新しい過去
一大イベントの文化祭も終わり、日を追うごとに徐々に色濃くなる秋の風景。少し前まで暑かったようにも思っていたのだが、最近は冷たい風を感じるようになってきた。
こうなってくると体が温まる料理が恋しくなる今日この頃である。今日の料サーのメニューは鍋にでもしようかな。
「なあ、修。ひとつのマフラーを二人で付けるのってどう思う?」
ホームルームが始まる少し前、やや険しい顔をして俺の席に向かってくる恭介。ただ、聞かれている質問は珈琲に砂糖大さじ三杯ぶっこむぐらいの質量はある。俺は無糖ブラック派だ。そんな甘ったるい珈琲なんて吐いちまうぜ、ぺっ!!
「不便、危険、行きたい方向に行けない。リア充は夜空で爆散して綺麗な大輪の花火を咲かせ、非リア充に心の安らぎを与えて欲しいと思ってる」
「最後、並々ならぬ邪悪な意思を感じたのだが?」
何の脈絡もなく質問された答えだが、俺は先日から相合傘ならぬ、相合マフラーをして首元も心も温めている超絶バカップルを知ってる。
目の前に居る奴がその片割れだけどな。
「その件についてなんだが、俺も謝らねばならないんだ……ほれ」
親指をノールックで後方に向ける恭介。その指先は教室の出入り口に向けられていた。否、正確には教室の出入り口に立つ女性に。
その女性は俺の視線に気付くと、にやりと笑みを浮かべ、自身の首に巻いた真っ赤な長いマフラーの余った部分を振り回し出した。
超ロングサイズのマフラーであり、まるでカウボーイの投げ縄である。そして間違いなく俺が狙われている。
「……恭介、どうしてこうなった?」
「この前の金曜日、咲と一緒に帰っているところ三条先輩に見られてさ……。ちなみにあれ、手編みらしいぞ」
金曜日……。料サーの活動が無かった土日で仕上げてきたのか。あの超ロングマフラーを。案外手先が器用なんですね……。
「三条さん、またこんなところで……。さあ、ホームルーム始まりますよ! 早く自分のクラスへ戻りなさい!」
三条先輩がいつもぎりぎりまで俺達の教室にたむろするので、担任がわざわざ俺達の教室の前を通るようになって久しい。朝に顔を出す三条先輩をしょっ引く為に。
先生、毎日ご苦労様です。今日も早めにお持ち帰りして下さい。
「はは、もはやこの学校の風物詩だな。一日一回は三条先輩のデケぇ——おほん、顔を見ないと落ち着かないもんな」
「俺はお前達が順応していることに驚きだよ。あと恭介はエロい目線で見るなよな。相手に失礼だぞ?」
「ほう?」
「すまん」
とりあえず速攻で謝った。これは俺が悪かった。ぶっちゃけ偽善ぶった。
完全に自分の事を棚に上げてしまったが、デケぇは最高です。俺も毎朝欠かさず見てしまってます。
「おら、荻野に草加! いつまで喋ってんだ! 席に戻れ!」
「うへぇ、じゃ、また後でな!」
恭介のせいで俺まで怒られてしまったではないか。しかし帰りにあのマフラーで捕縛されて連行されるのは確実だな。そんなことをせずともちゃんと料サーには顔を出しますって……。
「え~、今日はお前達に朗報がある。驚け、なんと教育実習生をつれてきたぞ」
担任が教壇の前に立つと、突拍子もない言葉を投げて来た。教育実習生? 俺の過去の記憶にそんなイベントはなかった筈だ……がぁぁぁぁっ!?
教室全体がざわついた。恭介も俺の方を見て口をパクパクさせている。まるでまな板の上の鯉のように。
だが俺はもっと酷い。あまりの驚きに埴輪みたいに口を全開まで開けたままとなっている。パッカーンフリーズ状態だ。
担任に呼ばれ、教壇の前に立ったのは女性だった。
黒色の髪を後ろでひとつに束ね、毅然とした態度をとっていらっしゃる。しかしながら体全体から溢れ出る愛らしさは隠しきれず、全身にゆめかわオーラ的なものを覆っているのが感じ取れる。
「みさなん、初めまして。このクラスに教育実習生としてしばらくお世話になります、中野あやかと申します。担当は英語になります。宜しくお願いいたします」
うちのクラスにやってきた教育実習生は……髪の毛を黒染したあやかさんだった。




