教育実習終了
実験室。今日も普段通り料サーの活動は行われており、部長の三条先輩とゲストのあやかさんが居る。のだけども、少し部室の雰囲気は暗い。
「はぁ……教育実習も、もう終わりかぁ……」
あやかさんが肩を落としながら吐露した。約二週間の日程を終え、本日が最後の登校日となっている。概ね評判は良く、単位の取得も問題なさそうである。
これでいよいよミュージシャンの道は閉ざされ、教師の道が確定したことになる。
「確かに教育実習は最後ですが、家庭教師はまだ続けてもらってますからね。これが今生の別れという訳でもありませんから。そんな悲しげな顔しないで下さいよ」
「私としては料サーで食べれる分量が元に戻るから万々歳だけど」
ええい、そこで皮肉を入れないの。ちゃんと最近は二人前作ってるでしょ?
「ふふ、三条さん?」
「何ですか?」
「食べ過ぎは肥満の元だよ?」
「中野先生、一度外に出て話をしましょうか?」
なにやら向こうで戦争が勃発しようとしてる。まあこれもいつもの風景である。明日からはもう見れない風景だけど。
「さあ、今日は寒さも厳しいですからね。体が温まるようにと、こんなの作ってみました。はい、特製中華卵スープです」
「「美味しそうぉ~♪」」
先程までの険悪な空気はどこへやら。声を揃えて無邪気な笑顔を向ける二人。ほんと、この二人は美味しそうに食べてくれるよなぁ。
そんな変わらない風景。でも変わらないものなんてない。三条先輩も年が明ければもう卒業だ。あやかさんも教育実習が終わればもうこの学校に来ることはない。
料サーも俺一人になってしまうし、そうなってしまってはソロのサークルなんて学校が認めてくれる訳もないので、間違いなく解体されるだろう。
三条先輩が短い期間なりにも一人でサークル活動を行えていたのは、きっと三条の名の下によるものが大きいだろう。荻野の名では箸にも棒にもかからない。それに加え、部長である三条さんの意思により部員は募集していないので部にも昇格出来ない。
廃部一直線のサークル、料サー。場所はともかくとして、これだけの設備があるのに非常に惜しい。かといって俺が部員を集めて引き継ぐのもなぁ……。
でも待てよ? 料理サークルだったら女の子の後輩達が入ってくれるかも? そうだ、例え同級生で彼女が出来なくても後輩なら……ワンチャンあるんじゃね!?
「はい、今、絶対良からぬ事を企んでいるわね」
「先生は悲しいよ?」
二人は随分と目を細めて俺を見つめて……いや、睨んでますね。いつの間にか脳内を覗かれたのかな? もしくは人を見た目で判断して一方的な決めつけてます?
「な、何を言ってるんですか、俺はこの料サーをいかにして盛り上げていくかを考えてですね……」
とりあえず、ここは誤魔化しておこう。それっぽい事を言って危険を回避だ!
「盛り上げるねぇ……。はっ、そ、それってもしかしてクリスマス料理とかの事を考えてるの!?」
目を輝かせてデケぇを揺らしながら迫って来た。てか目の錯覚かな? デケぇがさらにデケぇになっているような気がするのですけど。反動が依然よりも……。
成長……してます?
「ま、まあ……そうですね」
胸に見とれていたことがバレようものなら、新たな火種になるのは子供でも、恭介でも分かる。なので自然な感じを装い、話を繋げてみた。ちなみにクリスマス料理なんて一切考えてなかったけどね。
「ち、ちょっと!? それはズルいよ!? 私だって修君の作るクリスマス料理食べてみたいよぉ!」
「残念ですが、料サーは在学生並び教師しか参加できませんから」
「ぐぐぐっ……。ひ、卑怯だよ! せめてテイクアウトしてよぉ!
」
必死に食らい付くあやかさんに、鬼の首を取ったようなドヤ顔を決める三条先輩。女子高生マウントを取っておられる。
でもあまり和の世界では、クリスマスに特化した行事や料理って少ないんですよねぇ。それに板前だってたまにはケーキを食べたい時だってあるんですよ? 人間だもの。
しかしクリスマスか……。今年もまたシングルベルが鳴り響きそうだ……。いやいや、大丈夫か。今の俺には家族が……温かい家族が居るもんな。
久しぶりにみんなでケーキやチキンを食って、賑やかな団らんをしてやるんだ。
ふふ、あの頃と変わらないと言えばそれまでもかも知れないが、久方ぶりの賑やかなクリスマスに胸が躍るというものだ。
板前をしている時は、深夜のコンビニでカットケーキを買って、ろうそく一本立てて一人寂しく食べてたもんな。
ふ、やめよう。こんな湿っぽい話は。あれ、服の袖が濡れてらぁ。雨漏りかな? ははっ……。




