やっと気づいた……
立花さんに車で送迎されたのは、見覚えのある高級マンション。お礼を述べ、走り去るテールランプを見送った後、ひとつ大きく深呼吸をして歩みを進めた。
マンション内のエントランスに立ち、あやかさんの部屋番号を押した。その際には言葉は発せられず、無言で自動ドアが開いた。
入ってきていい。と判断した俺はエントランスを抜け、部屋に向かい、インターホンを押した。
すると中から頬を少し染めたあやかさんが出てきた。服装は先程のよそ行き仕様ではなく、いつものようなラフな服装になっていた。
「……どうぞ、入って」
言葉に従い、玄関に張り付けられているお札に鳥肌を立たせながらも、後に続いて部屋にお邪魔させてもらった。
酔いの方はほとんど覚めている様子ではあるが、妙にそわそわしている様子が見られる。
「……あの。三条先輩からあやかさんの家に行ってこいって言われまして」
「う、うん。そういう約束したから……。来てくれたって事は、まだ結論は出してないって事だよね……。良かった……。はは、ごめんね、パーティの終盤ぐらいから緊張し過ぎてお酒飲み過ぎちゃって……」
えっと、やっぱり話の流れが超展開過ぎてついていけないんですけど?
「その顔……理解が追い付いていないでしょ? 三条さんに怒られなかった?」
怒られました。そして……謎の告白と別れを告げられました。
「は、はい。あと三条先輩から告白されて……」
「むぅ……そうだよ。三条さんは修君の事がずっと好きだったんだよ」
ああ、そうなんですか……。今にして思えば随分と距離も近かったし、なんかそんな雰囲気を出していたような気もしなくはないような、あるような……。
でもいつも胃袋がどうのとかいって茶化してたし、JKの冗談におっさんの俺が本気になるのもどうかと、予防線を張っていたんだけど……。
素直に受け止めておけば良かったのかぁぁ……。
「やっと理解したみたいだね。さ、そうと分かれば早く三条さんのところに戻ってあげて?」
あれ? ちょっと待てよ? 今までの行為が冗談ではなくて、好きから出た行動であれば……あやかさんも同じような行動してたよね? いっつも張り合ってたし。
それに三条先輩はあやかさんと話をして来いって……。それってつまり、もしかして……。
「ほらほら、何してるの? 女の子を待たせるのは紳士の行動じゃないでしょ?」
急かし立てて背中を押して玄関に誘導するあやかさんに逆らい、振り返って顔を見た。
「や……見ちゃダメだよぉ……違うの、これはね……」
その一瞬で見えたあやかさんの愛らしい顔は……泣き崩れていた。
「あやかさん……ちゃんと話をして下さい」
「は、話は、もう……終わったよ……早く、三条さんのところに……」
少し強引に背中を押すあやかさん。とはいえ、こちとら体は現役高校生。女性に力負けする程ひ弱くはない。
「あやかさん?」
脚に力をいれ、体を強張らせてその場所に立ち止まった。そして感じるこの胸が痛み……。あやかさんのこの行動理念から導き出される答えはただ一つ。
「あやかさんも俺の事を……?」
先程までの俺を押す力が一気に無くなり、ゆっくりと顔を向けてきた。可愛らしい顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。
「今頃気付かないでよぉ……。お姉さんさ、諦めようと頑張ってたんだよぉ……」
その表情は喜んでいるようにも、悲しんでいるようにも見えた。モナリザではないが、角度にって見える感情が違う。
「言わない予定だったんだよぉ……。お姉さんも、修君が好きだってことぉ……」
おうふ……やっと点が線になった。
俺、二人の美女から告白されてるじゃん!! 何!? この唐突なモテ気襲来は!! いや、よくよく考えたら恭介からも匂わすような発言はあった……。『三条先輩も家庭教師の先生も大変だな』と。
あいつ、気付いてたんなら言ってくれよぉ!!
「時間無くなっちゃうよ……0時までに戻らないと。でも一言だけ大きな独り言を言わせてね『今までありがとう……』」
急に力を入れられたおかげで踏ん張ることが出来ず、そのまま玄関まで押され、あやかさんがドアノブに手をかけた時だった。
玄関上部に祭られていたお札が落ちてきた。その瞬間、全身の毛が逆立ったのは言うまでもない。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あやかさんっっ!! お札、お札ぁ、オフダぁぁーーー!!」
「ちょ、修君!? 落ち着いて!? 何が安いの!? 一体何が——ひゃああっ、ちょちょっと!? そんなに激しく抱きつかれたら、お、お姉さんねぇ!?」
OFFじゃなくて、オフだ、お札ですぅぅぅう!!
と心で叫んあやかさんに飛びついた。要らぬ誤解かつボディタッチをしてしまった件については、後程、誠心誠意謝罪させてもらった。




