修、正体を暴かれる
放課後、授業が終わると共に三条先輩がまたまた教室に現れ、クラスメイトから怪奇の目を向けらているのもお構いなしに、無抵抗な俺を拉致していった。
とは言っても縄でフン縛られたりするような真似はされず、三条先輩の一歩前を歩かされただけだが。
このままダッシュすれば逃げれる可能性は高いだろう。でも多分、一回でも逃亡したら次はリアルに縄を持って来る可能性はあると思う。この子はそういう子だ。
そして辿り着いたのは、先日ボヤ騒ぎを隠ぺいした実験室という名の部室。
確かに実験器具なんかを取り扱うのでガスはもちろんのこと、水道や冷蔵庫までも完備されており、料理をする分には不自由はない。
……とでも言うと思いましたか? 実験室で調理なんてめちゃめちゃ不自由なんですけど? 改めてだけど実験室で料理って無理がありますよね? ここ、カエルの解剖とかする場所ですよ?
カエルはまあ……実はあれ、案外美味いらしいけどさ。なんか鶏肉っぽいって言われてるし。残念ながら俺の修業した料亭では扱ったことは無かったけど。
「あの~三条先輩? 今日も何か作るんですか?」
「もちろんよ」
「でも冷蔵庫、空ですけど?」
部外者が触ると噛み付かれるという冷蔵庫のドアを全開にして、中を見せてあげた。こんなこと料理長にしたら確実に頭を叩かれそうだが。
冷蔵庫の中には厳密に言えば脇にドレッシングやマヨ、ソース類は何本かあるのだが、メインの庫内は何も入っていない。
昨日も魚が一匹入ってただけだし。当然追加もされていないので絶賛電力の無駄遣い中だ。
「ええ、食材はまだ仕入れていないから当然でしょ?」
段取り、悪くないですか? 世の中には段取り八分という言葉が有ってですね……。
さっきから何度も例に出して悪いですが、料理長の前でやったら首絞められますよ? 故人を悪く言うのはあれだが……あ、いや、この時代だとご健在だったな。
「はいはい、そうでございましたね……じゃあ、材料の買い出しなら慣れてますので、俺がちゃちゃっと行って来ましょうか? 駅前に昔馴染みのスーパーがありますから」
「一体何を考えているの? 二人しか居ないサークルなのに別行動するって意味が分からな……ん? 昔馴染み? あの新しく出来たお店のことを言ってるのかしら? 駅前のスーパーって確か一週間前にオープンしたばかりよね?」
あ、しまった……どうも時間軸がまだ体に馴染んでこないんだよな。そういえばこの時代はまだオープンしたてだったか。
「じょ、冗談ですよ、冗談。すでに何度かは行ってるので常連ぶってしまっただけです。やだなぁ。三条先輩も真に受けないで下さいよぉ~」
「ふぅん……冗談ねぇ。新装開店したスーパーを昔馴染み呼ばわり……か。貴方って高校一年生の割に妙に落ち着いてるところもあるし、まるで未来からでも来た人みたいね」
まさかのズバリ言い当てられた!?
厳密に言うとタイムスリップとタイムリープの差があるので、ちょっと違うが、バレると色々と厄介な事には変わりない。ここはなんとしてでも誤魔化さなくては!
「ちょっ!? そ、そんな訳ないじゃないですか!! あ、ありえないですよ!? そもそも、そんな非科学的な事が現実に起こりえる訳ないですから! 令和の世の中に何を言って——あ、いや今、平成か。あ、な、何でもないですっ!!」
やべえ! ボロがどんどん出てくる! 令和なんて未来言語、この時代の子に分かる筈ないじゃん!!
「なに、その焦り方……。それにレイワって何? 貴方……何を隠してるの? 正直に話しなさい」
「い、いやだなぁ~。だから何度も言ってるでしょ? 冗談ですよ、冗談! ははっ、三条先輩もノリが悪いんですから!」
「分かったわ。あくまで冗談でシラを切り通すつもりなら、私にも考えがあるわ。いい? 私はね、貴方に胸を揉みたくられたって泣きながら職員室に駆けこむ事だって出来るのよ?」
「実はですね、お嬢さん。何を隠そう私は未来の記憶があるのです」
速攻でぶっちゃけた。
胸を揉みたくられたって嘘は言ったらダメでしょうよ……。デケぇのをお持ちなので信ぴょう性が跳ね上がるんですよ? そうなった場合、100%の冤罪が起こりますから。
クソ……存外に自分の体をよく理解していらっしゃるじゃありませんか……。
 




