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思ってた以上にお金持ち


 男性が女性に手作りしてもらいたい料理は数あれど、どの時代でも上位カーストに君臨するのが肉じゃが様。

 

 もちろん女性もその思いに応えるべく、日々邁進しているのだろうが、うちの部長みたいにごく稀にどんな料理も劇的に不味く調理してしまうという、特殊技能を持つ人も居る。


 そんな人達の積年の思いが結晶化して商品になったものがある。


 俗に言う、調味料をぶっかけて煮込めばOKシリーズだ。これの登場によって味が薄い、濃いのムラがなくなり、誰でも均一された味を出す事が簡単に出来るようになった。


 だが、俺は腐っても元板前だ。そんな甘えに乗っかるなどプライドが許さない。ニートをしていた奴が偉そうには言えないが。


 ここはプロの板前らしく、料理の基本【さしすせそ】で味付けしたく思う。いくら企業努力の結晶とはいえ、我々板前の力量を越えられていては商売あがったりである。ここは負ける訳にはいかないのだ。


「にしても調味料も含めてなんだかんだと結構買い込んでしまいましたが……お金は大丈夫だったのですか?」


 お支払いは三条先輩がささっと済ませてしまい、金額の詳細は不明だった。だが、肉じゃがの食材と最低限の調味料だけでも結構な金額になったかと思う。これはもう今月は活動出来ないかも知れない。


「大丈夫よ。お金ならいつもそれなりに持ってるわ」


 見た目の麗しさとは随分ギャップのファンシーな財布を見せてきた。中には諭吉先生がズラリとまあ……。


「ちょ!? どれだけ入れてんの!?」


 思わず素が出た。決してJKが持っていて良い金額では無い。いつもニコニコ現金払いの俺ですらその金額は入れないぞ?


「食費代わりに持たされてるのよ」


 ブルジョアか……待てよ? この子が部費代わりに食材代を出すのなら……毎日料理作らさせるんじゃね? そうなってくるともはやお抱えのシェフじゃん。


 それはきつい。もはやサークルの領域じゃない。ご自身でシェフを雇って下さい。


「あの……良かったら俺の料理よりも美味い物を出してくれる、いい料亭を紹介しましょうか?」


 俺が働いていた料亭だけどね。少々お高いが、若かりし料理長が存分に腕を振るってくれるますよ? 


「そういうのは間に合ってるわ。私は貴方が作ったお料理が食べたいの。でなければ私が作った料理の方がマシよ」


 んな訳ねえべ? 姉ちゃんが作ったもん、ありゃあ食べ物じゃねえべ? ありゃあ、炭って言うんだべ?


 って思わずなまっちまったよ。料理長の創作料理、まじで見た目まで美しいし、食ってもやっぱり美味いからさ。


 しかしちょっと変な空気になってしまった。金持ちではあるが、別段リッチな食事は望んでいないのか……。確かに秋刀魚とか肉じゃがとかお金持ちが率先して食べたがるメニューじゃないよな。


 求めているのは……家庭料理? もしかして飢えてるのか!? 家庭の味に!? そうか、そうだったのか!? お金では買えないもんな……。


「すみません……俺、なんて失礼な事を……分かりました! まだまだ未熟な俺ですが、腕によりをかけて作ります! 三条先輩からのリクエストの肉じゃがを!」


「ど、どうしたの急に熱入っちゃって……なんか変な勘違いしてるっぽいけど。まあいいわ、よろしくね、肉じゃが♪」


 美少女の屈託ない笑顔が向けられ、年甲斐御なく照れてしまった事は内緒にしておこうと思う。


 それに普段は少し近寄りがたいお嬢様オーラときつめの表情をしてるのに、サークル活動中は結構砕けた感じになるな。


 不覚にも心がときめいちゃったじゃないか……マジで天使だなこの子……。


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