謝罪
お化け屋敷から出ると、その重たい足取りで賑わいのある校舎から少し離れ、人気の少ない校舎裏にある小さな池のある庭園空間のベンチに腰掛けた。どこの学校にもこういう場所ってあるよね……。
先程から俺の頭の中では謝罪の言葉と言い訳が渦巻いており、体裁を保つだけで精いっぱいである。当の三条先輩はなにやら頬を随分と気にしてるのが気になるが。
よし、このまま黙っていても仕方ない。先手必勝、ここは一秒でも早く誠心誠意謝るしかない!
「「あの……」」
被った。
何故このタイミングで被っちゃうの? 大分長い時間無言だったのに……。
「わ、私は後でいいわ、貴方からどうぞ」
「さ、三条先輩こそお先にどうぞ? 俺は後で……」
「「……」」
はい、ツボった。これ、前に進まないやつね。どうしよう、さっきの勢い完全に挫かれちゃったよぉ……。
暗闇の中で不可抗力であったにせよ、三条先輩のデケぇを触ってしまった事は事実だ。今までは偶発的に触れる事はあったが、手の平でがっつり掴んでしまったのは、どうあがいても言い逃れは出来ない。
責任問題だ。故にどんな罰も甘んじて受ける次第だ。例え、朝、昼、晩の料理を所望されても俺は『ハイっ!』と答えるだろう。喜んで調理に励ませてもらおう。
だからお願い、お巡りさんには、お巡りさんにだけは連絡しないでぇ……。前科持ちになるの嫌ぁぁ……。
「……暗がりでするなんて、ちょっとズルい……わよ?」
頬に手を置き、上目使いで俺を見てきた。これでもかというほど色っぽく、そして随分幼くも見えた。ただ照れてるだけの顔じゃないような……。
「ち、違うんです! わざとじゃないんです! ほら、まっくらで何も見えなくて……」
「でも凄くドキドキ……しちゃったわ。私、初めてなのよ?」
おぅ……のぅ……。すみません、俺が三条先輩の初めてデケぇを触ったクソ野郎ですぅ。いいですよ? ぶん殴ってくれても。遠慮なくどうぞ!!
「すみません!! とはいえ、強引にしてしまったのは事実です! 何でも言う事を聞きますのでどうか、どうか平にご容赦を! どうか、私にご慈悲をぉぉ!!」
「確かにほっぺたとはいえ、もう少し雰囲気ある場所でして欲しかったのはあるかな……。いいよ、許してあげる。でもその代わり……次のキスは期待しても……いい?」
ん? なんだ? どうしてさっきからキスの話になっているんだ? 俺のデケぇを触った件は一体どこにいったの?
「あの三条先輩? キスって……その、胸の件は?」
「え? 胸? 何の話?」
おかしいさっきから話が全くかみ合っていない。
「えっと……こんなこと自分で言うのもなんですが、俺、あの暗がりで三条先輩の胸を触ってしまったと思ったんですが……。それに俺、キスなんてしてませんよ? 全く見えませんでしたし」
「私、胸なんて触られてないわよ……え? じゃああの感触は……?」
三条先輩の紅潮していた顔色が一気に青ざめて行くのが分かる。尚、俺も同じ状態であろう。あの密室空間でお互い違うものに触れている、それはつまり……。
「「お化け!?」」
秋空の下、三条先輩と肩を寄せ合って恐怖に震えた。俺は一体誰の何を触ったんだよぉ……。
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「お、あんなところにいた! ってなんでそんなにげっそりしてるんだよ、二人とも……」
聞きなれた声が耳に届いた。執事の恭介とメイドの佐川さんだ。美男美女のほんとお似合いのカップルである。
「でもべったりくっついてますねぇ……。あまり校内でそういうのは見せない方がいいですよ? 流石に先生から指導が入りますから」
ふと我に返り自分の様子を見ると三条先輩に抱き着き、抱きつかれている状態であった。デケぇを押し潰してしまっている。こういう接触はよくあるんだが……。
「す、す、すみませんっ!」
「わ、私こそっ!」
佐川さんの言葉に磁石が反発し合うように離れた。前にもあったようなシチュエーションだが、完全に恐怖に肉体も精神も蝕まれてるからそこに邪な感情はない。
ただ今になってあのデケぇと密着していたという事実に感動……げふんげふん。してる場合じゃない。とりあえずあの謎の感触はもう忘れよう……。お化けなんていないさ……。
「ま、なんだかんだで大丈夫そうだな。じゃあ俺達は店番変わる時間だから戻るわな」
「ふふ、どうぞごゆっくり」
どうやら俺達を心配して追いかけてきてくれたらしい。自分達もゆっくり文化祭を回りたいだろうに。変な気を使わせてしまったなぁ……。
高校生に気を使われるおっさんて……。よしっ! 決めた!
「……三条先輩?」
「ん、どうしたの?」
ベンチから立ち上がり、手を差し伸べた。
「今から実験室に行って料サーの活動してもいいですか? あいつらには随分と迷惑かけましたし、打ち上げの時の差し入れでも用意しようと思いまして。ただその……人数も多いですし調理を手伝ってもらえないかな~って……」
「……もう、本当に貴方って人は。折角二人で回ってる文化祭なのに……。はぁ、でも仕方ないわね。可愛い部員の頼みだし、部長として許可してあげるわ」
俺の手を握って勢いよく立ち上がり、もう片方の手でサムズアップしてくれた。尚、未だに余波でバインバインしてる。反動がつくとそんなに揺れ弾むものなのですね。
「ははっ……今日はちゃんと手伝って下さいよ? 食べてばっかりいないで」
「むっ! 私はこれでもダイエット頑張ってるのよ!? それに食べてばっかりじゃないわよ! ほら、この前だって出汁巻きたまごを作ったじゃない!」
「いつの話ですか、それ……」
気が付けばいつもの距離感で話をしている自分が居た。今にして思えば、JKと気さくに会話出来るようになるなんて、とんでもない進歩だよなぁ……。




