当を譲って……はくれないわよね……。




