あやか~エンディング~
あやかさんとの未来、お楽しみ下さい。
あやかエンディング
麗らかな日差しの中、少しばかり冷たい春の風に頬を撫でられながら校門をくぐり、馴染みのある廊下を歩いて職員室へと足を向けた。
「おはようございます」
扉を開けるなり挨拶を行い、頭を下げた。我ながら超優等生な態度である。ただ、内心はガッチガチに緊張しているんたげどね。
そもそも職員室なんて場所はリラックスするような所ではない。ここに召集される生徒は十中八九、学校に持って来てはいけない物を没収されて注意されるとか、なんらかの雑務を問答無用で押し付けられるかの二択だ。そんな場所に来てリラックスしろという方がおかしい。
それが元生徒としての感想である。
「おや、随分と緊張しているようですね。肩の力を抜いて気楽にして下さいよ。荻野先生」
教頭先生が軽く肩を叩いて緊張をほぐしてくれた。そんなスキル持っていたのか、この人……。当時はまったく関わり合いがなかったから謎の人だったけど。結構いい人じゃん!
そう、俺はこの春、無事に大学を卒業し、晴れて教師の道を歩むことになり、なんと母校へと就職したのだ。
「じゃあ、もろもろと細かい事は、そうですね誰か手の空いてそうな先生は——」
「あ、教頭先生、私が荻野先生のフォローをいたしまます」
愛らしい声をかけてきてくれたのは、当時俺が学生であった頃から教師陣営はもちろん、生徒からも断トツの人気を誇っていた美人女性教師。
しかしながら、そのふんわりとした雰囲気の中にも、芯はしっかりとしている印象を持つ女性。
中野あやか先生だった。
「そんなっ!? あやか先生がわざわざ……。はっ!? もしかしてあやか先生、あれですか!? 若い子が好みなんですか!? 男は歳を重ねた方が渋みが出てですね!?」
「いやいや、あんな貧相な体のどこがいいんですか!? 見て下さい、私のこの鍛え上げられた上腕二頭筋をッ! 彼の二倍、いや三倍はありますよ!?」
ひょろ細い眼鏡の数学教師と、ガチムチの体育教師がいきなり俺をディスってきた。
やんだ……この職場、秒で居たくなくなったんだけど?
「斎藤先生、山田先生、緊張している新米教師のひよこさんには優しくしてあげて下さいね♪」
「さあ、荻野先生! 今日は何処で飲みます!? 是非語り明かしましょう!」
「良い筋肉の付け方教えますよ? まずは乳酸を溜めるところからチャレンジしましょう!」
中野先生の一言で態度急変してすり寄ってきた。てかとりあえず良い筋肉は必要ないです。俺、国語の教師なので。お酒は大好きです♪ 今度奢って下さいね!
しかしこの間、中野先生が口角を上げていたことはバッチリ確認済みである。
俺じゃなきゃ見逃してたね。
≪
「いやあ変わってないですね……この学校」
「ふふ、どう? 懐かしの母校は」
オリエンテーリングとして中野先生と校舎を歩いてるのだが、卒業から四年程しか経っていないので、ほぼほぼ内装に変化はなかった。
「しかし、中野先生は相変わらずの人気ですね」
「みんな優しくしてくれるよ? こんなおばさんのどこがいいんだかね」
「おばさんではないですよ、だって二十八歳といってもまだまだ全然若々し——」
「修?」
急に愛らしいお顔が真顔になった。そしてすみません……女性に対して年齢の話題は失礼でしたね。
しかし学校で名前呼びは流石に不味くないですか? 誰も居ないから良かったものの、いくら彼氏彼女の関係とはいえ公私混同は……ね?
「す、すみません……口が滑りました。あ、そういえばここは変わりましたね」
「全く、そうやってすぐ誤魔化して……。そうね、ここは変わったわね」
二人が立ち止まった場所は、当時、大変お世話になった実験室……改め調理室だった。
「でもびっくりしましたよ、三条先輩が卒業して、俺が二年になったら中野先生がクラス担任になって、その上、部の顧問にまでなった時には」
「へへ……そこは私も驚きだよ。まさに運命の神様に微笑まれまくったって感じかな。今は生徒は授業中だし、久しぶりにちょっと入ってみよっか」
どうやら中野先生はこの学校から絶大な信頼を得ているのか、マスターキーを所持されている。
可愛いは正義だからな……。
懐かしの実験室改め、調理室に入ると、整然と並んだ調理器具が目に入った。また、各テーブルには水道やコンロは当然のごとく据え付けられており、メインのテーブルはアイランドキッチンとして設置されている。
また、メインテーブルの背後には三条先輩から寄付いただいた超一級の調理器具が厳重に施錠されて並んでいる。というか奉られてますね。
「いやあ、懐かしいですね……うわっ!? 俺の取った賞状、まだ額に入れて飾られてるじゃないですか……」
「何言ってるの? 生徒の功績は学校の功績だよ?」
料理サークルは三条先輩が卒業した為、廃部確定だと思っていたのだが、中野先生が必死に掛け合ってくれて、何かしらの結果を残すことを条件に存続を許可された。
完全に俺の料理を食べる事を目的にしてたんだろうけど。
しかしサークル活動では満足な部費もでないことから、どうしても部に昇格させる必要があった。
高校生を相手取るなど、完全にズルになるので気乗りはしなかったが、中野先生の懸命の努力を無にする訳にはいかないと、全国高校生対抗クッキングなる料理大会にソロで参加することにした。
こちとら元プロであり、その後も中野先生とは料サーで日々料理を作っていたので、ブランクもなかった為、優勝するのは容易だった。でも当時は随分と心を痛めたもんだ。
しかし宣伝効果は高く、何の実績も無い初参加の高校が、いきなり全国制覇を成し遂げたことにより、入部希望者はわんさか来るわ、取材も来るわで急遽、体裁を取り繕う為に実験室が取り壊されて調理室に変わったのが経緯だ。
当時の科学教師さんは涙目だったと思う。今も居るのかな?
「でもほんと懐かしいですよ、ここで三条先輩に毎日、毎日料理を作って……。OK、今すぐそのふくれっ面をやめようか? ここ学校ですから」
「……修はいっつも三条さんの胸を見てたって聞いてるからね!」
「すみません、どうか許して下さい……」
素直に頭を垂れてひれ伏した。こんなところ、他の教師陣に見られたら終わりだよ?
「でもほんと、どうして私なんかを選んじゃったのかなぁ……。今でも不思議で仕方ないよ。だって相手は世界にすら名を轟かせる財閥令嬢だよ? それに綺麗で胸もおっきくて――」
「俺もあやかの事が好きだった。それ以上の答えはありません」
拗ね気味の中野先生が途端、真っ赤に染まった。チョロイ……そんなところが可愛くて仕方ないんだが。
「も、もう! 急に名前で呼んで……こ、ここは学校だよ!?」
照れ隠しにぽかぽかと小突いてくる中野先生、もとい俺の彼女であるあやかを尻目に少し昔の事を思い出した。
≪≪≪≪≪
あのクリスマスの後、俺は人生最大の選択肢を迫られ、必ずどちらかを傷付けてしまうという恐怖から、決断を出せないでいた。結果、0時を迎えても判断を下せなかった。
家に居ても落ち着かなかったので、夢遊病かのごとくふらふらと外を歩き続けていたのだが、気が付けばあやかさんの家の前に立っていた。
そこではっきりとした。俺は無意識の内にあやかさんを選んでいた事に。
たが、時刻は約束の0時どころか、深夜二時を過ぎている。それにこんな時間にインターホンを鳴らすのもと、気が引けてしまい、マンションの近くでただただつっ立っていた。
どれくらいの時間が経ったのだろうか。その内、雪も降り出し、体も芯から冷え込んできた時だった。
「サンタさん……大遅刻だよ?」
背後から天使のような声がかかるや、そっと包み込むように抱き寄せてくれた。
あやかさんだった。
後に聞いた話だか、どうにも寝付けなくて気分転換に外に出て新鮮な空気を吸おうと思ったところ、俺が突っ立ってるのが見えたらしく、急いで降りて来てくれたらしい。
「……慌てんぼうのサンタクロースならぬ、唐変木のサンタクロースですから。時間、守れなくてすみません」
「へへ……知ってるよ。でもとっくに三条さんのところに居ると思ってたよ……。じゃあ、早速で申し訳ないけど、大遅刻したサンタさんからプレゼント貰っちゃおうっかな……」
あの凍えた唇に温かく柔らかい唇が重なる感触は、一生忘れる事の出来ない思い出となった。
≪≪≪≪≪
「でも三条さん、物凄い活躍だよね」
ふと、我に返ると調理器具を眺める中野先生――いや、あやかがいた。
「ええ、まさか三条財閥が料理長の華さんを抱え込んで、食を通じて世界相手に天下を取るとは思ってもみませんでしたよ。おかげで財閥の規模が更に大きくなったとか。それに、今でも料理長や三条先輩からの勧誘TELは体が震えますからね」
「うん、まさに蛇に睨まれたカエルだもんね。電話越しなのに」
どっちもいつも無理難題ふっかけてくるからなぁ……。それに今や三条財閥といえば世界の食を牛耳る財閥なのに、どうして一般人である俺を執拗なまでにスネークするのだろうか。
やっぱ胃袋掴んじゃったからかなぁ……。もしくは弟子にしようと狙っているのだろうか……。
うう、後者を考えると震えが。俺は教師をやるんだい!
「ねえ……後悔してるんじゃない? やっぱり一公務員と世界を股に掛ける財閥令嬢じゃ釣り合いが――」
悲しげな表情を浮かべるあやかの言葉を遮り、軽く唇と唇を合わせた。そのおかげで驚いて照れた顔に変わった。
「同じ事を何度も言わせないで下さい。俺は中野あやかを愛してるんです。高校生の時から変わらず」
「もぉ……ばかぁ……。ここ、学校だよぉ……。あ、あの頃はこんなことをする子じゃなかったのにぃ……」
小動物化したあやかは、この世の物とも思えない程の愛らしさを放つ。それの威光はかのデケぇの衝撃をも軽く上回る代物である。
てか、あの日以来、俺に恋愛のいろはを叩き込んだのはあやか本人ですからね? そりゃあ、俺だって慣れてきますよ。
恭介なんて俺の成長に対して、感涙に咽び泣いてましたからね。教師と生徒の関係性にも。
在学中は大変だったな、隠し通すの……。
「さあ、そろそろ行きましょうか、中野先生」
「ちょ、ちょっとぉ!? お姉さんを火照らすだけ火照らしてぇ……本当にもう……。ふふ、でもあの頃から変わらず、とっても幸せだよ♪ 次の楽しみは、荻野あやかになることかな♪」
その照れ笑う姿は初めて出会った時と同じく、心に響く素敵な歌を歌っていた時の屈託のない笑顔だった。
「はは、給料を三か月分溜めないといけないので、ちょっとだけ待っていて下さいね。にしてもそうなったら、この学校の教師や生徒を全員敵に回してしまいそうな気が……」
「ふふ、大丈夫! お姉さんがしっかりかばってあげるから安心しなさい!」
「はは、頼りにしてますよ。あ、そうそう、いつか言おうと思っていたのですが、あやかって元ギャルだったんですね。今のゆるふわの感じも好きですが、あれはあれで結構似合ってましたよ?」
「……ふぁっ!? なにその唐突なカミングアウト!? お、修? ま、まさか……あれ、み、見たの? てか、今、言う!?」
「はい。何やらクローゼットの奥にこれ見よがしに厳重に封印されてましたので好奇心が働いて。でも初めて見たのは結構前ですよ? 詳しくは忘れましたが、高校生の時だったのは確実です」
「いやあぁぁあああっ!? 昔から何度も見られてたぁぁぁ!! お墓まで持って行くつもりだったのにぃぃい!! ち、ちょっと修っ、待ちなさいっ!!」
実験室、もとい調理室のドアに手をかけ、少し意地悪な表情を作った。
「中野先生、ここ学校ですよ? 公私混同は控えてもらわないと♪」
「……か、帰ったら覚えてなさい! まず、記憶の抹消から始めるからね! こちんってするから覚悟しなさい! あと、三条さんにも連絡するからね! 泣き声作って苛められてるって言うから!」
その言葉に一気に血の気が引いた。三条先輩にはあの時、あやかを泣かすようなことがあらば、絶対に許さないと念を押されている。
それが三条先輩を選ばなかった俺に対しての、納得してくれる条件だった。
泣き声作って苛められてるって電話なんぞされた日には、俺、終わるよ?
「まじで洒落にならないから止めて下さい。全てを受け入れて罰を受けますから……。俺の尻が砕かれても良いんですか!?」
「ふっふ~ん、そこは修の態度次第かな? 言っておくけど、元ミュージシャンのお姉さんは、声にはまだまだ自信があるんだからね? 毎日の授業はボイトレみたいなものだし♪」
やっぱりいろんな意味で彼女の方が上のようだ。なんだかんだで尻にしかれてしまっている。ま、可愛らしいお尻だからウェルカムだが。
俺の彼女は怒った顔も笑った顔も可愛く、賑やかで一緒にいるだけで幸せになれる、素敵な女性。
あの時から変わらない笑顔を独占するためにも、一刻も早く自慢の嫁にランクアップさせないとな。
さあ、しっかり謝罪して、これから頑張って先生していきますかね。先輩教師の彼女と一緒に!
あやかさんとの恋物語はこちらをもって完結となります。沢山のあやかさん推しの皆様、応援ありがとうございました!
違う未来線のお話になってしまいましたが、二人とも幸せにでき、かつ後腐れも無いお話にまとめられて一安心しております。
三条先輩のライバルとして登場させたあやかさんですが、初登場時から絶大な人気を誇り、三条先輩をてこ入れしたのはよい思い出です。
そんなあやかさんのエンディングのご感想もお待ちしております!
思い起こせば本作が毎日投稿を突っ切ることが出来たのも、皆様からの応援が背中を押してくれたおかげです。
正直、こんな数のブクマや評価なんて、見たこともなかったですから(汗)
ただ後半になればなるほどストックも無くなり、なんとか途切れさせないようにと必死でした(笑)途中でストック切れを起こしたこともしばしば……。
そして実は本作執筆の裏で、もう一本作品を書き進めておりました!
(追い込まれることになった原因はこれです)
そのタイトルは……。
【その比率1:1000!男子校に開闢の始神、降臨す~その神が通学時間の短縮の為にと、俺の家に転がり込んできたのだが!?】
はい、なろうお決まりの長文タイトルですが、こちらも本作同様、安心安定のラブコメです。
先日よりこそっと投稿しておりますので、『胃袋掴む話のやつ、遂に終わっちまったなぁ……』というロスにも対応できますよ!(露骨な番宣です♪)
それでは最後になりますが、今まで沢山の応援、ありがとうございました!
そして、これからもよろしくお願いいたします!
おゆゆ




