華麗なる家族の裏切り
「はいいっっ!? ちょ……ちょっ待てよぉぉ!?」
師走のバタバタとした忙しなさと、クリスマスが近づいてきて高揚感が増す今日この頃、事件は夕飯を食べ終えたあと、リビングで起こった。
ちなみに某有名人風の『ちょっと待ってくれ』を演じたのだが、誰もツッコんでくれない件ね。似てなかったのは認める。
「いいじゃん。お兄ちゃんは留守番で」
冷酷無比な一言を投げてくるのは妹の雪だ。
事の発端は、ちょいちょい短期の出張を繰り返していた親父が、家族サービスにと温泉旅行券を持って帰ってきたのだが、何故か俺が仲間外れになりかけている。
「おい、雪!? それは酷くねえか!? 俺ら、血を分けた家族だろ!? なのにそんな――よし、分かった。その目は止めようか。人間ってさ、語り合う事で相互の理解を深めることが出来る、唯一の存在であるからしてだな……」
勢いよく反論したのだが、途中で雪の眼光が鋭くなったのを感じ、低姿勢に進路変更した。
あの目、俺じゃなきゃ見逃してたね。完全に獲物をロックした鷹の眼差しだった。
「はいはい、お前らじゃれ合うんじゃない♪」
「親父の目には、この一方的な脅迫がじゃれてるように見えるのか? 完全に獲物を狩るハンターの目をしてたぞ? あいつ、さっき殺意の波動に目覚めてたから!」
相変わらず状況を読めないダメ親父め! 少しは空気を読みやがれっ!
今、絶賛話題に上がっている温泉旅行券は、この年末クリスマスイブとクリスマスを挟んだ二泊三日の日程となっており、五人まで有効であった。
その人選としては親父、お袋、俺、雪。この四人で決まりと思い込んでいたが、『一人分もったいないわねぇ』とお袋が口走ったのが大きく事態を変えることになった。
「チケット余らせるより、お兄ちゃんが抜けて私の友達を二人誘う方が有効だと思うんだけど? そうしようよ」
なんてことを何食わぬ顔で言いやがったのだ。鬼や、この妹、マジで鬼やでぇ……。ねえ、俺、どれだけ前世で妹に対して罪深い事をしたの?
「う~ん、まあいいんじゃない?」
そしてお袋だけは味方をしてくれると思っていたんだけども、簡単に裏切られる始末……。あれ? 家族で送る暖かいクリスマスパーティは?
過去に戻ってまで、またシングルベルを鳴らすの?
「留守番係の修はこの誰もいなくなった家で、みくちゃんか、あやかちゃんのどちらかを呼んで、二人きりのクリスマスパーティでもすればいいじゃない」
「へっ?」
お袋からの提案に雪も頷いて賛同している。その表情からは『まったく、ダメ兄貴、ここまでお膳立てしないとダメなの?』とかなり見下してきてはいるが。
「いい加減に二股かけるのはやめて、ここいらでどちらかを選びなさい。はい、これ」
お袋は意味不明な事を言いながら四角い箱を渡してきた。厳重に包装してあるが……っておいっ!! これ、あれじゃねえか!?
使った事ねえけど、俺の中身はおっさんなんだぞ!? 親が子供に渡す物じゃねえだろう!!
「お袋、頭おかしいんじゃ……よし母娘揃って構えるのはよそうな? はい、ありがたく受け取らせていただきますぅ!!」
雪と同じ姿勢でこちらを向いてる……DVだ、虐待だ……俺は悲しいぞ? ちなみに雪はこれが何か知っているのだろうか。最近のJCって怖いな……。
「はっはっは。いいんじゃないか父さんも高校生の頃は、母さんと当時仲の良かった女の子の友達を毎年家に誘ってパーティをしたもんだ!」
はい? そんな修羅場を毎年? うん、馬鹿だわ、この親父。
「ほんと、神がかった自分の忍耐力を褒めてあげたいわよ……」
お袋がしみじみと語った。普通、二人の女の子をクリスマスに誘うか? 俺はこんな意味の分からない行動をする男の血を受け継いでいるのか……。
ともかく、これでクリスマスの一家団欒の夢は儚く消え失せた訳だ。
「あのなあ、三条先輩とあやかさんにも選ぶ権利ってやつがあるんだ。何をトチ狂って俺とクリスマスを過ごしたいなんて思うんだ?」
「そうだな、天下の三条財閥のご息女とあの綺麗な家庭教師の先生だろ? 常識的に考えて許嫁や彼氏が普通にいるわな!」
「正論をぶつけられると凹むからやめてくれ……」
こうなったら一人でケーキとチキンを爆食いしてやろうと、企んでいたところ、全く持って同じ目で俺を蔑んだ瞳で見てるく母娘が居た。
「全く一緒ね……」
「はぁ……馬鹿兄貴」
親父と揃って綺麗にディスられた、解せぬ。




