JKと歌のお姉さん
容赦の無いJKの脅しにまたまた屈し、保身の為に全てをゲロしたあと、駅前の公園にやってきた。
三条先輩って見た目は清楚なのに、心は非常に残忍である。
「あの人ね?」
そんでもってなにやら機嫌の悪い三条先輩もついてきちゃった訳なのだが……。駅のホームは向こう側ですよ?
「あっ! 昨日の高校生君!」
俺に気付き、手を振ってくれたお姉さん。今日もゆるっとふわっと可愛らしい。大人の魅力がありつつも、若さが弾けている年代だ。
そんな元気な若者、おじさん、いいと思います! 俄然応援したくなっちゃうね!
「ふ~ん……可愛らしい人、ねっ!」
「いだぁっ!? さ、三条先輩!? 足ぃ!? 足踏んでますって!!」
しかもなんかぐりぐりされてるんですけどぉ……?
「あらぁ~、今日は彼女も一緒に来てくれたの?」
「ふぇ? か、か、かっ!?」
なにやら慌て出して顔を赤らめる三条先輩なのだが、残念ながら彼女ではない。サークルの部長だ。ちゃんと間違いは正しておかなければ。
「この方は彼女じゃなくて——」
「きっ!! 貴方は黙ってなさいっ!!」
「えぇ……どうして睨むんですかぁ……」
とはいってもこちらのJKも可愛いらしい顔しているので、どんなに凄まれても怖くは……あ、うん、やっぱ怖えや。瞳の奥に殺意の鼓動を感じる。
「あ~、そういう関係ね。ふふ、若いっていいわね~」
なにやら悟ったような顔をするや、ギターを鳴らし出した。何気ないフレーズなのだが、妙に耳に残る音だった。
……いや、確実に聞いた事があるぞ? 初めて聞いたのは結構前だけども。確か場所を問わずにあちらこちらで流れていたメガヒットソングだったような気が……。
「あの、お姉さん? さっきの曲って……」
「うん? この曲? へへ、実は新曲なんだ。じゃあ昨日のお礼に初披露しちゃおっかな!」
そう言うと、心弾むようなポップなギターの音と共に、お姉さんは心に染み入るような歌声を響かせた。
全身に鳥肌が立ち、生唾を飲み込んだ。そして憶測が確信に変わった。この曲、ヒットチャートで過去の連続一位の記録を塗り替えたと話題になった曲だ。確かアーティスト名は……。
「……あやか!」
お姉さんの曲が終わると同時に頭の中にアーティスト名が浮かび、高揚感からか、咄嗟に声に出してしまった。
「え? どうして私の名前知ってるの? 昨日もバタバタしちゃってまだ高校生君には名乗ってなかった筈だけど?」
し、しまった……。ど、どう誤魔化そうかしら……。
三条さんの方を見ると、またまたジト目でこちらを熱い視線を送っていた。完全に『やらかしたわね……』という意思を感じる。
大丈夫だ、まだ慌てる時じゃない。俺の今まで積み上げた人生経験があればこんな窮地、さくっと脱出できる筈だ! 何の自慢にもならないが、あの料理長に精神的に追い詰められ時に比べればぬるいものよ!
「と、友達に聞いてたので!! 駅前の公園で歌を歌ってる可愛らしい女性が居るって!」
ふはは、我ながらナイスな返しだ! どうだ、これなら不自然さは無い筈! 伊達に歳は食ってないんですよ!?
「ええ? 私、昨日初めてこの場所を見つけて歌ってたんだけど……。そして初めてのお客さんが高校生君だったんだけどなぁ? 可愛らしい女性ってところは素直にありがと♪」
おうふ……向こうの方が一枚上手だった。もう無理っす……嘘って絶対にバレた。こうなったらもう正体を明かすしかない。
諦めて事情を話そうとした時だった。俺の口に柔らかい手の平が覆った。優しい香り付きで。
「貴方っ! 二人だけの秘密だって言ったでしょ! 何を簡単に約束破ろうとしてるの!」
怒気を含んだ声と共に三条先輩が後ろから俺を抑え込んできた。当たってる。確実に背中にデケぇやつが当たってる……。
てか三条先輩も俺の秘密を今日バラしかけていたと記憶しているんですが? あれですか? 自分だけ棚上げですか?
「ふふ、仲がいいんだね。なんかいろいろ事情がありそうだけど、彼女ちゃんに免じて聞かないことにするよ♪」
大人の対応に感謝いたします。三条先輩も是非見習って欲しいです。
「ぷはっ……すみません。お心遣い感謝いたします……」
またまた彼女と呼ばれ、あくせくしている三条先輩なのだが、口が手に触れたのと、胸が背中に当たった件については不可抗力ですからね?
しかし、見た目も性格も大変素晴らしい人だ。俺はこんな大人になりたい。中身はとっくに大人だけど。
「ふふ、それじゃもう一曲——」
ぐぅぅぅぅ、きゅるるるる……。
静かな公園に響き渡ったお腹の虫の鳴き声。静止する俺と三条先輩に俯いてしょぼくれるあやかさん。この人はいつもお腹を空かせてるな……。
「あの、あやかさん? 良かったらこれ召し上がってくれませんか?」
取り出したるは幕の内弁当2号。尚、1号はしっかりと三条先輩にお渡ししてある。
「お、お弁当? だ、だめだよ!? これ、1000円は絶対超えるようなお弁当じゃない! わ、私はのり弁以上のお弁当を見ると動悸が……」
めちゃめちゃ貧乏が板に付いてる。高級弁当を目の当たりにすると発作が起こるのですか……。
「はは、大丈夫ですよ。これ、買ってきた物じゃなくて俺の手作りのお弁当ですから」
「え?」
弁当をお渡ししたのだか、あやかさんは俺の顔を交互に見つめてきた。二度見、三度見……四度見もしちゃったよ。
「この幕の内弁当様を高校生君が?」
様付けね。きっと呼び捨てに出来るのは1000円未満の料理なんだろう。
「ええ、俺、こう見えて料理が得意なんですよ。あと、見ず知らずの高校生に食べ物を渡されても気持ち悪いかも知れませんが、三条先輩も同じものを持っていますし、安心して食べて下さい」
そう言うと、鞄から同じお弁当を取り出してあやかさんに見せてくれた。
「なら私もここで食べようかしら? お味噌汁も用意してあるものね?」
「味噌汁が狙いだったんですね……どうですか? あやかさんも……うぇ!? ど、どうしたんですか!?」
振り返えるとお弁当を抱きしめながら涙を流していた。
「ひぐっ……こんな豪華なお弁当を食べるの初めてだよ……しかもお味噌汁もあるなんて……」
うれし涙だったらしい。なんだかいたたまれないなぁ……この人、ゆくはミュージシャンとして成功して大金を掴むんだけどもなぁ。
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美女二人の初コラボ会でした!




