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歌のお姉さん


 今日も一日、過去に類を見ない程のすったもんだがあったが、散歩がてら少し遠回りして懐かしい道を歩いて帰る事にした。

 

 タイムリープして早二日目ではあるが、人生において五本の指に入っていたイベントを押し退けて更新している。尚、不動の一位は料理長との……いや、やめよう。奥歯がガタガタ鳴ってしまう。


「……そういえばここでよく恭介とサッカーの練習もしてたっけな。懐かしいな」


 駅裏の公園。若かりし頃はいつもここで部活帰りに恭介とわちゃわちゃしてたもんだ。

 

 尚、三条さんは家まで送り届けようと思っていたのだけど、最寄り駅に迎えが来てるから大丈夫とのことで改札前で別れた。

 高校生にブラックカードを持たせるようなセレブだからきっと、執事さんとかメイドさんが居るのかも知れない。もしくは、娘を甘やかして炭まで食らう両親が迎えに来てるのかも知れない。


「いやぁ、懐かしい風景だった……。さぁてと、そろそろ帰るかな」


 春先とはいえ、夜はまだ少し冷える。ひとつ身震いして懐かしい公園に踵を返した時だった。


「ん……?」


 何か聞こえたような気がして足を止めた。耳を澄ましてみると、風に乗って何か歌声のようなものが聞こえてきた。


 音の出どころを探る為、耳を澄まして周囲を見渡しながら歩いていると、程なくして公園の片隅でギターを弾いて歌っている女性が見えた。


 しょっちゅう来ていた公園だけど、こんな人を見たのは初めてだ。というか、高校生がキャッキャ言いながら球蹴りしるような場所に歌いに来る人は居ないよな……。


 どうやら俺達がこの公園の一角をサッカーの練習場としてしまったがゆえに、知らず知らずの内に追いやってしまった人のようだ。


 俺と恭介がサッカー部に入らなかった時点で、随分と歴史が変わってしまったらしい。そんなやかましい高校生が居ない公園の片隅で優しい歌声で歌い続ける女性。


 見た目こそふわっとしているが、高校生程の幼さは感じられない。れっきとした大人の女性だろう。年の頃は二十代そこそこではないかと思う。


 髪は茶色に染められているが、決して下品ではなく、その醸し出す雰囲気にベストマッチしている。可愛らしいゆるふわな雰囲気をまとう女性だ。少し大げさな表現になるが、まるで妖精でも見ている感じがする。


 俺は知らず知らず、光に誘引される羽虫のごとく、その歌声に引き寄せられていた。そして気が付くと足は止めてその歌声に耳を傾けていた。


「ふふ、聞いてくれてありがとう。可愛いお客さん♪」


 しばらくその澄んだ声を堪能していたのだが、曲が終わりふと我に返ると、こちらを見て優しい笑みを向けてくれていた。


 そんな愛らしい仕草に女性慣れしていない側面がもろに出てしまい、思わず我を見失ってしまった。おかげで咄嗟に出た言葉が……。


「あ、そ、その!? う、歌、凄く上手ですね!!」


 だった。語彙力もへったくれもない返事をしてしまった……。


 少なくとも彼女よりは人生を長く過ごしてきたのにも関わらず、この程度の言葉しかなげられないとは……大人として情けねえ限りですぅ。


「お褒め頂き光栄で——」


 ぐぅぅ……。


 余裕を持った態度で返事をしてくれようとしたのだが、なんとそこで全てを押しのけて腹の虫が鳴る音を響き渡らせた。先日のJKといい、既視感デジャブを感じざるを得なかった。


 だが二人には大きな違いがあった。


 三条先輩は炭秋刀魚を食べようか真剣に悩んでおり、そこに恥じらないなどなく、そのような状況においても毅然とした態度を保っていたが、お姉さんは顔をみるみる真っ赤にさせて小さくなっていった。


 一般的な正しい反応だと思う。三条先輩が異常なのだ。


「あ~、お腹空いてるんですね……」


 耳まで真っ赤にして、無言でコクコクと頷く姿がこれでもかと庇護欲を掻き立ててくる。


 思わず確保したくなる症候群にかられながらも、俺は無言で財布の中から虎の子の五百円玉を取り出し、開かれたギターケースに入れた。


「ちょ、悪いよ!? 少ししか曲を聴いてもらってないのに……それに君、高校生ぐらいでしょ? そんな若い子からお金貰うのってなんか罪悪感があるんだけど……だ、だから、こ、これは、か、返すぅ……」


 顔を背け、へっぴり腰で(だいなり)(しょうなり)の目をしながら五百円玉を心の葛藤に逆らいながら突き出してきた。


 葛藤を体全体で表してる。なにこの人……超可愛いんですけど?


「大した金額ではありませんが、遠慮なく受け取って下さい。今日は少し遅いのでまた明日ゆっくり歌を聞かせてもらってもいいですか? なのでそれは前金ってことで受け取って下さい」


「い、いいの!? ほ、本当にいいの!? この五百円、あとでホクホク肉まんに変わっちゃうけど本当にいいのね!? やったぁ……じゃあ明日はお姉さん、思いっきり歌を聞かせてあげるからね!」


 なんとか五百円を受け取ってくれたお姉さんは、満面の笑みで五百円玉を握りしめていた。


 ひょんな事から、可愛いらしいミュージシャンのお姉さんと知り合いになる事が出来た。しかし本当に心に響くような素晴らしい歌声だったな……じっくり聞ける明日が楽しみだな。


ランキング上昇記念にもう一話!

そしてお待たせいたしました、ゆめかわ女子登場です!

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― 新着の感想 ―
[一言] みく先輩とうたのお姉さんが遭遇したら、一体どんな修羅場が繰り広げられてしまうのか… その場を想像すると夜も6時間位しか眠れなさそうです…
[良い点] ようやく、タイトル回収ですか… 長かったですね… 世界観に没入していて気がつかなかったけれど、そこそこ話数が掛かってました。 [一言] 個人的に雪がどうなるのかが鍵となる、と邪推してしま…
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