あやかサイド~尾行~
職員室での終礼を終え、担任の先生と少しお話したあと、いつものように足取り軽く実験室へと向かった。
今日はどんなお料理を作って胃袋を掴まれちゃうのかなぁ♪ とっても楽しみで――
実験室の扉に手をかけて引いたんだけども、一向にドアがスライドしない。何度も力を入れて引いてみるも結果は同じ。微動だにしない。
遂に鍵をかけて侵入を妨害してきた? そう来ちゃいました?
咄嗟にガラス越しに部屋の中を覗いて見たのだけど、おかしなことに室内に二人が居る様子はなかった。
……今日金曜日じゃないのに、サークル活動していない? そりゃあ、二人だけのサークルだし、たまには用事があって活動しない日もあるのかもしれないけど。
誰も居ないのにずっとここに居ても仕方がないと諦めて踵を返し、顎に手を置きつつ思いを巡らせて廊下を歩いていると、見覚えのある子が女の子と仲良く歩いている姿が見えた。
確か修君とは同じクラスで仲が良かった友達……とその彼女さんかな? てかあの女の子、胸部が誰かさんと同じで高校生にしては破格の成長を遂げてるんだけど? 冬服でそこまでの存在感出すってよっぽどだよね?
その成長具合でまだ高校一年生なんだよね? 世の中おかしくない? 不公平だよ。どうなってんのよ、最近の若い子達は。
「にしても今日の三条先輩はいつになく攻めてたよなぁ。あの修を強引にデートに誘うなんてさ」
「そうだね、意外に三条先輩って初心だもんね」
なん……で……すって?
で、デート!? お、落ち着くのよ、あやか。今は息を殺して、気配も消してあの子達の後を付けるのよ。
「それにしてもクレープを食べながら公園デートか。俺達もよくしたよなぁ~」
「そうだね、ふふ、恭介ったら最初の頃、ガッチガチに緊張してたもんね!」
「そりゃあ、大好きな女の子と二人っきりになれるんだぜ? 緊張のひとつやふた——ひいいっ!? な、中野先生いっっ!?」
「二人とも? ちょ~っと時間いいかなぁ? そのクレープ屋さんを先生に紹介してくれないかなぁ~? あと、公園の場所も!」
気が付けば気配を消して後を付ける事など、秒で忘却の彼方に葬り去られ、渾身の力を込めて男子生徒の肩を掴んでいた。
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職権を駆使して強制的にクレープ屋さんまでの地図を書いてもらい、足早に向かうとパステルカラーを基調としたポップな看板が見えた。どうやらあそこが例のクレープ屋さんみたい。
その店先には一組の男女の高校生が見える。間違いない、遠目でも分かる程のあの胸部のサイズ感。三条さんだ。
そっと二人の死角になるように隠れ、聞き耳を立てた。
「ふふ、美味しそうね。私はイチゴのクレープにしたわ。貴方は?」
「俺はスタンダードなやつにしましょうかね。あ、チョコバナナいただけますか?」
お互い商品を注文すると、しばし店先で雑談したあと商品を受け取り移動して行った。恐らく向かう先は公園。
にしても何処からどう見てもお似合いのカップル像だよ……。制服デートってこんなに尊いものだったなんて……。
やはり年の差の壁は……。
胸が苦しくなった。私は一体何をしているんだろうか。高校生にストーキングする教師の卵なんて普通いないよ……。
罪悪感に駆り立てながらも二人から離れることは出来ず、そのまま公園の中にまで付いてきてしまった。
二人はベンチに座り、楽しそうに話をしながらクレープを食している。やはり何処からどう見ても恋人同士にしか見えない。
「しかしあれですよ? 生クリームは消化されにくい物質なので、食べ過ぎるとお腹がぴっぴになり——」
「今その情報は要らないわ。折角の美味しさが三割は削がれたわよ? どう責任取るつもり?」
「じゃ、じゃあお詫びに雑学をひとつ、イチゴは実は野菜なんです」
「それは驚き。ふふ、仕方ないから許してあげるわ」
……楽しそうに話してるなぁ。内容はちょっとあれだけど。てかイチゴって野菜なんだ。確かに草という弦から生ってるものね……。
そんな何の得にもならない雑学を披露する辺りはおじさんっぽいね。まさに見た目は子供、頭脳は……げふんげふん。あれとはちょっと状況が違うか。修君はタイムリープだし。
「うん、美味しかったですね。たまにはこういった料理もいいですね。それじゃあ次は駅まで送ればいいんですよね?」
「貴方のイベントを機械的にこなしていくその姿勢、いただけないわよ? だから彼女いないのよ?」
ズバリ同じ意見。完全に恋愛の脳が欠落してるもんね。
「い、いいじゃないですか! 誰にも迷惑かけてないでしょ!? 彼女なんて居なくったて、彼女なんて……ふぐぅぅぅぅっ!!」
「めっちゃ悔しそうだけどね? ほら、恭介君とか見てて羨ましくないの?」
「羨ましいか羨ましくないかで言えばそりゃあ、羨ましいですかね。ま、そんなの微々たるものですよ? 毎日ノロケ話を聞かされて奥歯が擦り減ってる程度ですから」
「末期じゃないの。そのままじゃ奥歯無くなるわよ。歯医者さんに行きなさい」
そして相反して彼女の存在自体には憧れてるってのよね……。
「あと、それなら。も、もしもよ? わ、私が彼女になってあげる……って言ったら?」
っ!? さ、三条さん!? う、嘘!? ここで告白ぅ!?
飛び出して妨害しようと脳裏によぎったが、拳を固く握りしめ、その場に留まった。もう無駄だと悟ったから。
女性の私から言うのもなんだけど、あんな美人で女性の頂点に立つようなスタイルの持ち主に、上目遣いで迫られて断れる男性なんていない。
うん、終わった。私の恋。そう、もともと高校生に恋をするなんておかしな話だったんだよ……。
うう、さっきから涙がぽろぽろと零れ落ちてくるよぉ……。後は修君の返事を聞いたらそっと立ち去ろう。これ以上は辛くて……。
「はは、その手には乗りませんよ? また人をからかって。ご存じの通りこう見えても中身は大人なんですよ? はい、駅まで送りますから立って立って」
あ、あれ? なんか様子が……。
「ちょ、ちょっと待って!? 今、告白の中でもかなり使用頻度の高いテンプレートだったわよね!? それに結構私、頑張ったんだけど!?」
「もしもの話でしょ? 仮の話なんてしても仕方ありませんよ。ほら、置いていきますよ?」
「ちょ、ちょっと待ってよ!? ねえ、どこまで唐変木なの!? 頭のネジ二、三本飛んでるんじゃない!?」
「し、失礼ですね!? 誰が唐変木ですか!! れっきとしたジェントルマンですぅ!」
「はい!? 貴方のどこがジェントルマンなのよ!? だいたいね——」
二人はその場から立ち去り、声も聞き取れなくなった。表現し難い感情を胸に秘め、二人が座っていたベンチに腰を降ろした。
一つの想いを胸に秘めて……。




