ミルクティーとブラック珈琲
「あ~あ、貴方が無理やり連れ出すから晩御飯食べ損ねちゃったじゃないの……」
先程から隣を歩くJKからの視線が痛い。そしてまた貴方呼びに戻ってる件ね。
「一応肉じゃがは食べたからそんなにお腹は空いていないでしょ……だからすみませんて……何か飲み物おごりますから機嫌直して下さいよぉ」
自販機の前に立ち、ラインナップを眺めた。レトロという程ではないが、ロゴが昔の物だったりしてちょっと懐かしい。
それにブラックカードは自販機では使えないもんな。今は交通カード系のエディ機能もまだ主流じゃないからな。場末の自動販売機にはまだ搭載されていない物がほとんどだ。
俺は時代に取り残された、いつもニコニコ現金払いの現ナマキャッシュ派の旧人類だけどな。
しかしこんな話をしたら驚くだろうな。そう遠くない未来にスマホでポンポンお買い物が出来る時代が来るなんて。
「そういえば喉乾いたわね……仕方ないわね、それで手を打ってあげるわ。じゃあ……ミルクティをお願い出来るかしら?」
「はい、承りました」
お、何気に価格が110円設定じゃん。令和の世は130円がデフォだもんな。なんならエナジードリンクに至っては200円超えてくるのもザラだからな。
えっと、ミルクティーは……。あったあった。ホットでいいよね? ちなみに俺は甘いのが苦手だからブラックで。
「貴方、ブラック珈琲なんて飲むの? 高校生らしくないわね」
「外見は子供、中見は大人ですからね。はいどうぞ。ミルクティーですよ」
三条先輩にアチチな缶をお渡ししたところ、萌え袖にしてミルクティーをころころと転がしながら暖を取っていた。春先とはいえ、夜はまだ少し冷える。
こんな日は焼酎のお湯割りで晩酌したい。もちろん芋で。でも隠れて飲酒してるのがバレたらマジで家族会議が開かれてしまうからなぁ。我慢我慢……辛ぇ。
「ねえ、貴方の秘密を知ってるのって……わ、私だけかしら?」
ゆっくりとミルクティーをすすりながら上目遣いで質問されたのだが、この構図、超高校生っぽくていい。飲料メーカーさんに応募したらCMに採用されること間違いなしだろう。高校生のCMって結構流行るんだよなぁ……。
おっと、余計な事を考えてしまった。俺の秘密を知ってる人でしたっけ?
「ええ、そうですね。何と言っても脅されて全て漏らさざるを得ませんでしたから」
「少し言い方に棘を感じるわね……。でもまあこんな事、私以外、他の人に話しても信じてもらえないだろうから、今後も、ふ、二人だけの秘密にした方が、よ、よくないかな~って思うんだけど~?」
おっしゃる通りである。普通はそんな漫画みたいな話、誰も信じてくれず、中二病発症者として距離を置かれるだろう。飯の種でもあった調理技術で信用されたのだろうけども。
ただこの秘密の拡散は出来れば避けたい。悪用される可能性も無きにしも非ずだからだ。
主に俺の生活が脅かされる可能性が高い。存在するかは分からないが、確実に宇宙人と同じ扱いを受けるだろう……。
あと、普段の毅然とした態度が消えて小動物感出ているのは何故ですか?
「是非ともそうして下さい。この事は他言無用で俺と三条先輩だけの秘密ってことでお願いします」
「そ、そうね!! それがいいわ! 私と貴方との秘密にしましょ!! その方が絶対いいわ!! うん、あ、あとね……その……」
なんでこの子は自分で投げかけた提案でテンパってるんだ? それに何をもじもじしているのだろう。言いたい事があるならはっきりと伝えて貰える方がありがたいのだけど。
でも可愛らしいは正義だ。全てを許そうじゃないか。ご安心を、さっきからもじもじとしている姿勢はずっと眺めてても飽きないですから。待ちましょう。いつまでも。
じっと眺めていると、徐々に口を尖らせ、更にせわしくなくもじり出した。まるでトイレでも我慢しているようだ。これは眺めてないでトイレを勧めた方が良いのだろうか……こんな時はどう対処すればいんだっけ?
「……そ、その、貴方の事、もっといろいろ、知りたいな……って思っちゃった訳! もうっ! こんな事、女の子に言わせないでよ!!」
トイレじゃなかったみたい。俺の事が知りたいの? この前に脅されて概ねは伝えた筈だけども、それ以外の事となると……やっぱり未来の事か?
「いろいろ? ですか……。そうですね、あまり未来の事を知るのも良かれ悪かれありそうですけども、ここだけの話、消費税は10%になりますよ? そして健康保険料も年々値上げされていきますし、結構なペースで総理も変わるんですよ……」
「私、貴方の事って言ったわよね? そんな政治的な事実を知りたいんじゃなくて、私が知りたいのは……はぁ、なんか苦労しそう……」
先程まで可愛らしい態度と瞳だったのに、急にいつもの刺さるような目線と態度に戻った。
なんだ、この急変化は……。若い子って手のひら返しが早いわぁ~。モータでも仕込んでるんですか? その腕。
少し、いやかなりがっかりした様子でミルクティーをすする三条先輩を眺めながら、ブラック珈琲をあおった。




