みく、魅せる!
授業終了のベルが鳴り、担任の横に並んで見学していたあやかさんも教室を後にした。それと入れ違うかのように教室に入って来るのは三条先輩。
もはや自分のクラスと変わらない勢いで入って来ますね。そして誰もその行為に対して注意も咎めもしない件ね。美人とデケぇは免罪符になっているようだ。
「お疲れ様です、三条先輩。今日は何を作りましょうかね。ま、とりあえず駅前のスーパーに行って旬の物を見繕って——」
「いいえ、今日はサークル活動はお休みにするわ」
その一言に教室内にはどよめきが走った。外野からは『つ、ついに山が動いた!?』や『風雲急を告げるのか!?』など、さっきまでの授業が歴史であったことも影響してか、妙に回りくどい言い方が飛び交った。
「あ、そうですか。じゃあ俺、今日は帰りますね」
サークル活度が無いのなら迷う事なくレッツ帰宅だ。別に引き籠るのが好きと言う訳ではないが、最近寒くなってきたし、用も無いのに無駄に寒い外に居る必要もないからな。
そんな至極当然の回答を三条先輩にお伝えしたところ、周囲から重いため息が吐かれた。そう、いたるところから。
「貴方って人は……。ううん、大丈夫、こっちもおかげさまで慣れてきてるわ。言っておくけども今日は一歩も引かないわよ」
顔を真っ赤にして大きく息を吸い込み、こちらを再び見据えてきた。頬を染め、心なしか涙ぐんでいるようにも見えるが。
ただ、大きな歩幅でこちらに向かい、無言で俺を壁際まで追いやったかと思うと、いきなり腕を突き出すや俺の耳の横を通り過ぎ、壁に手を付いた。
大きな瞳とデケぇが超近い。なんならデケぇに関しては接触まで紙一重だ……。
それにしてもこの体勢……。これ、噂に聞く壁ドンじゃね? この時代からあったっけ? まあどちらにしても女の子が男にする時点でレアケースだけどね。
そしてこの場の雰囲気よ。なに? 今から何が始まる訳?
「さ、三条先輩? 一体何を……」
「後輩君っ! 今日は放課後デートをするわよ!! クレープ食べて、公園でしゃべって、家まで送って!」
「おおっ……遂に女神が……自ら……」
「えんだぁぁぁぁ~いやあぁぁぁ~!!」
「幸せに、幸せになって下ざいぃぃい……」
クラスメイトの驚愕の声があちらこちらから上がった。てかうめき声に近いような声も交じっているような気もするが。
今、三条先輩が述べた内容自体は、俺の中では別段初めて聞く内容ではない。なぜなら、恭介からほぼ毎日に近いほど聞かされているルーティンであるからだ。
ただ、それは恋人同士だからこそ許される所作であって、サークルの先輩と後輩の関係で行っても良いものなのだろうか……。
う~ん……でもよくよく考えたら、普段と比べて場所と食べ物が変わっているだけだよな。食べ物も俺が作るか作らないかの差だけだし、サークルがある日は毎日三条先輩を駅まで送ってるし。
よくよく考えたら毎日のルーティンとそう変わらなくね?
「は、はい。いいですよ?」
俺がそう答えると、次の瞬間、歓喜の声が上がった。そして三条先輩は力が抜けたようになよなよと床に座り込んでしまった。
スカート、汚れますよ?
「や、やった……はっ!? き、気を抜いちゃダメ……。ここはあくまでスタート地点。みさきちゃんもここは何度も通過したって言ってた……」
内股になった状態で、生まれ出る小鹿さんの足どりで再び立ち上がった。一体彼女は何がしたいのだろうか。
ともかく、クレープを食べて、公園で味の感想を伝えて、駅まで送ればいいんですよね?
だがそれをデートというのか? そもそもデートって何をするんだ? 高校生なんて暇はあれど金はないし、免許もないから遠出も出来ない。
まあ、大人になっても軽トラに乗って店と魚河岸の往復しかしなかったし、飲み代ぐらいにしか金なんて使わなかったもんな……。
「とりあえず、あんまりゆっくりしてると日も暮れちゃいますので、さくっと行きましょう」
「う、うん! 行こ行こっ! ちょ、ちょっと待って!? マフラー忘れてるわよ!」
いや、あのマフラーは……。え? マジでつけるの?




