教育実習生あやか先生
「じゃあこの問題を……はい、荻野君、答えてくれる?」
「あ、はい……。答えは②です」
「はい、正解です」
ホームルームにて簡単な自己紹介を終えると、そのまま担任が見守る中、あやかさんの授業が始まった。そして当然かのように早々に問題を当てられた。
慣れない環境で知り合いが居るのなら、まずは最初に白羽の矢が刺さるのは道理である。とはいえ、しっかり予習、復習に余念の無い俺に答えられない問題ではない。無論、しっかりと正解したのだが……。
「では次はこの問題を……続いて荻野君、答えてくれる?」
「え? ま、また俺? いいですけど。えっと③です」
「はい、正解です。じゃあこのまま次の問題もいっちゃいましょう。それじゃあ、荻野君」
「中野先生!? ちょっと指名が偏り過ぎてはいませんかね!?」
思わずツッコんでしまった、きっとクラスメイト並び担任の先生も思っていた事だろう。
いくら名前を知っているのが俺だけとはいえ、手元に名簿があるのだからどうとでもなるだろうに……。
「ご、ごめんなさい、私、き、緊張してて……。つい同じ生徒ばかり指名しちゃって。そ、その、ごめんなさい……」
俯き、やや涙声になって謝罪するあやかさん。流石は世界の歌姫のポテンシャルを持つお方。透き通った綺麗な声なので、悲しみの臨場感が半端じゃない。心にまで強く訴えかけてくるものがある。
それにそんなに萎れちゃうと、こちらとしても罪悪感を感じるというか……。あれ? クラスの皆様? 特に男共、どうして俺をそんな汚物を見るような目を向けてるのかな?
「荻野! お前、教育実習の先生に対して失礼だぞ! 慣れてないんだから仕方がないじゃないか! 何問連続でも答えやがれ! 何だったら俺が代わりに答えてやってもいいんだぞ!? 正解する自信はないけどなぁ!!」
「あんな可愛い人を悲しませるなんて……。お前には感情というものはないのか!? 何処に置いてきたんだよ! 今すぐ探して来いよ!! タンスの裏にでも落っことしてんじゃねえのか!?」
「てめえの血は何色だ!? おおぉぉん!?」
お前らボロクソかよ。ちなみに血の色は赤だよ。ちゃんと俺の体の中ではヘモグロビンが仕事しとるわ。
「み、みんな、静かに! 今は授業中だよ!」
「「「はい」」」
ピタリと一致した返事の後、教室内が静まり返った。
あのなぁ……可愛い人に弱過ぎじゃねえか? うちのクラスの男共は全員童貞ですか? まあ、基本そうだろうけど。経験がある方が希少種だろうが。
無論、俺も童貞だがな! でも大丈夫。だって俺、今は高校生だし!? 標準標準。別におかしくもなんともないし!
おっさん、なんか空しくなってきた……。
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すったもんだあったあやか先生の授業が終わり、休み時間になったので恭介がこちらにやってきた。
「なあ、あの教育実習生の中野先生ってさ……。髪の色が変わってるけど、俺の見間違えじゃなければもしかして……」
「ああ……俺の家庭教師の先生だよ……」
失礼な話だが、ちゃんと大学生してるじゃないですか、しっかり単位は取ってたんですね。
しかしまさか栄光の音楽の道を蹴って教師になるつもりなのか? 確かに教え方は抜群のセンスがあるし、声も通るので適性は高いかも知れないが……。
しかしまさかウチの高校に、ましてや俺のクラスに教育実習生として現れるとは……。そんな話、一切聞いていなかったぞ?
サプライズにも程がある。それに栗色の髪がばっちり黒髪になってるし……。
三条先輩は……知らないだろうな。なんだろう、寒気が……。絶対ひと悶着あるじゃん。せめての救いなのは向こうも大人の対応してくれているという事だ。これでいつものノリで来られた日には……。
考えるだけでも恐ろしい。三条先輩は雪直伝の足技を習得しちゃってるんですよ……。
「修って波乱の人生歩んでるよなぁ……」
まあ、波乱っちゃ波乱だな。高校生を二回するなんてそうある事ではないだろう。とりあえず、放課後だ。放課後が来るのが恐ろしい……。




