家庭教師としての時間
頭寒足熱。部屋には小さいながらもこたつを置き、窓を少し開けて冬の清々しい冷気を部屋に取り込みながら、勉強をしている今日この頃。
個人的には頭が冴えるし、気分が乗るので結構気に入っているのだか、手が冷たくなるのが弱点ではある。
あやかさんのおかげで随分と学力も身に着いたし、僭越ながら二度目の人生でやっと勉強の仕方のコツも分かったような気がする。
「うん、バッチリだね。ほんとにもう教える事が無くなっちゃったって感じかな」
あやかさん作の模擬テストを解いて提出したところ、太鼓判を押してもらえた。ちなみに少女漫画による恋愛教室はあれからも引き続きやってはいるのだが、今日は本来の授業を進めてもらっている。
「何と言っても先生が超優秀ですからね。俺みたいな底辺の人間を頂点に引っ張ってくれた訳ですから」
「そんな事ないよ。修君の努力の賜物だよ? あ、でも1%ぐらいはズルかな? だって二回目だもんね?」
勉強に関してはほとんどチートは発動出来てないのですが。ぶっちゃけ、特典としてついてきたのは調理技術だけですから。
「私の方も無事に教員免許は取得出来そうだよ。これで晴れて来年の春には教師になれそうだよ」
その言葉に少し悲しくなった。教師になるという事は家庭教師の仕事をやめるということになる。この関係はずっとは続かない。あやかさんの授業が受けれる時間はもう残り少ない。
「ん? どうしたのかな? そんな哀愁漂う顔をして。歳がバレちゃうぞ?」
「何を言ってるんですか。体はピッチピチの十六歳ですよ? 脳内年齢が高いだけですから」
テンポよく返したつもりだったのだが、なぜかその後、あやかさんは暗い顔になった。
別段、変な事は言ったつもりはないのだが……機嫌を損ねた? いや、そんな言葉はなかったように思えるが。
「……ねえ、修君って年上の女性ってどう思う?」
神妙な顔つきで尋られた。年上の女性……どこまで年上なのかにもよるけども、嫌いではありませんね。いや、自分の心に正直になろう。
大好物です。
年下が嫌いと言う訳ではないのだが、理解のある大人の思考を持つ方が好みではある。
「好きですよ?」
「そっか、そうだよね、年上の女性なんて……うぇ!? す、好きなの!?」
こたつの天板をたたきつけ、ドアップで迫って来た。
「そ、そ、それは!? いくつまで!? やっぱり高校生としての上限である十八歳ぐらいまでだよね!?」
な、なんだこの熱量は……。冬場で窓も開けて風を通しているのに汗が出てくるぞ?
「別に十八歳までという訳では……もっと年を重ねている方でも全然——」
「じゃあさ!? 二十歳は!? いえ、二十歳超えて二十二歳とかはっ!?」
遂におデコがついた。どうした、あやかさん? 地味に恥ずかしいのですが?
「も、問題はないかと、なんなら三十歳を越えても全然オッケーですが。なんならそっちの方が……」
「それはやり過ぎ。君は今は高校生なんだよ? 二十二歳までにしなさい」
一気に冷めた目を向けられた。まじでどうしたあやかさん?
「は、はあ……それじゃあその辺で手打ちにしておきます……。じゃあ今度の授業はもう年末に入りますし、年明けでいいですかね?」
「うん、そうだね。あと少しで私の家庭教師ももう終わりだね。寂しいでしょ?」
「はい……非常に残念です。こんな時間がずっと続けばいいなと思っていたぐらいですから」
あやかさんの勉強の教え方は神がかっている。これ以上に教えるのが上手な方はそういないだろう。ある程度コツは掴んだものの、今後は独学で勉強することになる。少々不安である事は事実だ。
「……ずるいぞ、そんな事言うなんて。お姉さん、我慢出来なくなっちゃうじゃないの……」
え? 何がずるいの? 勉強の話ですよね?
頬を膨らましてこたつ布団をもみもみしている姿が非常に愛らしい。お姉さんキャラなのに唐突に可愛いキャラになるもんだからギャップ萌えが捗る捗る。
それに黒髪も似合ってますね。なんかより一層若く見えますよ。
「良し……言おう。もう言っちゃえ! あ、あの、修君!? クリスマスなんだけども!!」
「うおっ!? は、はい!?」
急にまた迫ってきたので咄嗟に声が出た。びっくりするじゃないですか……。
「い、いいの!?」
なにがよ……。今、質問自体ありました? 待って? 満面の笑みなんだけど?
「にひぃ! 嬉しい! そうと決まればこうしちゃいられない。今日は晩御飯は遠慮させてもらうね! じゃあね、修君!」
手早く荷物をまとめ出て行ってしまった……。
勢いに流されてしまったが、話の流れから察するに、クリスマスの日に約束を取り付けられた感じだよな……。
うぉおおい! まずいですって!? クリスマスには三条先輩と約束してるんですよぉ! Wブッキングじゃないか!!
止なければ! てか俺、何の返事もしてませんよね!? 誤解ですし、誤認も甚だしいのですが!?
「あ、あやかさん!? ま、待って!?」
「さっきから騒がしい」
「おんふぅぅ~あがっっとぉ!?」
部屋を出た瞬間、通りすがりの雪に尻を蹴り上げられ、その瞬間、体が浮いた。久々に蹴られたぁ……。




